「ももクロは『崖っぷち』のヘタレのために存在する」境真良氏が語る「国富論」(下)

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2014年12月06日 10:51  弁護士ドットコム

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AKB48、ももいろクローバーZ(ももクロ)、モーニング娘。——。「アイドル戦国時代」と呼ばれるほど、女性アイドルグループが活況を呈しているが、それぞれどのような違いがあり、どんな役割を果たしているのだろうか。グローバルな競争社会から脱落しそうな中産階級をアイドルが救うと主張する『アイドル国富論』(東洋経済新報社)の著者で、現役の「モノノフ」(ももクロのファン)でもある境真良氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員)にインタビューした。(取材・構成/新志有裕)


【関連記事:「アイドルがグローバル資本主義の『負け組』を救う」境真良氏が語る「国富論」(上)】



●より抑圧の強い人が「ももクロ」のファンに

——各グループはどういった人に受け入れられているんですか?



「『マッチョ』と『ヘタレ』という言葉で説明すると、AKBも、ももクロも、ヘタレの人たちが推しているのですが、色合いが異なっています。



AKBは比較的余裕のある人に受けているのではないでしょうか。総選挙のように、競争がコンテンツとして受け入れられているのです。メッセージもライトです。一方で、もっとつらくて、より抑圧が強い人が、ももクロのファンになると思ってます。崖っぷちの人たちです。



AKBは総選挙のように、みんなで戦って、勝とうとするものです。推しメンがいて、勝ったり負けたりといったドラマを楽しむものです。



しかし、ももクロは『絶望』からの救済です。その歌詞は『大丈夫』『弱くない』『絶対あきらめない』といったものです。自分が問題にしている基準ラインがAKBとは異なっているのです。まぁ、見方によってはAKBファンは『戦い』をアイドルに投影するだけなのに対し、ももクロファンは自らのこととして受け止めている、つまり前向きだともいえるので、どっちが抑圧されているかは解釈問題なのかもしれませんが(苦笑)」



——では、モーニング娘。はどうなんですか?



「モーニング娘。は何かを極めたい、というかっこよさを見せるもので、アイドルの中ではよりストレートなマッチョに近い。AKBやももクロとは全く軸が異なっています。海外で受けているのはAKBやももクロよりも、ハロープロジェクト(モーニング娘。など、つんく♂プロデュースのアイドルたち)です」



——100人以上いるAKBと、5人のももクロでは、人数が全然違いますよね。



「AKBというグループの枠は、推しメンのための舞台でしかありません。あまりに人数が多くて、グループというものが視野に入っていません。しかし、ももクロは5人しかいないので、相関関係がより強く見えてしまうわけです。



『かなこ』(百田夏菜子)と『れに』(高城れに)は現元リーダーコンビで、『かなこ』と『ももか』(有安杏果)は同級生コンビです。『かなこ』と『しおり』(玉井詩織)は『ももたまい』と言われる、レズっぽい関係があって、『かなこ』と『あーりん』(佐々木彩夏)の間にはリーダーとサブリーダー的役割の関係があって…。他にも『推されたい』とかいろいろありますが、全部がつながっています。どれも動かすことができない関係なのです。



つまり、どのメンバーのファンだったとしても、グループという『箱』推しになります。ですから、AKBの総選挙など大きなライブでは推しメンのファングループごとにやや火花が散ってるらしいですが、ももクロは違う推しメン同士でも同族意識でほんわかした雰囲気になります。AKBと全然ファンの気質が違う」



●なぜ男性アイドルに注目しなかったのか

——ファン層には男女の違いがあるのでしょうか?



「モーニング娘。は割とマッチョで、女性ファンが多いのが特徴です。男性と女性とでは、女性アイドルに対する見方が異なっています。男性はどこかで疑似恋愛として見ているので、自分よりも強い女性を避ける傾向があるようですが、女性にはそういう傾向がなく、あこがれの視線で応援しています。



モーニング娘。は意外と男性に受けづらくなっているかもしれません。AKBが生まれた2005年ごろに、モーニング娘。はメンバーの脱退が相次いで、高橋愛を中心にした新体制で、本物性を持とうとしました。特に、ダンスですね。



その結果、1997年にはSPEEDよりもアイドルっぽかったのが、今ではよりアーティスト的になりました。その結果、アイドルっぽさを求めた男性が今度はAKBに流れた面があるのかもしれません。



あくまで相対的な比較ですが、モーニング娘。の支持者には若い女性が多く、AKBには若い男性が多いイメージです。ももクロは、男女まんべんなくいますが、比較すると高年齢の人が多いというイメージです。いずれにせよ、『スーパーマッチョ』はいません」



——今回の著書『アイドル国富論』では、女性アイドルの話が大半で、男性アイドルの話が非常に少なかったのですが、それはなぜなんですか?



「女性アイドルにはマッチョとヘタレの波があるのに対して、男性アイドルは比較的一本調子だからです。評論の対象として採用しませんでした。



その背景には、1980年代以降、ファンである女性のマッチョ化が続いていることがあります。女性を『解放』しよう、社会進出を推し進めようという動きが出てきて、もちろん、女性の方々はそれが思うように進まないことに不満なのはわかりますが、それでも、時に停滞はしたとしても、だいたい今まで一貫して続いています。そこが時代とともに揺れ動く男性との違いです」



——今後、新たに台頭するアイドルグループはあるのでしょうか?



「BABYMETALが割って入るかもしれません。日本でメディアをこじ開けるのは難しいので、まずは海外でウケて、『海外で人気』ということで日本に入ってくる形です。ただ、海外にはアイドルというジャンルがないので、『●●をやるキュートな女の子(日本流に言えば、アイドル)』という位置づけになります。



BABYMETALの場合は、メタルをやるアイドルという位置づけです。Perfumeがテクノをやるアイドルという位置づけになっているのと同じです。



アイドルど真ん中としては、ベイビーレイズも推したいですね。あとはアリスプロジェクトの各グループにもずっと期待しているんですけど。鬼っ子中の鬼っ子ですから」



●「ももクロ」は組み替えの余地が少ない

——AKB、ももクロ、モーニング娘。の見通しはいかがでしょうか?



「AKBやモーニング娘。は、フレームとして『メンバー入れ替え』を前提としています。特にAKBはものすごく人数がいます。ファンの人気によって、クローズアップされるメンバーが変わってきます。



一方で、ももクロは完成されたもので、組み替えの余地が少ない。後継グループを作っても、当たり外れが出てきます。かつても、キャンディーズの後を継いだトライアングルは失敗しました。



ももクロの妹グループとしては、『チームしゃちほこ』や『私立恵比寿中学』『たこやきレインボー』がありますが、どれかが当たれば良いという感じではないでしょうか」



——境さんは「モノノフ」(ももクロのファン)とのことですが、ももクロの推しメンは誰ですか?



「『あーりん』(佐々木彩夏)ですね。当初、『あーりん』は僕が推さなくても人気があると思ってました。そこで、やや個性不足ながらストレートな美少女『しおりん』(玉井詩織)を推すことにしたんです。しかし、2012年冬のライブ『ももいろクリスマス』に行ったとき、『しおりん』のファンが多くてですね(苦笑)。



一方、『あーりん』はチャイドル時代からあの路線一直線で頑張っているのに、このファン率ではいかんと思った。そこで僕は2012年の暮れに『人生の大決断をする』とツイッターで書いたんです。それが『しおりん』から『あーりん』への『推し変』でした。バカですよねー(笑)」



——境さんは「ヘタレがももクロのファンになる」とおっしゃっていますが、それは境さん自身が「ヘタレ」ということになるんでしょうか?



「え? 俺はヘタレですよ、すごいヘタレ。エチケットのないマッチョは嫌いなんですよ。周りを不快にすることを理解していないエセ権力者も世の中には多いでしょ。けれども、そういう不快感は社会を不安定な対立へ向かわせてしまいます。もう、自由競争を叫んでばかりいればいい時代は終わったんです。



そういうものと戦っているという意味で、僕もマッチョな部分を持つ『ヘタレマッチョ』なのかもしれません。今回の本は、僕自身を癒やす部分があったかもしれないと思っています。私小説的発見から始まっていますからね。『中産階級を不快にしない社会』というところには、僕の価値判断がもろに入っているんです」



※上編「アイドルがグローバル資本主義の『負け組』を救う」は、こちら。



(弁護士ドットコムニュース)


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