出店ラッシュ続く”回転寿司チェーン大手3社”の中で、くら寿司だけが「回転レーン」を続けられるワケ

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2025年03月16日 09:21  日刊SPA!

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客足が回復し、何とかコロナ前の状態に戻った外食環境の中で、回転寿司チェーン上位3社は、ここぞとばかりに出店数を増やし、攻めの経営姿勢に転じている。
各社が自社ならではの独自性をアピールするが、明確な差別化ができず、同質化の域を出ていないようにも見えるのは仕方ないのか。そういったもどかしい競争環境の中で、熾烈な争いを展開する各社の店舗戦略を分析してみたい。

◆陣取り合戦を繰り広げる回転寿司大手3社

本来、回転寿司は、バリエーション豊かな寿司が「安い・美味しい・早い」との店のコンセプトから、幅広い年齢層に支持されてきた業態だ。

大概の店が、ネタの鮮度と大きさなど本道を極めながら、独自性を発揮し差別化を図ろうとするものの、なかなか優位性を伝えるのが難しい状態である。

例えば人気店が監修したラーメン、著名パティシエとのコラボによるスイーツ、人気アニメとの企画など、話題性をアピールし集客力を強化しようと打ち出す企画などはどこも同じように見え、決め手に欠けるのが実情だ。

そういった中、スケールメリットが経営を有利にするチェーン店では、店舗数の伸びが重要になり、各社が陣取り合戦のように出店を競っている。

特に注目されるのははま寿司だ。親会社の資本力を背景に最も勢いがあり、1位スシローを猛追している。

また、寿司は海外での認知度も高く日本食ブームの中でも人気だ。各社、国内市場をより深耕する市場浸透戦略と収益力の高い海外市場を開拓する新市場開拓戦略を同時に展開するなど出店戦略は活発だ。

◆回転寿司チェーンの店舗数上位3社

1位 スシロー(店舗数843、国内648海外195、25年2月末時点)

2位 はま寿司(店舗数718、国内631海外87、25年2月時点)

3位 くら寿司(店舗数686、国内551海外135、25年1月末時点)

◆国内首位を守りながら、海外売上比率4割を目指すスシロー

運営元はFOOD&LIFE COMPANIESで、グループとしてはスシロー以外にも、杉玉97店(大衆寿司居酒屋:国内89店、海外8店)、テイクアウト店の京樽123店、みさき・三崎丸92店、その他17店と計1,166店舗を展開中だ。

スシローは24年9期(23年10月〜24年9月)の1年間で45店舗(国内7店、海外38店)を出店させた。特に注目されるのは、積極的な海外市場の開拓。

アジア圏(中国+9、台湾+8、香港+7)を中心に出店を拡大し、中国では行列ができる店と話題になっており、今後もさらなる成長を期待できそうだ。

スシロー単独の実績(前年比)は売上3303億円(+21.4%)、営業利益313億円(+70.8%)、営業利益率9.5%(+2.8%)と収益率の高さが目立つ。

国内と海外を分けた前期比では、国内売上は2382億円(+15.7%)、営業利益は214億円(+93.2%)とほぼ倍増、海外も売上は921億円(+39.3%)、営業利益は99億円(+36.6%)と好調である。

海外分の構成比は売上で27.9%、営業利益で31.6%となっており、中期経営計画である海外事業の売上構成比40%の達成に向け邁進中だ。

◆適量適所な食材供給で原価率を抑制

課題だった原価率も前期44.5%から43.1%に抑制されている。

実現できた要因は、世界中に無駄なく適量適所な食材供給をテーマに、メーカーや物流会社などサプライチェーンに関わる仲間とデータを共有・連携、AI需要予測に基づく計画システム(SCM)などのDXを推進したからである。

現在、業務効率化やコスト削減、フードロス削減を実現させる計画を推進中だ。

国内の業績が好調だった一因は、割安感を訴求したキャンペーンを継続的に実施して集客力を高めた結果だろう。コロナ前(対2019年、既存店)に対しても、売上 108.1%、客数 104.3%、 客単価 103.6%と、回復していることが実績に表れている。

直近5か月間平均(24年10月〜25年2月)の前年比も好調で、既存店ベースで売上107.0%、客数102.9%、客単価104.0%と上回っている。

◆外食最大手傘下。最も積極的に出店数を増やすはま寿司

外食最大手であるゼンショーグループの傘下であるグローバルはま寿司。

ゼンショーは「フード業世界一」を標榜しており、M&Aで規模を拡大し売上は約1兆円、店舗数は約1万店舗(海外比率67%)を有した企業だ。

以前、ゼンショーはスシローとかっぱ寿司を傘下としていた時期もあったが、今は、はま寿司ブランドに経営資源を集中させている。国内の店舗数は、直近約2年の間で61店舗も新規出店するなど、急速に勢力を拡大して首位スシローに肉薄している。

業績(2024年3月期)は、売上1,971億円、営業利益114億円、営業利益率5.8%である。前年に対して、売上で275億円増(+16.3%)営業利益で29億円増(+35.5%)と伸ばしている。

直近の業績(25年3月期の第3四半期、24年4月〜12月)にも勢いがあり、第三四半期までの売上は1,802億円(前年同期比25.9%増)、営業利益は、145億円(同96.2%増)と好調だ。

売上の伸びより利益の伸びの方が大きいのは、DXの積極的な推進で効率性を更に高めているのが推察される。

◆大手3社で最も安い110円握りを提供

以前(2009年)、スケールメリットを発揮し、平日90円キャンペーンを実施していたが、物価高騰の煽りを受けて2022年に終了した。

しかし、今でも通常の握りは大手3社の中でも一番安い110円(税込)で提供している。「でかい!はまい!」をキャッチフレーズにして集客力は抜群だ。

メニューも新鮮な海産物を使用した寿司に加え、麺類やデザート、ドリンクなどのサイドメニューも充実させている。今期も24年4月から12月までの9か月間に52店舗を出店し、718店舗(国内631店舗、海外87店舗)となった。

また、M&Aを活用し海外(アメリカ・スペイン・ドイツ・イギリス)で寿司のテイクアウト事業を展開する企業を買収するなど、はま寿司以外でも動きが活発で、今後も更に寿司事業を強化するようだ。

◆大手3社で唯一“回転レーン”で寿司を提供するくら寿司

24年10期の連結決算を見ると、国内11店舗、米国14店舗、アジア5店舗の計30店舗を新規出店。日本でも国内6店舗目となるグローバル旗艦店「銀座」を2024年4月にオープン。 インバウンド需要の取り込みにも力を入れている。

回転寿司では、衛生管理やいたずら防止などを理由に客席への専用レーンを導入している店が主流になっている。そういった中、従来の廻る回転レーンで寿司を提供しているのはくら寿司だけだ。

それを可能にするのは、抗菌寿司カバー「鮮度くん」があるからで、昔から衛生管理には定評がある。

鮮度くんの上部についているQRコードによる製造時間制限管理システムは、長時間レーン上に置かれた寿司を廃棄する仕組みになっており、鮮度の落ちた寿司が回ることを防いでいる。

また、いたずら防止にも力を入れており、本部から回転レーンを監視するなど、支援体制も構築されているようだ。

くら寿司は食の安全にこだわりを持ち、無添加米の使用、全ての食材から化学調味料、人工甘味料、合成着色料、人工保存料の四大添加物の除去を実現し、「安心・美味しい・安価」な食を提供することを理念としている。

飲食店だから当然とは言え、なかなかここまではできない店が多いのが実情だ。

◆今期売上の前年割れが続き、不安要素も抱える

国内の業績(24年度10月期決算)は好調さを維持しており、売上1743億円(前年比+6.2%)、経常利益66億円(前年比+337.5%)を計上した。海外分を含む連結では、売上2350億円(前年比+11.1%)、営業利益57億円(前年比+115,9%)である。

積極的に出店もしており、前期(24年10月期)は28店舗(国内9店舗、海外19店舗)を出店している。

気になる点は今期(25年10月期)に入り、国内(既存店ベース)の業績を見ると、客単価は前年を上回っているが、客数と売上は24年11月から25年2月まで、4か月連続で前年を下回っており、今も解消されていない点だ。

株主優待を復活させて株価は上がったが、今後の成長性や将来性に問題はないか心配である。

調達面での特徴は、全国の漁港・漁協と連携を強化。各地域で水揚げされた地魚を使った鮮魚を各地域内の店舗にて「くらの逸品」としてメニュー化し販売すると共に、国産天然魚を丸ごと買い取る「一船買い」を実施している。

鮮度の高い魚を低コストで仕入れる環境を整備している点は強みだ。

その効果に原価管理技術の高さも加わり、原価率が40.7%と前年(43.6%)を-2.9%下回っている。

店舗は一皿110円〜150円まで6段階の均一価格ごとに店舗を分類して適切な管理をしており、立地の需給バランスなどから最適な店舗の選定をしているようだ。

◆コスト上昇が続く回転寿司業界

米の高騰や水産資源の調達などで苦労する回転寿司は、1兆円市場(+海外出店分)と推計される成長市場だ。

今回取り上げた3社以外にも、かっぱ寿司や魚べいなど人気店も虎視眈々と上位を狙っており、市場が刺激的・競争的環境にある。

店を取り巻く経営環境は、米の価格が前年比9割高と値上がりし、魚介類系の原価高騰、人件費上昇、3月からの一層のエネルギーコスト上昇といった逆風が吹いた状態で厳しそうだ。

しかし、幅広い客層に支持される回転寿司の存在は外食市場には大きな存在となっており、今後も顧客提供価値への期待は大きい。

各店が競いながら独自性を発揮し、お値打ち感とお得感を提供されることを願いたい。

<文・中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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