「都道府県魅力度ランキング最下位」から“脱出した”茨城県。躍進を支えた公式YouTubeの登録者数は「全国2位」

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2025年01月14日 09:01  日刊SPA!

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竜神大吊橋
新型コロナウイルスによる行動制限が解除されてから、1年半ほど経った。閑古鳥が鳴いていた各地の観光地もかつての賑わいを取り戻している。
毎年、発表されるたびに大きな話題となる「都道府県魅力度ランキング」でも、「観光資源の豊富さ」が順位に大きく影響しているはず。

さて、2024年の同ランキングにおいて注目したいのが、前年最下位に甘んじていた茨城県が45位にランクアップしたことだ。同県は15年連続で最下位だった「観光意欲度」の項目でも46位となっている。他県民からするとわずかな差かもしれまいが、当事者からすると“大きな一歩”であるはずだ。

茨城県はこれまで何を思い、どんな活動をしてきたのか――魅力発信を担当する県庁のプロモーションチームリーダーの菊池克実氏に話を聞いた。菊池氏が現職の直前に所属していたのが、まさに観光セクション。県内をくまなく歩き回って、地域の人々と新しい魅力を創り出す仕事をしていたそうだ。

◆「何もなかった場所」が人気の観光地になるまで

茨城の人気観光地のひとつが常陸太田市の竜神大吊橋。長さは375メートルに及び、水面からの高さは100メートルという巨大な橋だ。大自然のど真ん中に架けられているため、季節ごとの絶景が楽しめるスポット。しかし、観光資源の最大活用の面からみると課題はあった。

「これまで竜神大吊橋は日中に見て帰るスポットで、夜には人が来ない場所でした。夜のマネタイズの意識がないので、消費といってもせいぜい『缶コーヒー』くらいになってしまいます」(菊池氏、以下同じ)

とはいえ、絶景がウリの吊橋。夜に人が来ないのも仕方がないように思えるが。

「常陸太田市役所の皆さんと何度か話をする中で、静寂で神秘的な雰囲気に包まれるなかで、ものすごくキレイな星空が広がっているという話が出たんです。『夜は何もない』ではなく『むしろ夜がいいんじゃないか』と」

夜は施設を閉めるものだという固定観念から、今まで見過ごされてきた、“夜だからこその見どころ”が発見された瞬間だった。これに一捻りを加えて売り出すことにする。

「市役所の皆さんがすごい熱量があって。本当は夜に施設を開けると施設管理の面でいくつも課題があるんですが、それ程時間をかけずに、橋の上にコタツを置いて星空を見ながら食事ができるようにしました。この地域の名物である『けんちんそば』や『蕎麦焼酎』を楽しんでいただく企画で、他にはない人気コンテンツになったんです。嬉しいことにテレビでの紹介も多く、アニメ『サザエさん』のオープニング(2023年10月〜2023年12月)でも紹介されています」

◆「ランキングを意識した活動」ではない

徐々に茨城の魅力が全国に伝播し、最下位脱出という成果にも結びついたのだろう。ただ、菊池氏は「ランクアップ自体はいいことですが、私たちは、都道府県魅力度ランキングを向上させることを目的としているわけではありません」と主張。では、菊池氏の牽引するプロモーションチームはどんな思いで活動しているのか。

「私の所属する『営業戦略部』は、大井川和彦知事(2017年9月〜現職)が就任後 に立ち上げたセクションです。人口が減るトレンドは変えられないなかで、手をこまねいていれば県内の経済も小さくなっていく……。私たちは、どうすれば外から人とお金を呼び込み、県内にプラスの効果をもたらせるのかを常に考え続けています。観光や特産品などの分野で新しい価値や魅力を生み出すことと、それらを攻めの姿勢でインパクトにある形で県外に発信していくことを両輪で進めることを心掛けています」

◆全28種…大反響の「女将カード」ができるまで

既存の行政による広報活動の意義は、「正確な情報を広く届けるもの」がメインとなる。しかしながら、菊池氏は「我々が目指しているのは、情報を受け取った人の記憶に深く刺さり、残り、その後、行く、食べる、買うといった行動変容に結び付くこと」とする。ゆえに「尖った」発信が必要だと考えているという。例を挙げると、菊池氏が前職時代の2023年に大型観光キャンペーンのプロモーションとして実施した、袋菓子「マイク・ポップコーン」(ジャパンフリトレー株式会社/本社:茨城県古河市)を使った企画だ。

「袋の裏に、プロ野球チップスのようなカードをつけました。入っているのは、茨城の旅館の『女将カード』です(笑)。全28種あり、それぞれ戦闘力も書かれているので、バトルもできるようになっています」

当初は、菓子メーカーの担当者にも意図が伝わらなかった。周りの人ほとんどが「そんなもの誰が欲しいの、売れないよ」と反対意見だらけのなか、主役である女将衆と当時の担当者(小林直人氏)の推進力によって、奇跡的に実現にこぎつけた。

「旅や観光の目的は、美しい景色や美味しい食べ物。ですが、リピートにつながったり、ファンになったりするのに真に必要なのは『人』の魅力ではないかと。パッと頭に浮かんだのが、コロナ禍で苦労されながらも明るく頑張ってきた旅館の女将さんたちでした」

茨城に来てもらうことを目的としているため、原則として県内のみでの取り扱い。それでも、発売するとあっという間に注目を集め、即完売。大きな話題を呼び、すべての在京民放テレビで紹介されるほどの成功を収めた。

◆女将が立ち上がるなら…今度は若旦那たちが表舞台に

実は、茨城が「東京から近い」のは、諸刃の剣であったようだ。

「すぐ来れるぶん、目的地だけを楽しんですぐ帰ってしまうパターンが少なくありません。できれば食事をしたり、泊まってもらったりしてほしいのが本音。女将カードで、旅館を利用してもらうきっかけを作れました。でも個人的に何より大きかったのは、『茨城がなんか面白いことやってるぞ』という評価や、『不安だったけど、こんなに喜んでもらえてやって良かった』という女将さんたちの声でした」

女将カードのメディア露出の広告換算額は、数十億円にものぼる大成功だったという。そして今年の観光キャンペーンでも、「想像超え」をキーワードに新しい企画へ踏み出した。

「実は女将カードは2年連続でやったので、次もカードという予想を覆したかった。天邪鬼なので『今度はそうきたか』と言わせたい。そこで、純烈さんをイメージして、昭和歌謡ユニット『いばらき若旦那』を作りました。旅館の跡取りである若旦那をオーデションで集めて結成したんです。オリジナル楽曲を作り、CDやカセットテープを販売しています。メンバーが自分の旅館でコンサート付きディナーも開催しています。実は、カードになった女将さんの息子さんもメンバーになっているんですよ」

◆“万人受けを捨てた”YouTubeは全国2位の座に

突飛な施策を次々と繰り出す茨城県は、YouTubeでも存在感を示している。都道府県の公式チャンネルにおいて、茨城県の「いばキラTV」の登録者数が東京都に次いで全国2位、総視聴回数でも同2位となっており、他の追随を許さない。

実は全国で唯一、民放のローカルテレビ局がない茨城県。YouTubeチャンネルはその代替として県民向けに県内のニュースや情報を配信していた。現在は観光スポット紹介など県外視聴者向けのコンテンツも多く投稿。そのタッチは、行政主導のチャンネルと思えない軽快さとキャッチーさが目をひく。

「テレビを見ないZ世代を含む34歳以下の若い層にもアプローチできるように考えながら制作しています」

若年層にリーチするコンテンツにすべく、YouTubeチャンネルに関わっているのは、チーム内でも若いメンバーたちとのことだ。それでも、群雄割拠のYouTubeで動画を見てもらい、チャンネル登録をしてもらうのは、とても簡単ではない。

「自治体のチャンネルでは『全員に受け入れられるように』『無難に』という方向性になりがちです。しかし、それでは結局誰からも『あなたが1番だ』とは言ってもらえませんよね。だからこそ、万人受けではなく、誰に届けたいのか、誰のどういった行動変容を促したいのか、『ターゲットに深く刺さり行動を変えさせる』ことを強く意識しています」

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魅力度ランキング上位常連組の北海道や京都は、すでに“こすられすぎた”観光のイメージがある。菊池氏は「茨城は逆に、まだ観光のイメージの少ない県なのでそこが勝機」とこぶしを握る。

“本気を出した”茨城県に触発される自治体もあるだろう。2025年度以降の魅力度ランキングはより熾烈な争いが繰り広げられるかもしれない。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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  • 「都道府県魅力度ランキング最下位」と魅力のない県はイコールでないのにねー
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