フランスの新興企業ブルー・スピリット・エアロが開発中の水素航空機「ドラゴンフライ」のイメージ(同社提供・時事) 【パリ時事】世界最大の航空見本市、パリ国際航空ショー(16〜22日開催)で、脱炭素化の切り札の水素を燃料に飛ぶ4人乗り小型機「ドラゴンフライ」(トンボの意味)が展示されている。地元フランスの新興企業ブルー・スピリット・エアロが開発中の電動プロペラ機だ。オリビエ・サバン最高経営責任者(CEO)は「水素を起点に白紙から設計した。クリーンで静か、安全な未来の軽飛行機だ」とアピールする。
同機は、水素と酸素の化学反応で発電する「燃料電池」を使ってプロペラを回す。発電により水が生成されるが、燃料電池車同様、二酸化炭素(CO2)は排出しない。
安全上の観点から、水素タンクと燃料電池、モーター、プロペラを「ポッド」(格納容器)に集約。これを両翼に計12基搭載して機体の揚力を高め、低速でも安定飛行できる設計とした。
一度の燃料充填(じゅうてん)で約3時間、700キロの飛行が可能。仮に一部のポッドが故障しても、最低4基が正常なら墜落しないという。
サバン氏は米仏の世界的企業で約25年間、航空分野の水素事業に携わった専門家。2020年に起業し、仏政府の支援を得て水素機の商用化を目指す。近くドラゴンフライの試験飛行に着手する予定で、28年ごろの販売開始を思い描く。
1号機の有力な売り込み先はパイロット養成機関。世界では今後20年間で60万人強の新人操縦士が必要との試算があり、同社は老朽化した実習機の後継需要を見込む。将来的には、地方都市間を結ぶ旅客路線のニーズを掘り起こしていく。
サバン氏は「水素は管理可能な燃料だが、怖がる人が多い」と話し、地道な啓発の重要性を指摘。水素機の普及を左右する燃料補給インフラの整備促進には「政治の意思が不可欠」と強調した。
航空業界はCO2排出量を50年までに実質ゼロにする方針。水素機の開発は欧州航空機大手エアバスも進めている。

フランスの新興企業ブルー・スピリット・エアロが開発中の水素航空機「ドラゴンフライ」と、オリビエ・サバン最高経営責任者(CEO)=15日、パリ近郊ルブルジェ