「F1はホンダにとって不可欠」技術規則の変更で新時代の活動を決意。渡辺康治社長が語るアストンとの提携、技術の強み

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2025年12月12日 20:20  AUTOSPORT web

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ホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長
 ホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長は、アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チームの公式サイトに掲載されている連載『UNDERCUT』のなかで、提携先にアストンマーティンを選んだことやエイドリアン・ニューウェイとの再会、また新たな技術規則におけるホンダの強みなどについて語った。


■活動の決め手は「パワーユニット規則の変更」

 HRCはこれまでオラクル・レッドブル・レーシングとビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チームににパワーユニット(PU)を供給したきたが、この2チームとの提携は2025年をもって終了し、2026年シーズンからはアストンマーティンにPUを供給する。2026年にはF1に新しい技術規則が導入されるため、ホンダは新たな一歩を踏み出すことになる。

 渡辺社長は2026年からのPU供給について、「我々の事業方針にも沿っている」と説明した。

「本質的には、F1はHondaにとって不可欠です。技術面から見れば、2026年のパワーユニットのレギュレーション変更が、HondaのF1復帰に関して重要な決め手となりました」

「新規定では、内燃機関と電動モーターの出力を50:50にすることが求められ、電動モーターの出力は120kWから350kWへと、約3倍に増加します。さらに持続可能な燃料の使用が義務付けられ、これはHondaが描くこれからの駆動システムの理念と合致しています」

 新たな提携先にアストンマーティンを選んだ理由としては、チームの共同オーナーであり、エグゼクティブチェアマンであるローレンス・ストロールの存在が大きいという。また近年アストンマーティンはイギリスのシルバーストンに新しいファクトリー“アストンマーティン・レーシング・テクノロジー・キャンパス”や風洞を建設しており、F1に真剣に取り組むストロールの姿勢に大きな影響を受けたことを明かした。

「パートナー選びには、慎重に取り組んできました。今回に関しては、チームのリーダーシップ、そしてエグゼクティブチェアマンのローレンス・ストロール氏の情熱とビジョンに大変感銘を受けました。彼の要求は非常に厳しいですが、その根本には常に“勝つため”という明確な目的があります」

「AMRテクノロジーキャンパスの新施設にも、成功への強い意志が見えます。過去数年間で経験豊富な人材を迎え入れ、組織を強化してきた姿勢からも伝わってきます。チームのコミットメントと集中力も非常に強く、我々にとって魅力的でした」

 渡辺社長は、すでにホンダとアストンマーティンのエンジニアの間で強固な関係ができあがっているといい、PU開発を進めるなかでHRCのエンジニアがアストンマーティンのファクトリーで働いたり、反対にアストンマーティンのエンジニアが日本のHRC Sakuraで作業に取り組んでいるということだ。


■「また会ったね!」ニューウェイとの再会と、“ひとつであり続けること”

 2025年の3月、エイドリアン・ニューウェイがマネージングテクニカルパートナーとしてアストンマーティンに加わった。そして11月末には、ニューウェイが2026年よりチーム代表としてアストンマーティンの指揮を執ることが明らかになった。

 ニューウェイは2024年のシーズン終了までレッドブルの一員として現場に帯同しており、2019年から始まったホンダとレッドブルの提携期間中における成功はすでに周知の通りだ。新たな提携先であるアストンマーティンでホンダはニューウェイと再び協力することになったが、渡辺社長はそんなニューウェイについて、「私が頻繁にコミュニケーションを取る人物のひとりです。意見や提案、フィードバックについての議論はときどき熱くなりますが、常に勝利に焦点を当てています」と語った。

「彼がアストンマーティン・アラムコに加わっての最初のミーティングでは、『また会ったね!』と、私たちは大いに笑いました。彼がここにいることはとてもエキサイティングであり、もちろん、彼と彼の能力には深い敬意を抱いています」

「パワーユニット開発に関しては、我々は高性能で競争力のあるパワーユニットを作るための独自のプロセスとスケジュールを組んでいます。エイドリアンは初日から、シャシーに関しても同様に取り組んできました。そのため、我々は両者が交わる部分で非常に緊密に協力し、活発にコミュニケーションをとっています」

「コンポーネントや開発について技術的な議論をする際は、常に長期的な視点でいかに勝利を掴むかに焦点を置いています。内容は多岐にわたり、非常に詳細な設計上の問題である場合もあれば、競合他社の分析、人材を最大限に活用するための管理方法、さらには財務やコスト上限の制限を最も効果的に活用することなど、あらゆることにおいて意見を交わします」

 さらに渡辺社長は、ニューウェイが今年5月に『UNDERCUT』のなかで語った「F1は人のスポーツ(F1 is a people sport.)」という言葉に大きく共感している。

「結局のところ、チームとしてひとつになるという考えに尽きます。パートナーを信頼し、尊重し、共に成長し続けることが不可欠です」

「Hondaは数十年にわたり、様々なチームにエンジンとパワーユニットを供給してきました。素晴らしい結果を残した日もあれば、結果が出なかった日もある。トラック上で何が起ころうとも、我々はひとつであり続けることが重要です」


■供給拡大は「フィードバックの面でメリットがあれば検討するつもり」

 2026年には技術規則が刷新され、PUに関する規則もまったく新しいものになる。渡辺社長は課題のひとつに“エネルギー貯蔵装置の容量をほぼ変えずに、電動モーターの出力を3倍にすること”を挙げ、ホンダの持つバッテリー技術への自信を示した。

「ここでカギとなるのは、エネルギーマネジメントの効率化です。これは、新しい規制における最も困難な技術的課題です」

「F1の新時代においては、効率が決定的な要素となるでしょう。我々は世界最先端のバッテリー技術を誇っています。この強みを活かしつつ、エネルギーマネジメント性能も向上させていくことが重要です」

 使用する電動エネルギーが増加することで、走行中にコースのどこでエネルギーを回収するのか、そしてそれをどこで使用するのかという配分が非常に重要になると渡辺社長は語る。ホンダはそれを管理するためのソフトウェアを自社開発しており、エネルギーの管理は「大きな注目を集める部分ではない」としつつも、渡辺社長はプロジェクトにおける最重要課題だと認識していると主張した。

 さらに今後はPUマニュファクチャラーにもコスト上限が設けられるが、この点についても、F1参戦を開始した1964年から積み上げてきた経験と、アストンマーティンとの協力で対処できるとしている。

 F1の新時代を迎えるにあたって、現状ではホンダがPUを供給するのはアストンマーティンのみだ。将来的な供給の拡大については、渡辺社長は次のように述べるにとどまった。

「現時点では、他のチームへの供給は考えていません。アストンマーティン・アラムコとの勝利に集中したいと考えています」

「将来複数のチームに供給することで、得られるフィードバックの面でメリットがあれば、もちろん検討するつもりです」

 アストンマーティンは2026年2月9日に新型マシン『AMR26』を発表することを明らかにしている。2025年シーズンが終わったばかりではあるものの、年明けの1月末にはプライベートテストが始まるため、F1の新時代の幕開けはすぐそこまでやってきていると言っていいだろう。

「ファンのみなさんには、まさに新時代の幕開けを目の当たりにしているという実感を持っていただければ幸いです。我々全員がこの幕開けを待ち望んでいます。そして、サーキットに初めて出た時こそ、この喜びと興奮をみなさんと分かち合える時だと思っています」

 そう語った渡辺社長は、「モータースポーツが大好きなんです」とインタビューの冒頭で語っており、モータースポーツを愛する気持ちとホンダの哲学が合致していること、そしてモータースポーツへの情熱と、走る喜びをファンと共有できることが自身の原動力だという。そんな渡辺社長の率いるホンダとアストンマーティンが、F1の新時代にどのような戦いを繰り広げていくのかに注目だ。

[オートスポーツweb 2025年12月12日]

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