『鋼の錬金術師』は、エルリック兄弟が自分の肉体を取り戻すという“横糸”に、ホムンクルス「お父様」が企てる陰謀という“縦糸”が加わり、複雑な展開が絡み合います。そんな中で特に異色な存在ともいえるのが、人間でありながらホムンクルスに協力する「紅蓮」の錬金術師「ゾルフ・J・キンブリー」でしょう。一見すると、錬金術師としての自らの能力を最大限に生かした(?)快楽殺人狂ですが、彼の言葉には欺瞞を暴く力があり、時に他の人に大きな影響を及ぼします。
人間を見限ったわけではなく、「人とホムンクルスどちらが生き残るか見極めるのが目的」と語る「ゾルフ・J・キンブリー」。単なる「エルリック兄弟」の敵という位置づけではなく、ユング心理学における「トリックスター」的な存在と言えるかもしれません。
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【※一部、ネタバレの内容を含む可能性が御座います。ご注意下さい。】
■損得抜きでホムンクルスに協力
話が進むにつれ、アメストリス軍の中枢はほとんどが「お父様」の協力者である事が判明します。その動機は、“ホムンクルスの協力者は「約束の日」には選ばれし者として不死の命を得られる”という甘言に乗せられての事(クセルクセス王と同じく騙されているのですが)。しかしキンブリーは、「好きに人を殺させてくれるから」という理由で積極的に協力しています。原作と異なり、アニメでは第1話から登場。上官を殺した理由は軍への怒りなどではなく「殺したかったから」・・・と、快楽殺人者としての一面が早くも描かれています。
■生と死を見つめる目
彼は自分でも「異端」である自覚を持っているようですが、それは単に“殺人狂だから”ではなく、彼が「生」と「死」の境界線に身を置く事にこの上ない充実感を覚えるという点にあります。「スカー」を追撃する途中で重傷を負った際も、その充実感に身を震わせています。ホークアイ中尉に放った名言「死から目を背けるな。前を見ろ。貴方が殺す人々のその姿を正面から見ろ。そして忘れるな。奴らも貴方の事を忘れない。」には、自分もいつ「奴ら」の方になるかもしれないという無常観を感じます。だからこそ、この言葉は単なる殺人鬼の言葉としてでなく、人々の心に深く残ったのでしょう。
■ポリシーを貫いた生き様
「信念を貫く人は好き」とキンブリーは言います。この言葉の前には彼にとっては敵も味方もありません。「殺さない決意」を語ったエドを「甘い」と一蹴するかと思いきや、「それもまた貫けば真実」と感心した様子さえみせています。これが、クライマックスのエド対ホムンクルス「プライド」の重要な伏線になっているとは・・・。
ポリシーを貫かなかったプライドを、「あなた、美しくない」と一蹴し、エドはプライドを殺さないという確信に満ちています。そして、プライドの消滅が自らの消滅を意味するにもかかわらず、自分を貫くエドに味方する事でキンブリー自身も信念を貫き消滅するのです。敵でありながら、ハガレンキャラクター人気投票第9位にまでなっただけの事はあります。
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★記者:ルーデル(キャラペディア公式ライター)