「メモ取らなくて大丈夫?」をハラスメントと感じる若者たち。 20代と50代で“意識の格差”が生まれるワケ

5

2025年06月18日 16:11  日刊SPA!

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

日刊SPA!

写真はイメージです
 社会保険労務士白書2024年版によれば、20代と30代の社会保険労務士(以下、社労士)の割合は業界全体の7.0%しかいない。若手社労士の横のつながりを作るため、ロープラス社会保険労務士法人の代表・永井拓至氏が呼びかけ人となって決起された「社労士7%Club」。「新しい働き方を生み出していく」をモットーに、20代と50〜60代の男女1,000名(各500名)を対象に、ハラスメントに関する意識調査を実施するなど、精力的に活動することで知られる。永井氏へのインタビューを通し、年代におけるハラスメントに対する考え方の違いを考える。
◆社労士ってどんな仕事?

――そもそもですが、社労士とはどんなお仕事でしょうか。

永井:すごく簡略化していえば、「人々が安心して自由に働ける環境を作る仕事」になると思います。具体的には、企業における就業規則や雇用契約書などのルールを整備したり、労務管理や指導を行うこともあります。また、社会保険関連の業務も担っていて、給与計算とか健康保険証の発行なども行います。労働者と経営者双方の立場を理解しながら、業務が円滑に進むのを手助けする仕事だと思います。

――永井さんは最初から社労士を志したのでしょうか。

永井:いえ、大卒後すぐは、士業向けの雑誌の編集者をやっていました。特集される士業の中に社労士があって、顧問契約が取れれば安定的に収入が得られるし、社会にも貢献できる点に魅力的に感じたのが志すきっかけでした。2019年に社労士資格を取得し、2021年に開業しました。

◆「メモ取らなくて大丈夫?」がハラスメントに

――ハラスメントについての意識調査、非常に興味深く拝見しました。日頃何気なく使っていそうな言葉のなかに、若手がハラスメントだと感じるものもあるんですね。

永井:そうですね。たとえば、「いま教えたことをメモ取らなくて大丈夫?」という言葉について、50〜60代では「ハラスメントに該当する」と答えたのは2.4%でしたが、20代では5.6%がそう回答しています。顕著なのは「これくらい金額を安くしてくれない? 冗談だけど」という言葉について、50〜60代のうちハラスメントだと答えたのは約10%でしたが、20代ではその倍近くいました。

――総じて、若い世代ほど「ハラスメントだ」と感じていて、年配になると「そんなことはない」という認識なのですね。

永井:そうです。ただ、ここで強調したいのは、「ハラスメントと感じる」のは個人の受け止め方であって、法律上の定義とは異なる点です。ハラスメントとは、「1. 優越的な関係を背景とした言動であること、2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること、3. 労働者の就業環境が害されること」であると定義されています。そうした視点でみると、「メモ取らなくて大丈夫?」というのは、業務上関係のあるアドバイスであり、法律上はハラスメントに該当しないでしょう。

◆「法律ではOKだから大丈夫」という考え方は…

――業務上の指導もハラスメントだとなると、さすがに厳しいですよね。

永井:はい。一方で、ややこしい話ですが、法律が規定するハラスメントの定義に当てはまらないからOKとも言い切れないんです。なぜなら、先ほど申し上げたように「ハラスメントと感じる」のは個人であり、そう受け止められた結果、業務に支障を来したり、ひどい場合は退職してしまうこともあり得るからです。特に労働人口が減っている今、「法律ではOKだから大丈夫」という考え方はやや危険かもしれません。

――どのようにすればそうした世代間の認識のずれを減らせるのでしょうか。

永井:企業が「ここまでは業務指導で、ここからはハラスメント」ときちんと線引きを示すことではないでしょうか。ハラスメントの問題は、個人間での問題ではありますが、同時に、企業の雰囲気も関係してくる問題です。「これはハラスメントに該当しない」と毅然とした態度で臨むことも必要だと思います。

 意識調査では、カスハラに関わる内容も多くありました。「前回このお店で対応してくれたことが、今回なぜできないのか?」と言われることについて、20代のおよそ5人に1人がハラスメントだと感じているということです。しかしこれについても、企業全体として「前回はやっていたが、今回はそのサービスを行っていない」と明言することで、社員のストレスを減らすことができます。個別的な対応に任せきりになると、結果的に個人の負担が多くなり、ハラスメントだと感じやすくなる傾向はあると思います。

◆男性上司に「私と話をしてください」と…

――永井さんは社労士として、ハラスメントに関する大規模調査を行っていますが、世代間のギャップに着眼したきっかけは何でしょうか。

永井:新卒で入った会社での出来事が根底にあるのかもしれません。当時、仕事上のコミュニケーションはきちんと行っていましたが、年齢が倍以上も違う上司に対して、自分のプライベートを開示するような付き合い方をしていませんでした。

 ある日の朝早い時間、周囲にあまり人のいないところで、男性上司から「もっと私と話をしてくださいよ」と大声で言われました。非常に驚いたのを覚えています。幸い、精神を病むことなく済みましたが、もしも私が女性だったら、恐怖に感じたかもしれません。また、そもそも「なぜプライベートな話を上司にしなくてはいけないのか?」という疑問も浮かびました。

◆昔は「会社=家族」に近いものだったが…

――「アットホームな会社」を売りにする企業はいくつかありますが、負の側面もあるわけですね。

永井:考えてみると、年配者の働き方は、「会社=家族」に近いものだったと思います。そうした組織力や結束力によって、業績が伸びてきた側面を私は否定しません。

 しかし頑張っても頑張ってもなかなか給料が伸びていかないなかで、ひとつの企業に入社したら定年退職までを捧げるという帰属意識は薄れつつあると思っています。事実、私の経営する法人にも大学生のインターンがいますが、彼らは就職活動を「ファーストキャリア」と呼んでいます。つまり、第2第3のキャリアがあるということです。

 そうした世の中で、プライベートまでを上司や同僚と過ごすことを当たり前と強要するのは、場合によってはハラスメントと感じるのではないでしょうか。

◆「社労士7%Club」メンバーたちの意識

――永井さんが作った「社労士7%Club」ですが、会員からはどんな声が届いていますか。

永井:30代以下が7%しかおらず、20代に限定すれば0.2%という希少さです。社労士は全員、社労士会に所属することで社労士を名乗れるわけですが、みんな、所属する社労士会では最年少だといいます。同年代、似た境遇の人が少ないなかで、こうした同じ年代のつながりがあるのは安心できると言ってくれます。

 付言したいのは、私は「若い人の言うことを聞くべき」と思っているわけではありません。場合によっては、社会経験の長い先輩が「それは甘えだから改めるように」と指導することも必要でしょう。しかし信頼関係なしに、何気なく発した言葉で貴重な人材が辞めてしまうことがあるとすれば、それは双方にとって残念なことであり、避けるべき事態だと思っています。

 社労士という立場で大規模な調査を行えたことで、世代間で考えていることが微妙に異なることもわかりました。若手は「なぜハラスメントに該当すると思うか」という質問に、「何となく」「気持ち悪いから」というような、フィーリングでの回答が目立ちます。そうした傾向もふまえて、若い人も経験が豊かな人も活躍できる企業が増えていけばいいなと思っています。

=====

 永井さんはフラットな人だ。自らの経験から、単に法律が規定する定義のみに頼らず、「ハラスメントとは何か」を掘り下げた。年配者の感覚や経験知を「古い」と切り捨てない思慮に富む。どんな年代の人も活躍できるように。永井さんの活動には、そんな願いが込められている。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

このニュースに関するつぶやき

  • メモも取らず注意も聞かず流行り文句を持ち出して抵抗し続け、挙句の果てにまともに仕事が出来ない奴こそハラスメント。それこそソーシャルハラスメント
    • イイネ!6
    • コメント 1件

つぶやき一覧へ(5件)

話題数ランキング

一覧へ

前日のランキングへ

ニュース設定