衆参両院本会議では3日、各党代表質問が行われ、野党は「論客」で鳴らした石破茂首相の持論に照準を合わせた。選択的夫婦別姓制度や「核共有」といったテーマを巡り、首相からかつての歯切れの良さは見られず、「石破カラー」はすっかり霧消した格好だ。
「まるで別人になったようだ。『評論家首相』で終わるのか。首相になりたかっただけなのか」。3日の参院本会議で立憲民主党の辻元清美代表代行は、若手の頃から議論する間柄だったという首相の今のありようを批判した。
辻元氏が最初に挙げたのは経済政策だ。アベノミクスによる金融緩和などに批判的だった首相に対し、「『(富が中・低所得者層にも波及する)トリクルダウンは起きなかった』と言った。今も同じ認識か」と追及。これに対し、首相は「実質賃金が伸び悩み、個人消費も力強さを欠いていた」と述べつつも、国内総生産(GDP)や企業収益の増加につながったと賛辞を並べた。
辻元氏は、2023〜27年度の防衛費を約43兆円とした政府方針に関し、首相が円安傾向を踏まえた見直しの必要性を唱えていたことを引き合いに「言葉通り点検すべきだ」と迫った。これについても首相は「計画に基づき達成すべく努める」と手元の資料を読み上げた。
自民総裁選中は意欲をにじませた選択的夫婦別姓に関して、首相は「世論調査で意見は分かれている」と様子見の姿勢。米国との「核の共有、持ち込み」検討を主張したことを「はっきりしてほしい」とただされると、「非核三原則や法体系の関係から認められない」とあっさり後退した。
安倍政権以降、首相は政府・与党の中枢から次第に遠ざかり、各政策に独自のスタンスで臨んできた。衆院本会議では立民の小川淳也幹事長が、かつて首相が消費税10%超の必要性に言及した真意を質問。首相は「引き上げを具体的に検討しているわけではない」と釈明し、金融所得課税強化についても「検討する考えはない」と事実上封印した。
衆院選大敗で政権基盤は弱体化し、「政治とカネ」の年内決着を掲げる首相にとって、「それ以外のテーマに注力する余裕がない」(政府関係者)のが実情だ。ただ、自民内からは「もともと、深い考えもなく言っていたのではないか」(中堅)と手厳しい声も上がる。
辻元氏は、首相が所信表明演説で取り上げた石橋湛山元首相に触れ、「石橋氏は『最もつまらぬタイプは自分の考えを持たない政治家だ』と言っている。このままではつまらない政治家になってしまう」と指摘。「よく自重自戒していきたい」。首相は低姿勢でこう応じた。