革靴はもはや“絶滅危惧種”。なくなる前に買っておきたい「2つの名品」

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2024年12月04日 16:21  日刊SPA!

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写真はトリッカーズ公式オンラインGMT inc.より
―[シューフィッターこまつ]―
こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。

皆さんは革靴を履いていますか? 靴に携わってはや20数年。筆者は、いわゆる本格革靴は絶滅すると思っています。もし、「憧れの1足」があるのであれば、至急買っておいたほうがいいとアドバイスします。それはなぜか? ファッションのカジュアル化とともに消費者が圧倒的に「ラク」を選択した結果なのです。

◆本格革靴の需要が激減している

現在の靴業界において、革靴の需要は激減し、すべてスニーカーに置き換わっています。ネクタイと同様に、本格革靴は滅びゆくジャンルだと言っていいでしょう。革靴はつくりの工程が多く、工程にある一社でも倒産してしまうと、ドミノ倒しになります。革自体の生産もSDGsの影響で生産が縮小していることもあり、明日、その革靴工場が存続しているかは誰にもわかりません。

一方、スニーカーの生産は、中国からベトナムやミャンマーへと工場は移っていますが、工程が簡単でマニュアル化されているので、簡単に工場を変えることができます。本格革靴にもマニュアルはあるのですが、専用マシーンを操る職人の技術が必要なので、後継や工場移転が簡単にはできません。いったん失われたものは二度と取り返せないのです。

使う素材も革だけでなく、裁断、加工、縫製と靴にする前の段階の過程が非常に多くあります。歯車と同じで、どれか一つが欠けても革靴はできあがりません。また、革はもちろん、靴の部材はインフレで信じられないくらい高騰を続けています。釘、接着剤に至るまで昨年の2倍、3倍はあたりまえ。本格革靴になれば片足で50パーツ以上はあるので、靴の価格はとんでもないことになります。現状はメーカーや職人、ショップスタッフに至るまで限界を超え、泣いて我慢してつくっているのが実情です。

そういった事情があるため、本格革靴のメーカーはレザースニーカーなど簡易的につくれる靴に商品構成をシフトしています。いいか悪いかではなく、そうしなければ生き残れないからです。象徴的な例として、コロナ以降に、リーガルがレザースニーカーをつくり始めたことが挙げられます。ずいぶん前にキャンバススニーカーはつくっていたのですが、スニーカーへのシフトが明確になった瞬間だと思います。革靴といえば世代をまたいでリーガル、というイメージでしたが、「丈夫で硬くて重い」革靴から「とにかく軽くて柔らかい」スニーカーにシフトしたことは靴業界に衝撃を与えました。ベルルッティなどの「超」がつく高級革靴メーカーも同様です。現在、販売は7割以上がレザースニーカーだと言われています。良し悪しではあく、そういう時代なのです。

同時にアシックスなどの大手スポーツメーカーが本格的に革靴市場に進出してきたのも拍車をかけています。アシックスのハイテク革靴は軽くて柔らかいうえに防水透湿などにも優れ、大変便利です。重くて硬い本格革靴は消費者からますます敬遠されていくでしょう。

◆革靴は履きつぶして終わりの時代に

本来的には、足にフィットした本格革靴は長距離歩行が可能で、足が痛くなるなんてこともありません。しかし、その奇跡の1足に出合うまでに、出費と失敗が必要です。いまどきそんな余裕のある方は靴が趣味のマニアだけなのです。

本格靴の代表的なつくりに「グッドイヤーウェルテッド製法」というものがあり、何回でも底を取りかえることができます。しかし、「一度も底の張替えをしないまま買い替えられるケースが9割以上」とは、ある本格革靴店のショップスタッフの一言。なぜなら、靴底交換も値上がりが激しく、2万円の出費が必要だからです。スニーカーであれば新品が1〜2足は買えてしまいます。カカトの交換だけでも今は3000〜4000円。

たしかに革靴はメンテナンスをして、修理をしながら履けば10年はもちます。残念ながら、そこまでの経済的な余裕も愛着もない人が圧倒的に多くなりました。よほどの革靴マニアでなければ、GUやネットで売られている簡易的な革靴を数千円で買って、履きつぶすほうが現実的なのです。

◆いつか消える前に手に入れたい名品。トリッカーズとリーガルの至高の一足

そこで、いつかなくなってしまうであろう本格革靴として、ぜひ手に入れてほしい靴があります。まずは英国トリッカーズの「ストウ」。通称カントリーブーツです。定価は13万2000円ですが、楽天などの並行輸入であれば同じものがまだ5万円ちょっとで買えます。

私も20代から愛用しており、現在は2代目を10年以上履いています。優雅でありながら、とにかくタフの一言。このモデルがきっかけで靴職人になり、革靴の世界にのめりこむ方も本当に多い。通称が「カントリー」という名の通り、本来は泥の田舎道(カントリーサイド)を歩くための靴です。履いてなじむまで半年ほどはかかりますが、馴染んでしまえば年を追うごとに風貌が化けていきます。ケアさえすれば雨も雪も関係ありません。トリッカーズの職人から聞いたところによると、なぜか本国イギリスでは人気がなく、イタリアと日本が主な販売先というのが面白いところです。

◆戦後世代が履いていた「古き良き革靴」

次に、リーガル「2236NA」。3万8500円。1972年(!)から売れ続けている、革靴といえばリーガルの代表モデルです。ではあるのですが、生産数は加速度的に減っていて、購入されるほとんどの方がリピーター。今さらですが、リーガルは日本の会社です。旧名がまんま「日本製靴」。さすが昭和生まれのモデルだけあって、「ザ・幅広甲高」モデル。いやもう、本当によくできています。キズがついてもどうということがない肉厚なシュリンクレザー、当たり前のグッドイヤーウェルテッド製法、なんせこの存在感。底も今は珍しい革底ですが、ヒールだけはゴムでできており、意外に滑りません。

直接足があたる「中底」(中敷きではありません、もっとつまさきの方です)がタンニンなめしの革でできていて、吸湿性はどんなハイテク素材もかないません。私自身この靴を数十足とリペアしてきましたが、くさかった靴は1足もありませんでした。タンニンなめしの革というのは汗を吸うだけでなく、抗菌効果があります。その分原価も高いのですが、快適さを知ってしまうと戻れません。この靴、リペアを前提につくられているので、どこがどう壊れても本当に修理がしやすいのも特徴です。

戦後世代が履いていた「古き良き革靴」は探せばまだ残ってはいます。しかし私の目から見ると、品質はガタ落ちしています。アメリカの超名門の10万円を超えるような革靴もびっくりするような低品質の素材を使っていたりします。表参道にあった名門チャーチは、日本からはほぼ撤退しました。あれが欲しかったのにと悔やんでももう遅いという時代がきています。

本格革靴の衰退は、「硬い・高い」が原因です。この先、安い革靴のマーケットもスニーカーにどんどん奪われていくでしょう。絶滅危惧種である「憧れの革靴」は、買えるうちに買っておきましょう。

<文/シューフィッターこまつ>

―[シューフィッターこまつ]―

【シューフィッターこまつ】
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『シューフィッターこまつ 足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ」

このニュースに関するつぶやき

  • リーガルの革靴持ってたけど、あまり活躍させられなかったな。元はといえばむかし撮影モデルやったとき購入したような。足音は革底ならでわのものがある。
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