<美濃加茂市長事件>社長のゆがんだ金銭感覚〜贈賄側業者の「証人尋問」詳報(上)

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2014年10月03日 16:31  弁護士ドットコム

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受託収賄などの罪に問われている岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長に対する公判は、贈賄側業者の証人尋問という山場を迎えた。10月1日、2日の名古屋地方裁判所。検察側の証人として、名古屋市の浄水設備販売会社「水源」の中林正善社長が法廷に立った。


【関連記事:<美濃加茂市長事件>弁護側が出した「隠し玉」〜贈賄側業者の「証人尋問」詳報(下)】



贈賄罪などで起訴された刑事被告人でもある中林社長は、自らの供述調書の内容に沿って、「藤井市長に現金を渡した」という主張を譲らなかった。一方、市長側の弁護団の厳しい追及を受け、その供述の信頼性が大きく揺らぐような場面も見られた。その法廷劇の模様を詳述する。(ジャーナリスト/関口威人)



●「借金」と「偽り」にまみれた会社設立


2日間の証人尋問でこれまでに以上に明らかになったのは、中林社長の借金まみれの人生とゆがんだ金銭感覚だった。



「水源」設立の十数年前、中林社長はゴルフ会員権の預託金返還をめぐり、多額の借金を背負うことになった。返済を迫られた相手は「暴力団だった」と証言した。



このため中林社長は、その当時、事務職で勤めていた病院の金を横領し始めた。その金額は、2005年からの7年間ほどで約1億5000万円にのぼった。横領した金は「主に返済、その他はキャバクラやクラブでの飲み代に使った」と明かす。



横領は二度にわたって病院側に発覚し、民事訴訟を起こされた。その後、定期的に返済することなどを条件に和解が成立したという。同じころ、中林社長は自分の会社である「水源」を立ち上げたが、「借金」と「偽り」にまみれていた。5000万円と登記されている資本金も「偽装だった」と認めた。



借金を借金で穴埋めするため、「会社は順調に売り上げを伸ばしている」と知人に嘘をついて、金を借り続けた。銀行に対しても「架空の工事をでっち上げ、発注書などいろいろ偽造して」融資をしてもらった。書類に必要な自治体の教育長などの印鑑は「インターネットの業者に頼んで作らせた」という。



だが、事業はうまくいかず、自転車操業に追い込まれていく。詐欺行為はさらにエスカレート。ある銀行の融資担当者については、「望まれるまま、キャバクラや風俗に接待していた」。こうして積み重ねた「融資詐欺」は15件、金額にして4億円近くにのぼる。しかし、詐欺罪として立件されたのは、そのうち2件、2100万円分にすぎない。



この点について、中林社長は法廷で「件数や金額が多いことは分かっていた。最初の詐欺罪で逮捕された後、弁護士に『全体で数億円はある』と話した。他の銀行から被害届けがあってもおかしくないと思った」などと話した。藤井市長の弁護団は、この犯罪事実全体に対する「立件数の少なさ」に疑問を投げかけている。



●「金さえ渡せば議員は動く」紋切り型の政治家像


一方、「事業は事業で、自転車操業を抜け出したいと、やれることをやっていた」と中林社長は語る。浄水設備プラントを全国に普及させることを目標にしていたが、まず名古屋で導入を進めようと、名古屋市議会のN市議に接近したという。中林社長は法廷で「N先生に10万円を渡した」と明言した。



そのN市議の秘書であるT氏を介して、2013年2月に知り合ったのが、当時は美濃加茂市議だった藤井市長だ。第一印象は「さわやかな好青年だと思った」。



その後、数回の会食を重ねた結果、藤井市長が浄水プラントに興味を持って動いてくれるようになった。そのころ、「議員の給料は安い、選挙には金がかかる、などの話が出た」ため、中林社長は「少額なら渡しても大丈夫だと思った」のだという。だが、藤井市長の弁護側は、それらの金銭事情を語ったのは藤井市長ではなくT氏だったはずだと指摘。中林社長も「本人がその場では言っていなかった」と修正した。



2013年春、前市長の突然の辞職表明に伴う市長選への立候補という話が持ち上がりながらも、藤井市長は浄水プラントの導入を急いだ。「それは私がお願いしたから動いてくれた」と中林社長は思い込んだ。その上で、「役人に働きかけてほしい。このスピーディーさを持続してほしい。そのためにはお金を渡さなければ」と思いをふくらませたのだという。



しかし、弁護団から「具体的に何を期待したのか、どうしてほしかったのか」と問われると、「あまり深くは考えていなかった」。ここで露わになったのは、「金さえ渡せば議員は動く」という紋切り型の政治家像、議員の圧力で当局が物事を進めるという中林社長の単純な認識だ。



※下につづく・・・藤井市長の弁護団が繰り出した「隠し玉」とは?


(弁護士ドットコムニュース)



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