
静岡県在住のWさん(40代)は、数か月ぶりに実家へ帰省しました。大学受験を終えた子どもとともに、久しぶりの家族団らんを楽しむはずが、食卓にはある「お決まりの光景」が広がっていました。
【漫画】ありがとう、義弟。これからも父の話し相手をよろしくお願いします(全編を読む)
「パパ、またあの話してる…」
夕食の席で、ほろ酔いの父が上機嫌に語り始めます。
「俺が受験生だったときはな… 睡魔と戦うためにライターで…」
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何度も聞いたその話。昨日の夕飯のメニューは思い出せないのに、昔の話は細部まで鮮明に覚えている父。年々その頻度は増しているように感じます。最初は笑顔で聞いていても、繰り返されるうちに、家族はみな正直うんざりしていました。
とはいえ、普段は母と二人で静かに暮らす父。久しぶりに娘たちが帰省し、賑やかな食卓に喜んでいる様子を見ると、話をさえぎるのも気が引けます。結局、家族は曖昧に相槌を打ちながら「早く終わらないかな…」と耐えるしかありませんでした。
そんな中、この状況を救う「救世主」が現れたのです。
義弟の「新鮮なリアクション」が父を夢中にさせる
その救世主とは、義弟でした。
義弟は、食事の時間は「食べることに集中する」タイプ。周囲の会話は聞いているものの、自分に興味のない話はほぼ記憶に残りません。義母が大切なお願いごとを話しても、「はいはい、わかりました」と流し、あっさり忘れることもしばしば。そのため、義母からはよく「あの時話したのに!」と呆れられています。
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しかし、この特性が思わぬ形で「最強の聞き役」となっていたのです。
父がいつものように語り始めました。
「俺が初めて自分で買った車はな… 今まで〇台の車を乗り継いで…」
家族は心の中で(またこの話だ…)とため息。しかし、義弟にとっては「初めて聞く話」。だからこそ、リアクションが新鮮です。
「へぇ!あの車に乗ってたんですね!」
「カッコよかったですよね、あれ!」
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Wさんたちがとうに失ったフレッシュな驚きを、義弟は惜しげもなく提供してくれます。
「それで、当時はどんな感じだったんですか?」
「おぉ、よく聞いてくれた!実はな…」
父はますます気を良くし、話が止まりません。そして、その間も義弟はひたすら唐揚げを食べ続けていました。
義弟の「適当な聞き方」がもたらす平和
義弟は、決して本気で父の話に興味を持っているわけではありません。むしろ、食事に集中しているため、話の上辺だけを適当に拾い、合いの手を入れながらも、記憶にはほとんど残しません。しかし、それが逆にちょうどいいのです。
適度に興味を示し、ほどよく驚き、深追いしない。
この「適当な聞き方」によって、家族の負担は軽減され、結果的に全員が穏やかに過ごせる時間が生まれました。
父は満足げに語り、義弟は適当に相槌を打ち、Wさんたちは「聞き役」から解放される。
…それはまさに全員がウィンウィンの関係です。
「適当力」は職場でも通用する?
この光景を見て、Wさんは自分が勤める職場の飲み会を思い出しました。
上司「俺が若い頃はな…」
部下(あぁ、この話、もう何回目かな…)
しかし、新人は違います。
新人「えっ!?そんなことあったんですか!?すごいですね!」
上司「おぉ!そうなんだよ〜!いやー、あの時はね…」
…その横で、聞き飽きた社員は黙々と焼き鳥を食べています。
義弟の「適当力」は、家族だけでなく職場でも活躍するスキルなのかもしれません。
義弟に感謝…そして、これからもよろしく
久しぶりの帰省は、家族にとって大切な時間。しかし、親の繰り返す昔話にうんざりするのもまた事実です。そんな中、義弟の「適当な聞き方」がもたらした平和には、感謝しかありません。
「またその話?」と思う気持ちをぐっとこらえ、ちょっとした工夫をするだけで、家族みんなが心地よく過ごせます。
そしてまた、父と義弟は同じ会話を繰り返すでしょう。でも、義弟がいる限り、Wさんたちは安心して実家へ帰省できるのです。
ありがとう、義弟。そして、これからもずっと父の話し相手を、よろしくお願いします。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)