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悲惨な交通事故が起こるたびに「早く完全自動運転が普及すれば……」という意見が、ニュース記事のコメント欄に散見される。確かに運転ミスによる交通事故は、自動運転の普及で防げるケースが増えるだろう。
だが、人間だからミスをする、機械なら正確だ、と考えるのは果たして正しいのだろうか。
今年に入って、自動運転車による悲惨な交通事故が報じられた。中国の家電メーカーXiaomi(シャオミ)が販売した高性能EVが、自動運転レベル3での走行中に障害物を検知し、それを回避するどころかドライバーに運転の主権を移譲したのだ。
衝突までわずか2秒前の状態でシステムが運転を放り出した結果、ドライバーは何もできずに衝突してしまった。乗員は女子大生3人だったと言われているが、残念なことに若い命が3人も犠牲になったのだ。
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●完全自動運転も完璧ではない
「これはレベル3の自動運転だから起きた事故で、レベル4以上の完全自動運転なら起きない。だから、レベル4の自動運転を早く普及させるべきだ」。そう考える方も一定数存在するだろう。
その考えは分からなくもないが、残念ながら、レベル4やレベル5の自動運転でも、交通事故や車両故障がなくならないことに気付く段階に来ている。自動運転は高度なシステムが完全に動作している時にだけ実現するからだ。
システムが複雑になるほど、障害が出る可能性は高まる。ましてや通信によって情報をやりとりする時代だ。情報量が増えるほど通信障害のリスクは高まる。
PCやスマホの動作が安定せず、再起動したり、ソフトウェアをアップデートしたりするのと同じように、自動運転もソフトウェアの不具合は発生する。さらにハードウェアについても、電子部品や機械はいつか壊れる。
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その際、スマホやPCであれば、保証期間が過ぎていれば多くのユーザーがすぐに買い替えを決断するだろうが、クルマとなるとそうはいかない。修理するか、買い替えるなら現在乗っている車を買い取ってもらうか下取りに出すかといったように、選択肢が複数ある。
さらに、使用中の故障や事故となれば、スマホやPCなら使うのをやめれば済むが、走行中の自動運転車が壊れれば、重大な危険につながる可能性がある。
●あえて速度を抑えた「ホンダセンシングエリート」
アクティブステアリング(ステアリングホイールと操舵機構が物理的に連結していない操舵装置)に代表される、自動運転のためのデバイスやシステムは、確実な動作が要求されるため、高い信頼性と非常時の安全性の確保が必要となる。
電源やモーターなどの回路も並列で2つ備えるのは、故障時でも作動を担保するためで、冗長性によって万が一に備えているのだ。それだけの余裕があっても、100%確実とは言えないのが電子制御であり、複雑な機械なのだ。
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ホンダはかつて、レベル3の自動運転を含む運転支援システム「ホンダセンシングエリート」をレジェンドに搭載し、100台限定でリース販売した。当時、レベル3の自動運転の最高速度は時速60キロに制限されていたが、ホンダはあえて時速50キロにとどめていた。
中国や米国、ドイツなどは自動運転の開発競争が激しく、レベル3での高速走行も実現している。日本も法改正し、レベル3の最高速度を引き上げたが、これはWP29(自動車基準調和世界フォーラム)の自動運転分科会で、日本の提案が合意されたことを受けてのものだ。
メルセデス・ベンツは2024年末、レベル3の最高速度を時速95キロまで引き上げると発表したが、これはアウトバーンという充実した高速道路網を持つことが背景にある。しかもレベル3の自動運転は、システムに問題が発生した場合、ドライバーに運転の主権が移譲される。つまり最終的に運転操作の責任はドライバーに課せられる。
自動運転中でも走行中の責任はドライバーにあるとされる以上、走行中にセカンドタスク(読書や映画鑑賞など運転以外の行為)が許されても、常に周囲の状況や車両の状態を把握する必要がある。
だが、冒頭のXiaomiの事故などを振り返れば、高速走行時にいきなり運転を任されるのは、ドライバーにとってハードルが高い。だからホンダは時速50キロにとどめていたのであり(といってもホンダも最高速度の引き上げを表明している)、それを体験した筆者はその仕様を「ドライバーに向けてのホンダの配慮」だと感じた。
そのように自動車メーカーが長年培ってきた知見は、車体のメカニズムや使い勝手だけでなく、隅々の仕様にまで及ぶ。EVはノウハウが少なく、自動運転技術さえ手に入れれば高度な自動運転EVが出来上がると思われているが、XiaomiのEVは冒頭の事故以外にもいろいろと問題を起こしており、これまでのクルマと同じように信頼し切って運転することはリスクが高いと思った方がいい。
まだ日本に上陸していないが、他の中国メーカー製EVでも同じことは起こり得る。3年、5年経過後の故障率の高さが近年問題視されるドイツ車では、自動運転システムも経年劣化により動作が不安定になる可能性がある。
●レベル2が「安全で確実」である理由
自動運転レベル4を実現するには、十分に整備された道路環境に限られ、速度も制限する必要がある。すでに導入され始めているレベル4の自動運転バスは、ルートを定め、速度を時速25キロに制限しているから運行が可能なのであり、これを乗用車に適用しても利用したいと思うドライバーは少ないだろう。
であれば、乗用車の自動運転は、すでに実現している中では高度なレベル3ではなく、レベル2で利用する方が安全で確実だ。
レベル2の半自動運転はクルマを人が見張る状態。つまり、常に運転に参加している必要がある。操舵も加減速もクルマがしてくれるが、ACC(アダプティブクルーズコントロール)は、カーブのきつさによって速度を調整する機能はない(日産のプロパイロット2.0はカーナビ内の地図データを読んで速度を調整できる)から、自動車メーカーによっては都市高速での利用は推奨していない。
結局、センサーはエラーを起こす可能性がある部品なのだから、常にドライバーが監視している方が安全で確実といえる。それは自動運転ではなく、やはり運転支援システムと呼んだ方がしっくりくるものだ。
先日、マイナーチェンジされた新型CX-60をマツダから借りて、スーパー耐久選手権第2戦が開催された鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)までの往復1500キロを実際に走って、レベル2の自動運転を使ってみた。
車線内で左右どちらかに寄ってしまうことはあったものの、LAS(レーンキープアシストシステム:車線内を維持するよう操舵する装置)はまずまずの精度だった。
ただし、夜間・雨天時のトンネル内では路面の状況が分かりにくく、車線を見失うことで頻繁にLASがキャンセルされ、十数秒後に再び作動するようなシーンが見られた。画像解析による車線認識には限界があるということだろう。
●レベル2でも十分便利なものになる
激しい雨が降りしきる中の走行では、およそ100キロ走行ごとに「ミリ波レーダーの前部カバーが汚れました」という表示とともにACCが強制的にキャンセルされた。通常走行は可能だが、その都度サービスエリアやパーキングエリアに入って、エンジンを停止し、システムを再起動させた。
ACCのキャンセルについて検索すると、ACCを解除する方法の解説しか見当たらないが、問題はそこではない。ACCを設定しても、システム側でキャンセルされるケースがあるのだ。その状況はメーカーごと、シチュエーションごとに違ってくる。ドライバーはそうした特性を理解して利用する必要があるだろう。
カメラに頼れない悪天候こそ、ミリ波レーダーの本領発揮ではないか、と思う人もいるかもしれないが、これが現実というものだ。
だが、これでいいと思う。結局はドライバーが責任を負うのだから、ドライバーが管理し続ける必要があるのだ。自動運転を補助的に利用しても、ドライバーは十分恩恵を受けられる。長距離移動における目や体の疲れはかなり軽減される。
渋滞時の再発進も、完全停止から数秒たつとアクセルペダルを踏む必要があるものの、すぐにACCが再設定されて前の車に追従した。個人的には車間距離の調整範囲をもっと広げて、距離を多めに取れるようにしてほしいと思ったが、それ以外に不都合は感じなかった。運転操作が大幅に軽減されているにもかかわらず、やたらと休憩を勧めてくるが、これも安全を優先させたものだと思えば納得がいく。
それどころかドライバーの視線をモニタリングしているため、脇見をしていると警告される。これは居眠り運転や体調急変などを検知すると、路肩に停止して自動で緊急通報してくれる「CO-PILOT」の機能を利用している。これもドライバーが安心できる自動運転システムだ。
このレベル2のまま、精度や安定性が高まってくれば、自動運転はさらに使い勝手のいいものに仕上がるだろう。
(高根英幸)
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