小学館は「フジテレビの二の舞」になるのか マンガワン炎上で示すべき企業姿勢とは

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2026年03月06日 07:50  ITmedia ビジネスオンライン

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配信停止作品も出てきている

 小学館のコミック配信アプリ「マンガワン」が炎上している。かつて性的不祥事により連載中止となった原作者が、別名義で新連載を始めていたことが判明し、SNS上では倫理観を問う投稿が絶えない。経緯をなぞってみると、小学館側とネットユーザーの「受け止め」にギャップが見えてきた。


【問題は?】小学館は「フジテレビの二の舞」になるのか マンガワン炎上で示すべき企業姿勢とは


●次々と明らかになった「事実」


 問題視されているのは、漫画家の山本章一氏をめぐる事案だ。同氏は2015年にマンガワンなどで連載開始した『堕天作戦』を担当していたが、2020年に体調不良などを理由に休載。その後2022年に掲載終了となった。


 しかし、連載中止の本当の理由は、山本氏が児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)の容疑で逮捕、略式起訴されて、罰金刑を受けたことだった。


 2026年2月、とある性的事案をめぐり、札幌地裁が50代の男性に対して、賠償を命じる判決を出したことから、その人物が山本氏ではないかとの指摘が相次いだ。最終的に、小学館は『堕天作戦』連載中止の理由を罰金刑にあると認めた上で、「一路一」の別名義で『常人仮面』を連載していた原作者と同一人物であると発表した。


 『常人仮面』は、『堕天作戦』掲載終了から、わずか2カ月後に開始した連載だった。あまりに短期間での再登板、かつ読者に“本当の理由”を伝えなかったとあって、SNS上では批判が相次いでいる。


 加えて、2020年に強制わいせつ容疑で逮捕・起訴され、その後に有罪判決(執行猶予付き)を受けたマツキタツヤ氏(集英社の「週刊少年ジャンプ」で『アクタージュ act-age』を連載していたが、逮捕により打ち切り)についても、マンガワンで別名義(八ツ波樹)による『星霜の心理士』を連載していたとして、更新を一時停止すると発表した。


 これらの相次ぐ不祥事により、漫画家がマンガワンでの配信から撤退すると表明したり、「小学館漫画賞」の贈呈式が延期されたりなど、波紋が広がっている。SNS上でも手厳しい意見が大勢を占めている。


●「発表の遅さ」が招いた、ネットユーザーの憶測


 小学館は一連の問題発覚を受けて、第三者委員会を設置して、原因究明に取り組むとしている。しかし世間の風当たりは、小学館が思っているよりも強い。なかでも批判を集めているのが“発表の遅さ”で、それが「隠蔽(いんぺい)体質があるのではないか」という臆測を招いている。


 実際、SNS上で拡散されてから、マンガワン側が声明を出したのは2日後。ネットユーザーからは「対応が遅すぎる」「もっと早く声明を出せなかったのか」といった声が出ている。


 そもそも2022年の『堕天作戦』休載は、体調不良や「私的なトラブル」を理由としていた。3年半にわたり、本当の理由(罰金刑)が公表されていなかったことへの不信感が、あわせて湧き上がってきた形と言えるだろう。


 また、『常人仮面』作画担当の鶴吉繪理氏が「私は事前に何も知らされておらず、今回報道やSNSを通じて初めて知りました」とX投稿したことも、波紋を広げている。


 原作者と作画担当は二人三脚にもかかわらず、重要な事実を伝えていなかったとなれば、編集サイドへの不信感が浮かぶのも当然だ。なお、鶴吉氏のX投稿は、小学館が声明を出す前日に行われていた。


●「作品に罪はない」という擁護が見られない理由


 作者が何らかの罪に問われた時に、その作品にも責任は生じるのか。「作者と作品は分けて考えるべきだ」といった考え方は、ここ数年で増えているように感じる。薬物や性的事案についても、その文脈からの擁護は通常であれば一定数ある。


 しかし、今回の事案では、そうした擁護があまり見られない。その理由として、この事案が「組織のコンプライアンス問題」に発展していることが挙げられるだろう。各作品における掲載の是非を超えて、議論の焦点は小学館という組織そのものに向かっている。


 つまり、マンガワン編集部単体の問題ではなく、小学館という企業の姿勢が問われている。もしかすると「名義を変えれば、その人物の前歴をリセットできる」といった認識が、社内全体にはびこっている可能性はないか――。そうした疑念がうずまいているにもかかわらず、あくまで“個別の事案”とするような姿勢を示すとなれば、批判されても仕方ないだろう。


 ただでさえ小学館は、漫画『セクシー田中さん』の事案でも、その対応が批判されていた。現在でも「テレビドラマ化における脚本をめぐって、原作者の意思が尊重されていなかったのではないか」といったイメージを払しょくできていない。


 その上に、マンガワン問題が重なった。すでに現在でも、作画担当者などに影響が出ており、その立場を守りきれるのかと、不安視する声は少なくない。となれば、あくまで編集部が主体の出来事だったとしても、企業としての対応が求められるのは当然と言えるだろう。


●「守るべき相手」を見誤っていないか


 このような不祥事が起きた際、本来であれば、企業は善良な他の連載者や読者の側を取るべきだ。しかし、どこか内向きの論理から「守るべき相手」を見誤っている印象を受けてしまう。保身に走っているように映れば、さらに風当たりは強くなる。


 小学館は3月4日、「週刊文春」の報道に対しての“見解”を公式サイトに掲載した。文春記事では、山本氏と被害女性の和解協議について報じられていたが、小学館は以下のように反論している。


担当編集者より法務室に相談がありましたが、弊社は当事者ではないため、弁護士への委任を山本氏に促すよう指示しております。この和解協議について、会社ぐるみで関与したとの認識はございません。


 こうした対応を見ていると、事案そのものが「会社ぐるみ」ではないにせよ、そう思っている人々が多いことに向き合う必要があるのではないかと感じる。SNS社会では「事実」よりも「印象」が優先されがちなため、ただ単に事実を示したところで、好意的には受け入れられにくいのだ。


●フジテレビの二の舞か


 今回の炎上に重なるのが、2025年初から話題になったフジテレビの事案だ。きっかけは「中居正広さんの個別事案」だったが、最終的に企業倫理そのものを問われ、スポンサーが相次いで広告出稿を中止する結果となった。


 今回の騒動も、そうした形に発展する可能性がある。いまのところ、作家がマンガワン配信を中止する程度にとどまっているようだが、今後あらゆる媒体から撤退される可能性は否定できない。また漫画以外のジャンルにも波及するおそれがある。


 最大の心配は、子ども向けIP(知的財産)への波及だ。小学館は人気キャラクターを数多く擁しており、地上波のテレビアニメでも引っ張りだこだ。これら無関係の別部門であっても、もし「小学館は現状認識が甘い」と判断されてしまえば、とばっちりを受ける可能性がある。


 現状の説明を見る限り、第三者委員会による検証は、マンガワンに限定されたものとなっているようだ。しかし同時並行で、全社的な検証・再発防止策の策定を行わない限り、その場しのぎの対応になってしまいかねない。


 再三になるが、すでにSNSでは「マンガワン」という媒体ではなく、「小学館」という巨大メディア企業の対応に注目が集まっている。もしその主題を見誤ってしまえば、炎上の長期化・拡大化は避けられないだろう。


●著者紹介:城戸譲


1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ニュース配信会社ジェイ・キャストへ入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長、収益担当の部長職などを歴任し、2022年秋に独立。現在は「ネットメディア研究家」「炎上ウォッチャー」として、フリーランスでコラムなどを執筆。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。



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  • 罰金を払ったということは、罪を償ったということ。それでも連載はじめちゃいけないのか?つまり、罰金刑くらったら仕事しちゃいけないのか?
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