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30年以上にわたり日本の音楽シーンをけん引してきたプロデューサー・佐久間正英のドキュメンタリー番組『ハロー・グッバイの日々〜音楽プロデューサー佐久間正英の挑戦〜』(NHK総合)が、12月25日24:10より放送された。
(参考:「いずれは人の声も、楽器も必要なくなる」佐久間正英が夢見る、未来の音楽とは)
佐久間は今年8月、自身のブログにてスキルス胃癌のステージ4になっていることを告白、多くの音楽ファン、関係者に衝撃を与えた。ブログには、「同じ時間を過ごすなら少しでも楽しく有意義な時を送ろうと気持ちを切り替えるのにさほど時間はかからなかった」と、その心境がつづられている。
佐久間はこれまで、個性的なロックバンドのサウンドに磨きをかけ、ポップ性を発露させる手法によって、数多くのミリオンセラーを生み出してきた。BOOWY、JUDY AND MARY、GLAY、エレファントカシマシ、THE BLUE HEARTS、くるりなど、錚々たるバンドが、佐久間によって才能を開花させている。同番組には、佐久間とともに名作を作り上げたミュージシャンが多数登場し、佐久間との仕事や人柄を語った。
布袋寅泰は、佐久間とともにベルリンにてレコーディングしたBOOWYのアルバム『BOOWY』について、「非常に実験的な部分もあったし、アヴァンギャルドとポップの融合性(が図られていた)。ベルリンっていう空気をはらむことによって、あまり装飾過多にならない極太のロックンロールとポップが結びついた。あのアルバムで我々が思い描いていたサウンドを本当に形にすることができたので、忘れらないですね」と語った。
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レコーディング環境や、ミュージシャンとのコミュニケーションまでを含めてプロデュースする佐久間のスタイルは、JUDY AND MARYにも大きな影響を与えた。YUKIは「マイクを持たずにレコーディングするのが自分にとって不自然な感じだったので、本当に歌えないなって困っていたら、いつの間にかブースにマイクを置いておいてくださって。(中略)もっと自由に音楽、歌を歌っていいんだって教えてもらいました」と語った。また、ギタリストであるTAKUYAの才能を見出したのも佐久間だ。TAKUYAは「僕が思っていた音楽とか、やりたいなって思っていることとか、世の中の人に全然話が通じなくて。(中略)初めて佐久間さんが僕の言っていることをわかってくれた」と、当時のことを振り返った。
GLAYもまた、佐久間によってポップ性を磨かれたバンドのひとつ。TAKUROは「プロデューサーの仕事として、一番影響を受けた。要するにちゃんと整理してあげるっていう。音楽以外でも会話とか、会議とか、学校の授業でもなんでもそうなんですけど、相手にわかるように。わかりづらい言葉はちょっとわかりやすい言葉に代えるとか。そのバンドの個性を活かしながら、ちょっとだけわかりづらいところを直す。それはたとえば姿勢みたいなもので、そこを直してあげると、そのバンドの個性がより引き立つ」と、佐久間からプロデュースの妙を学んだことを明かした。
佐久間は番組内のインタビューで「ドラムの音を決める。たとえばスネア一個の音を決めるのに、どうやってやるか。この曲にはこのスネアの音がいい。あるいはこの曲にその楽器は合うんだけど、チューニングが違う。あるいはその曲に合わせるには叩き方を変えなければいけない。それはスネア一個でもそうで、ほかのものにも全て通じる事。全部の楽器に至ってそういうことがある」と語っている。ひとつひとつの音をどう研ぎ澄ませていけば、イメージ通りのサウンドに近づくか。それを探るのが佐久間の仕事だった。
番組の後半では、佐久間が10月にアメリカのシカゴ大学に、日本文化研究のライブイベントで招かれた時の様子も放送。イベントでは、佐久間が少年時代に絶大な影響を受けたというシンガーソングライター・早川義夫との共演を果たした。その日の演奏について佐久間は「自分はこの人の歌のために音楽をやってきたのではないだろうか。この人と出会うためにギターを弾き続けてきたのではないだろうか」と、ブログに綴っている。
また番組の最後では、佐久間が前出のTAKUYA、世界的に活躍するドラマーの屋敷豪太、佐久間にとっていとこの娘に当たる乃木坂46の生田絵梨花らと新曲「Last Days」をレコーディングする様子も紹介された。佐久間は入院先の病院からスタジオを訪れ、ベースのほかにピアノ、さらに2種類のギターを自ら演奏。生田を突如コーラスに参加させるなど、佐久間らしい自由なプロデュースワークも行った。TAKUYAがボーカルを務めるその楽曲は、タイトル通り、最後の日々の尊さを歌ったスローナンバー。ブリティッシュロック的な陰りのあるサウンドと、抜けの良いメロディがミックスされた、佐久間らしい名曲の誕生といえる。レコーディングを終えた佐久間は、仕上がりについて「大体予想通りの満足いく仕上がり」と語り、笑顔を見せた。
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日本の音楽シーンに大きな足跡を残してきた佐久間正英。厳しい病状にあっても、青年のような情熱で音楽に取り組むその姿は、多くの視聴者の胸を打ったに違いない。(リアルサウンド編集部)
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