中国EVバッテリー「大量廃棄」問題が深刻…高まる環境負荷、薄まる利点

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2025年02月15日 18:00  Business Journal

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「Unsplash」より

 2012年に米国で発売されたテスラ「モデルS」が世界的な電気自動車(EV)の流れを加速し、2014年には中国でもBYDなどの主要メーカーがEVを本格的に販売し始め、今や中国は世界最大のEV市場となった。


 しかし、「EV元年」とされる2014年から10年が経ち、使用済みEVバッテリーの廃棄問題が深刻化している。


 中国公安省の発表によれば、2024 年12月末時点で中国全土の自動車保有台数は3億5300万台、そのうちEVを含む新エネルギー車は3140万台だ。その多くが10年内に寿命を迎え、大量の車載バッテリーのリサイクル問題が生じる。路線バスのEV化が急速に進んだため、すでにバッテリー交換の大波が押し寄せている。


 EVバッテリーは、劣化する消耗品であるため、使用推奨期限が定められている。中国では2016年から、乗用車向け車載バッテリーの品質保証は新車登録日から8年間、もしくは走行距離が12万キロまでという基準が設けられている。


 世界のリチウムイオン電池廃棄量の94%が中国で発生しており、その量は年々増加している。中国における使用済み車載バッテリーの回収量は2023年に62万3000トンだったが、2025年に120万トン、2030年には600万トンに増える見通しだ。


正規ルートでの回収リサイクルは2割

 中国のEVバッテリーのリサイクルはどんなふうに行われているのか。自動車技術のコンテンツ制作を専門とするオートインサイト株式会社代表で日経BP総研未来ラボの客員研究員を務める鶴原吉郎氏に話を聞いた。


「通常のリサイクル処理方法は、バッテリーを粉砕して遠心分離などにより重さの比重で粗く材料を分別し、さらに溶液を使った化学的な方法で分離していく。中国全土には150社くらい正規のリサイクル業者(政府認定の会社)があり、BYDやCATL(Contemporary Amperex Technology Co. Ltd.)などの大手はそうした業者と提携している。CATLは世界最大のEVバッテリーメーカーで、自社でリサイクルに乗り出したりもしている。ただ、そうした正規ルートでリサイクルされているバッテリーの量は2割ぐらいと言われており、8割は非正規業者で処理されている」


 正規ルートでの回収率が2割とはかなり低いようにも思えるが、どうしてそのような状況になったのか。


「2022年頃、バッテリー材料のリチウムやマンガン、ニッケル、コバルトなどの価格が上がった。リチウムは従来1kg1000円だったものが8倍まで跳ね上がり、コバルトも4〜8倍になった。それにより、リサイクルして材料の希少金属を取り出せば儲かる状況になり、かなり多くの業者が参入した。また、EVを手放す消費者からすれば、中国は広いので、正規の業者を探すよりも近所の非正規業者に売るほうが楽なこともある。非正規業者は5万社あるともいわれる。それで正規の業者に廃バッテリーが回らなくなった」


 使用済みバッテリーのリサイクルは、材料に使われている希少金属を取り出し、新たな資源として再利用することを指すが、この他に再利用(リユース)も行われている。劣化したバッテリーパックやセルを分解し、検査や選別を経て、品質レベルに応じて用途を変えながら使うのがリユースだ。EV用バッテリーの寿命は通常5〜8年とされ、バッテリー容量が80%にまで低下するとEV使用に適さなくなるが、その後は電力要件の低い低速電動車や工作機械など他の用途にはまだ十分使える場合が多い。また乗り物以外でも、定置用蓄電池として非常用電源などにも活用されている。


認可されていない業者による新たな公害問題

 EVバッテリーには希少金属が多く使われるため、使用済みバッテリーは重要な資源の「都市鉱山」として有望視されている。その半面、コバルトやニッケルなどは重金属であり、マンガンは土壌や水、空気を汚染する。電池を不適切に処理すれば、人体や地球環境に悪影響を及ぼすリスクも大きい。鶴原氏は中国における使用済みEVバッテリーの新たな公害問題について指摘する。


「非正規業者は零細企業で作業環境が劣悪なことも多い。粉砕したときに粉塵が空中に飛び散ったりすれば、環境に良くないし人体にも良くない。それから、BYDのバッテリーは分解しづらくてリサイクルしにくい構造になっている。日産リーフなどは、バッテリーの箱を開けると、中はいくつかの小箱になっており、それを開けると取り出せる。BYDは蓋を取ろうとしても取れない。中にブレードバッテリーが接着剤で張り合わせてあり、それが箱にもくっついている。電池自体を構造部材として使っている。ハンマーで叩いたりといった乱暴な方法でないと分解できない」


 EVブームで急騰した中国での希少金属価格だが、それも長くは続かなかったという。


「価格高騰でバッテリー部品の供給企業が増えた。しかし、供給量に対してEVの生産台数はそれほど伸びなかった。結果として供給過剰になり、また部品価格が下がってしまった。認可されていない業者は採算悪化でますます環境に配慮することが難しくなった。倒産した会社もたくさんあるはずだ。採算が取れる状況になるまでバッテリーを分解せず待つ業者もあると見られるが、その場合バッテリー容器が劣化して、中の溶液が漏れたりする懸念もある。しかし実態はよくわからない」


 中国では2018年からEVバッテリーのトレーサビリティ制度(背番号制)を導入しており、各流通段階において生産者やリユース事業者、リサイクル事業者等による政府への各種報告が義務付けられている。「ただ、罰則があるわけでもなく、実際に回収率の向上につながっているかは疑問」(鶴原氏)のが現実だ。


日本のEVバッテリーリサイクルは

 日本ではハイブリッド車が普及しているが、ハイブリッド車にもEVと同じように、リチウムイオン電池やニッケル水素電池が搭載されている。トヨタや日産などの自動車メーカーは、使用済みバッテリーの回収・リサイクルシステムを構築しており、専門のリサイクル事業者が適切に処理している。ただ、メーカーに回収されているのは3割くらいといわれており、その理由について鶴原氏がこう説明する。


「日本車は古くなっても燃費が良いので海外に中古車として輸出されているケースがかなりある。プリウスもリーフなどの電動車に限らず、日本車は特にロシアで人気がある。ウクライナ戦争で日本からの輸出は禁止されたが、中東など第三国を迂回して輸出されている。リーフの中古車のうち8割は日本に残っていないと言われている。プリウスも相当数が海外に出ているだろう。こうした海外の輸出先でのリサイクル状況はわからない」


 日本でもバッテリーのリユースは盛んだ。


「リーフのバッテリーに関しては、リユースされることが多い。マテリアルリサイクルよりもコスト的に良い。性能が良いセルだけを取り出して集めて組み直し、それを別用途に使う。例えば、通信会社や鉄道会社のバックアップ電源などだ」


 将来的に主流になるのがハイブリッド車かEVかはともかく、日本でもガソリン車の比率が低くなっていくのは間違いない。どちらにしてもバッテリーリサイクルの問題にはしっかり向き合っていかなければならない。


(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=鶴原吉郎/オートインサイト代表)



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