写真 あなたは一緒に寝ていたパートナーに「こんな寝言を言っていたよ」と聞かされて驚いた経験はありませんか?
今回はそんな寝言がきっかけで巻き起こった、女性のエピソードをご紹介しましょう。
◆過労で発熱、彼氏に看病してもらったら
羽山佳純さん(仮名・32歳/会社員)は、ある日発熱して寝込んでしまいました。
「病院に電話して検査したらコロナでもインフルでもなく、おそらく過労だろうと言われました。そういえば最近仕事が詰まっていてかなり寝不足だったなと、無理をしていた自分に気がつきましたね」
すると付き合って1年になる同棲中の彼氏・寛治さん(仮名・29歳/メーカー勤務)が心配して「看病するよ」と言ってくれたそう。
「『ありがとう。でもとりあえず安静にしてるしかないし、食欲もないからしばらく冷蔵庫にあるゼリー飲料やヨーグルトで大丈夫。心配いらないよ』と返すと、内心ちょっとホッとしているように見えました。実は寛治、料理がまるでできないんですよ」
ですがその後、なかなか熱が下がらなかった佳純さんはうなされながら、こんこんと眠り込んでしまいました。
◆いきなり栗ごはんが出てきた理由
「朦朧(もうろう)としながら途中で水分補給やトイレに起きたりしましたが、10時間以上寝て……。熱もだいぶ下がりかなり身体もスッキリしていてホッと一息ついていたら、寛治が笑顔で『はい、これどうぞ』とお茶碗を差し出してきたんですよね」
覗き込んで見ると、中には栗ごはんが無造作に盛られていたそう。
「そしたら寛治が『佳純ちゃんが寝ながらうわ言で“栗ごはんが食べたい”って言っていたんだよ。どこの栗ごはん? すぐに買ってくるよ。と聞いてみたら、“お母さんの”って寂しそうに答えるから、俺どうしていいか分からなくなっちゃって』なんて言うので驚いてしまったんです」
◆もう食べられないお母さんの味だと思って
そして居ても立っても居られなくなった寛治さんは、栗ごはんのレシピを調べながら試行錯誤を重ね自力で作ってくれたんだそう。
「実は私の母親は4年前に亡くなっていて。なのでもう食べることはできない母の手料理をどうにか私に食べさせてあげたいと、きっと寛治は考えてくれたんですね。慣れない台所で見よう見まねで一生懸命栗ごはんを作ってくれたみたいなんです」
佳純さんは寛治さんお手製の栗ごはんにとても感動し「お母さんのと同じぐらい美味しい!」と絶賛しながらいっぱい食べたのですが……。
◆ずっと隠し通すことにした“ある秘密”
「実は私、母に栗ごはんを作ってもらった事が一度もないんですよ(笑)。うちの母は栗ごはんなんて買うものだという考えの人だったので」
きっと佳純さんが夢にうなされて意味不明なことを言ったか、寛治さんが何かを聞き違えてこのようなことになったのだろうと想像しました。
「ですが寛治の優しさがすごく嬉しかったので、とても本当のことを言う気になれなくなってしまって」
そして佳純さんは、嘘をつくのは申し訳ないと思いつつ、このまま“母はよく栗ごはんを作ってくれた”という設定のまま生活していくことに決めたんだそう。
「それ以来、寛治の栗ごはんを気に入った私は『寛治かあさんの栗ごはんが食べたいな』とおねだりするようになり、頻繁に作ってもらうようになったんですよ」
それがよほど嬉しかったのか、それから寛治さんは料理にハマり、栗ごはん以外にも様々なメニューに挑戦し、佳純さんに振る舞ってくれるようになりました。
◆お母さんに栗ごはんをお供えして報告したこと
「たまに失敗もありますが、おおむね寛治の料理は美味しくて。私が忙しい時に栄養のある胃に優しい献立を組んでくれたりして助かっています。ホントお母さんありがとうという感じで」
佳純さんは念のため、お母さんの遺影に寛治さんの作った栗ごはんをお供えしてお祈りしたそう。
「『お母さんを巻き込んで私の嘘につき合わせてごめんね。でもおかげさまで寛治の料理のレパートリーがどんどん増えているよ』と手を合わせておきました。まぁ、そんなことで怒るような人ではありませんし、きっとこの栗ごはんも気に入ってくれていると思いますが」と微笑む佳純さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop