隣家の「電気」を自宅に引いた女性が逮捕――物を盗まなくても「窃盗罪」なのはナゼ?

1

2015年04月22日 09:51  弁護士ドットコム

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

弁護士ドットコム

記事画像

自宅の電気が止められていたから・・・。隣の家の電気を自宅に引いて使ったとして、京都府警木津署は4月中旬、京都府木津川市内の女性を「窃盗罪」の容疑で逮捕した。


【関連記事:「穴あきコンドーム」で性交した男性がカナダで有罪に・・・日本だったらどうなるの?】



報道によると、女性は2014年3月から2015年1月にかけて、隣家の屋外に設置してあった給湯器用のコンセントに延長コードを差し込み、約2万2000円分の電気を盗んだ疑いがもたれている。「家の電気が止められ、エアコンなどに使っていた」と容疑を認めているという。



窃盗罪というと、お金など「目に見えるモノ」を盗むことが思い浮かぶ。なぜ、電気を勝手に使った場合も、窃盗罪になるのだろうか。刑事事件にくわしい福村武雄弁護士に聞いた。



●窃盗罪の「財物」とはなにか?


窃盗罪について定めているのは、刑法235条だ。そこには「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし・・・」と書かれている。この条文について、福村弁護士は次のように説明する。



「窃盗罪の対象となる『財物』は本来、目に見えるモノや、形あるモノを想定しています」



福村弁護士はこのように切り出した。電気は目に見えないし、形もないが、なぜ窃盗罪の対象になるのだろうか。



「電気については、刑法の窃盗罪が定められている章に『電気は、財物とみなす』という条文があります(245条)。形はないけれども、特別に窃盗罪の『財物』にあたるとされているわけです。



というわけで、無断で隣家の電気を利用することは、窃盗罪に該当します。



この条文が追加される以前は、『ガスは有体物であるため、窃盗罪の対象になるが、電気は単なるエネルギーであり有体物ではないため、窃盗罪の対象にはならない』という見解も存在しました。



明治時代に、電気を盗んだ者を『無罪』にした裁判例も存在します。



しかし、その裁判例の上告審で、現在の最高裁判所にあたる大審院は、『管理可能なもの』であれば、窃盗罪の対象となる『財物』にあたるという基準を示しました。そして、電気は電圧計や電力計で管理可能なので、窃盗罪の対象となる『財物』にあたると判断しました」



●Wi-Fiの電波も「窃盗」になる?


では、外出先などで、パスワードがかかっていないWi-Fiの電波(野良Wi-Fi)に「ただ乗り」した場合も、「財物」を盗んだことになるのだろうか。



「二つの考え方があります。



ひとつが、窃盗罪の財物にあたるのは、『有体物』つまり、形あるモノに限るという考え方です。この考え方だと、電気はあくまで例外で、形のない電波は窃盗罪の『財物』にはあたりません。



もう一つは、先ほど述べた判例と同じく、形が無くても、管理することができるなら『財物』だという考えです。もっとも、Wi-Fiの電波は管理可能性があるとはいえないので、『財物』にはあたりません」



結局、Wi-Fiの電波を無断で利用しても、罪に問われないということだろうか。



「刑法上の窃盗罪として処罰されることはないと思います。



ただし、パスワードにより保護されているWi-Fiの場合、パスワード等を不正に取得して利用する行為は『不正アクセス行為の禁止等に関する法律』に違反するとして、処罰されます」



福村弁護士はこのように述べていた。



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
福村 武雄(ふくむら・たけお)弁護士
平成13年(2001年)弁護士登録、あすか法律事務所所長
関東弁護士連合会・消費者問題対策委員会元副委員長、埼玉弁護士会消費者問題対策委員会元委員長、安愚楽牧場被害対策埼玉弁護団団長
事務所名:あすか法律事務所
事務所URL:http://www.asukalo.com



    ニュース設定