
花粉症とは……花粉という異物に体が反応して起こるアレルギー症状
花粉症は、1型アレルギーの一種です。空気中に飛散するスギやヒノキ、ブタクサなどの花粉が鼻や目に入ることで、体が過敏に反応し、鼻水やくしゃみ、目のかゆみや涙といったアレルギー症状が現れます。そもそもスギ花粉などは私たちの体にとって異物です。異物を排除しようとして起こる「体の防御反応」が、花粉症の症状の正体です。
鼻水が出るのは、鼻腔に入り込んだスギ花粉などを洗い流して排出するため。くしゃみが出るのは、同じく鼻に入った花粉を強い気流でかき出すため。目のかゆみが出るのは、目に花粉が入ったことを脳に知らせるため。涙が出るのは、目に入った花粉を洗い出すため。
そう考えると、花粉症の症状は、自分の身を守ろうして起こる、必要な防御反応だとよく分かります。
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花粉症の症状を緩和するために効果的な「薬」
しかし、花粉自体は体にとって異物ではあるものの、そこまで有害なものではありません。過剰な反応として、上記のような症状が長く続くのはつらいもので、精神的にまいってしまいますね。そこで上手に利用したいのが、不快な症状を緩和してくれる薬です。近年は、花粉症に対する薬が多く開発されています。皆さんは、花粉症の薬がほしいときに、病院を受診しますか? それとも薬局で買いますか? 花粉症の症状がひどい方や、初めて発症した方は、まずは専門医に診てもらい、適した薬を判断してもらうのがいいでしょう。
しかしそれほど重症ではなく、病院で毎年のように同じ薬をもらっているなら、自分で薬局に行き、市販薬を購入することをおすすめします。理由は2つあります。
市販薬を選ぶメリット1. 同じ成分の薬がストレスフリーですぐ買える
第一に、薬局で市販薬を選ぶほうが、同じものが楽に買えるからです。花粉症のシーズンになると、耳鼻科には多くの患者が押し寄せます。処方箋を発行してもらうために長時間待たされ、診療は1〜2分程度ということも珍しくありません。考え方によっては、そうしたストレスや疲れを溜めることのほうが、花粉症でつらい体には負担になるのではないでしょうか。
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市販薬を選ぶメリット2. 将来的な保険制度を守る行動になる
もう一つの理由は、多くの人がちょっとした症状で気軽に病院受診をすることが、公的医療保険制度に大きな負担をかけてしまうからです。同じ成分の市販薬があるのに処方薬を利用する選択は、深刻な問題を招きます。今、日本の公的医療保険制度は危機的状況にあります。病院で処方箋を発行してもらい、調剤薬局などで薬を受け取る場合は、薬代だけではなく診察料などが余計にかかります。
自己負担が1〜3割だけで済むので、自分で市販薬を買うよりも得だと考えるかもしれませんが、残りは結局、公的保険からまかなわれています。結果的に医療費の上昇につながってしまうのです。
公的医療保険は、我が国の優れた制度で、いざというときに大きな助けになります。本当に困ったときに頼れる制度の存続をあやうくしないためにも、市販薬がある場合はできれば自費で買い求めるといった小さな選択が、長い目で見ると望ましい行動ではないでしょうか。
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市販薬の選び方が分からない場合は、お薬手帳を持って薬剤師に相談を
そうは言っても「節約のために、時間がかかっても病院を受診して、少しでも安い処方薬にしたい」と考える方も少なくないため、市販薬と同じような成分の処方薬を「保険対象外」とする制度改正も、検討されています。近い将来、花粉症の処方薬の多くが保険対象外となり、薬代は全額自己負担になる可能性があるのです。そうなると、薬代に診察料などが加わり、病院を受診したほうが割高になることが見込まれます。このような動きができると、本当に病院受診が必要な重症な方まで受診を控えるケースが出てきてしまうかもしれず、本末転倒です。今の制度を守るためにも、一人ひとりが賢い選択をすべきだと私は思います。
なお、いきなり薬局やドラッグストアに行っても、花粉症の市販薬が多く、どれを選べばいいのか分からないという方がほとんどでしょう。
そんなときは、ぜひ過去に耳鼻科などで処方してもらった薬が記録された「お薬手帳」を持参し、自分の使用感なども薬剤師に率直に話してみてください。同等の市販薬はどれなのか、具体的に紹介してもらえます。ぜひ相談してください。
阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))