なぜ落合陽一はONE OK ROCKを「着た」のか? エモさの魔法を聞いてみた

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2017年01月12日 21:01  KAI-YOU.net

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なぜ落合陽一はONE OK ROCKを「着た」のか? エモさの魔法を聞いてみた
1月10日(火)・11日(水)の2日間にわたり、東京・タワーレコード渋谷店で、ロックバンド・ONE OK ROCKの新アルバム『Ambitions』の体験視聴会「WEARABLE ONE OK ROCK」が実施された。

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視聴会では、“着る音楽”をコンセプトに掲げ、20のスピーカーを実装した革製ジャンパーとMA-1ジャケットを着用し、『Ambitions』収録の「We Are」を全身で感じることができる。

耳で聴く音楽体験とは一線を画し注目を集めたこのイベントには、開発/音響デザインを「現代の魔法使い」ことメディアアーティストの落合陽一さんが担当したことでも話題を集めていた。


そんな視聴会に参加することができたので、その体験をレポート。記事後半では、落合陽一さんに開発に秘められた思いを語っていただいている。

取材・文:ふじきりょうすけ 写真:ななみん

「WEARABLE ONE OK ROCK」とは?




「WEARABLE ONE OK ROCK」は、先述の通り、MA-1ジャケットと革製ジャンパーが用意されていた。衣装に実装された16チャンネル、20のスピーカーから新曲「We Are」が流れる。

スピーカーは衣装全体に埋め込まれているが、(ウーファーに接続されたケーブルが背中から伸びているものの)外見上では普通の衣服と判別がつかない。

筆者も実際に着てみると、重さを感じることも特になく、動きづらさは感じない。軽いものでは1つ3gほどまで調整を加えたのだという。



各スピーカーから音が流れることで、臨場感に溢れたサウンドとなり、身体を動かすことで曲の鳴りも変わってくる。特に、サブウーファーが生む低音や全身に響く振動が、ライブハウスで体験したような迫力を生んでいた。

インタビューによると、落合さんはそれを「外見の体験として重要」な部分だとし、ウェアラブルデバイスとアーティストの親和性を語った。そのほかに「WEARABLE ONE OK ROCK」開発の経緯や葛藤、そして専門分野であるメディアアートが、今後アーティストとどのように関わっていくのをうかがった。

体験者の外観をまったく乱さない「WEARABLE ONE OK ROCK」の音楽体験


──まず、今回の「WEARABLE ONE OK ROCK」制作の経緯は?

落合陽一 「ONE OK ROCKのウェアラブルデバイスをつくろう」という企画をいただいたんです。「どうすれば従来と違う『着る音楽体験』ができるのか?」というコンセプトの部分ですね。

「音楽を着る」方法自体はいっぱいあるんです。例えば、ウォークマンも音楽を着るひとつの方法だと言える。そこで何がいちばん面白いかなって考えたときに、服にオーディオの要素を取り入れていくのが面白いかな、と。

「WEARABLE ONE OK ROCK」は外見上、見た目は完全にジャケットなんだけど、スピーカーとしての機能も備えている。それをどうやって違和感なくつくるのかが、一番大きい課題でした。

──今回のジャケットはスピーカーが搭載されて、周囲にも音が聞こえるようになっていますよね。例えば、骨伝導の技術などを使えば着用者しか聴こえない体験も考えられるかと思うのですが、音が周囲に聞こえるような形式になった理由は?

落合陽一 完成にたどり着くまでに「着用した本人しか音が聴こえないものがつくれないか?」とか、紆余曲折はありました。

でも、自分一人で聴くような体験よりも、周辺に音を撒き散らしながら着用した本人が音楽を浴びる体験の方が面白いんじゃないの? と思ったんですよね。




──なおかつ、衣装は視聴会で流れる「We Are」のPVと同じものです。

落合陽一 体験者の外観をまったく乱さずに、かつ、写真を見ただけでは音楽を聴いてるとはわからない。そこがキーワードになっていて。

「WEARABLE ONE OK ROCK」の外見にガジェット感はないけど、実際は完全にガジェットなんです。衣装の中は有線のスピーカーが繋がっていて。機械的な部分が見えないようになってることが重要なんです。

──あえてガジェット的な部分を露出させたり、それこそ派手な演出として光らせたりすることも可能だったけれど、それは選択肢になかった。

落合陽一 もちろん体が発光する演出があるアーティストなら、装置が光っていいんです。でも「WEARABLE ONE OK ROCK」が光ると、ワンオクではなくなってしまう。そこがメディア装置の役割なんです。

つまり外側のファッション自体がコンテンツになっているんですよ。



──ワンオクを体験するためには、スピーカーの外見は邪魔になってしまう。

落合陽一 だから、いかにスピーカーを薄く軽くできるかが、外見の体験として重要なんじゃないかと思って。

その人の身体をどう見せたいかという没入感を高めるための装置なんです。そのアーティストのコスプレ的な体験とそれを全身で聴くというファンの体験が合わさるラインが世の中にはあったんですよ。

ワンオクというコンテンツが載ること前提で、「どれだけ音響特性がよくなる服がつくれるの?」って部分に燃えました。だって普通、革ジャンの下から音は出ないですよ(笑)。

メディアアートには適切な距離感が必要


──今回のONE OK ROCKもそうですが、過去にはSEKAI NO OWARIとのコラボレーションなど、落合さんはアーティストとの関わりも深いです。そういった立場を踏まえ、メディアアートとアーティストが今後どのように関わっていくのでしょうか?

落合陽一 コラボレーションにおいては、コンテンツとの距離感をメディアアート作家が調整するという面が大切だと思っています。

メディアアート自体はコンテクスト(文脈)が透明だからこそ、純粋に感動できると思うんですよ。体験として新鮮だったり、純粋に「きれいだ」と思うとか。

ただ、メディアアートは、コンテンツを志向するといつの間にかメディアアートじゃなくなっていくんですよね。

──「メディアアートでなくなる」というのは……?

落合陽一 メディアアーティストが真ん中で歌ってしまったたら、それはミュージシャンになっちゃう。ストーリーを付け過ぎたら映画になっちゃうし。だからメディアアートは、コンテンツとどのくらいの距離を置くかというのがすごく重要になると思うんですよ。

──なるほど、「メディアアート」そのものには抽象性が必要なんですね。

落合陽一 そう、抽象性がないとメディア装置自体の表現とは言えないんです。



落合陽一 もちろんメディア装置の表現じゃないメディアアートもいっぱいありますよ。でも、電子メディアを使ったライブパフォーマンスはメディアアートと言われるけど、メディア装置についてハックしたりしている訳ではないじゃないですか。

例えば、ライゾマ(Rhizomatiks)さんの作品としてつくられるものは、すごく透明なもの。だけど、Perfumeが作品に乗ると、Perfumeになっちゃうんですよ。そうなるとメディアアートではなく、コンテンツですよね。




──コンテンツとメディアアートの距離が近付きすぎると……。

落合陽一 それこそ演出家になってしまうんですよね。逆にコンテンツと距離を置くことで、メディア装置の表現として、いろんな人に届く。その駆け引きがあるんです。

だからライゾマの真鍋さんも、自分のメディアアートとして発表する時や、ライブ演出としてやる場合など表現形式が数種類あるじゃないですか。コンテンツとの距離感が上手いんですよね。



m plus plusがEXILE「EXILE PRIDE〜こんな世界を愛するため〜」MVにLEDスーツのシステムを提供。

落合陽一 ほかに「m plus plus」の藤本さん。彼もメディアアートとして自分の体が光る服をつくってたんですよ。でもEXILEさんとコラボしたら、コンテンツと出会って全然違う表現になった。

僕は古典的な……メディア装置を使ったメディアアートの一派なので、コンテンツとどのくらいの距離を適度に保つかが重要なキーワードになるんです。

コラボする相手のファンにならないと全然ダメ



──メディア装置とコンテンツとの距離感が、今後メディアアーティスト自身の課題となっていく。

落合陽一 普段はメディア装置ありきで考えてるんです。だけど、今回のような場合には、服が鳴ること自体が面白い一方で、「ワンオクを鳴らすにはどうしたらいいのか?」という思考も重要なんですよ。

メディア装置としての「WEARABLE ONE OK ROCK」自体は鳴る服で、本来曲は何をかけてもいいから、コンテンツとして定まらないんです。だから「メディア装置がどうコンテンツと関係するか」ということもしっかりと考えなきゃいけない。

ワンオクというコンテクストを載せた瞬間に、それはロックの音楽の装置になるし、みんながコスプレして、ポーズを取りたい装置にもなる。

装置をつくったから、プラットフォームにして、少しチューニングしてコラボしよう、みたいな行為はすごく荒が出る。コラボする相手のファンにならないと全然ダメなんですよ。

──一度リスナーとしての観点を取り入れるような?

落合陽一 だから今回、10代の気分になろうと思ってワンオクを超聴いたんです。同じ曲を1,000回くらい聴いたんじゃないかな(笑)。

この視聴会の前日にNHKでワンオクの特集番組※が放送されたんですけど、その放送を見て、ミキシングをもう1度、全身から鳴り響くよう直前に変えましたからね。



落合陽一 あの番組には猛烈な熱気や怨念めいたもの、それに希望も漂っていて。彼らは、閉塞した空気感のなかでワンオクを信じてるんですよ。「ワンオクが大きくなってくことが嬉しい」みたいなことを言う人たちもいて。

番組に出ていた18歳の子たちを通して、音楽は鑑賞するものじゃなくて、体験/体感して、なおかつ自分でやるものだとわかったんです。

実際、イベント初日にTwitterで視聴会の反応を見ていたら、おそらくその収録に行った人たちが「全身から鳴り響く『We Are』が聴こえた」って喜んでたんです。その「全身から鳴り響く『We Are』の音」が、彼らにとって重要みたいで。

ワンオクはそういうコンテクストなんだ」と、しっかり理解しないと駄目。それがないと、たとえコラボしても、すごく甘くなっちゃうと思うんですよね。

落合陽一が光と音にこだわる理由



──「WEARABLE ONE OK ROCK」もそうですが、落合さんが音や光にこだわるのはなぜなんでしょう?

落合陽一 音と光、オーディオビジュアルにこだわるのは、エジソンがやたら好きだからですね。電球、映写装置、蓄音機──20世紀のオーディオビジュアルの文化は全部彼がつくったんですよ。

その後、我々はどうやってそれを超えていけるのかをキーワードにしています。だからコンピューテーショナルに音と光の文法をつくって空中に見える映像をつくったり。

最近出したプロダクトだと『ホログラフィックウィスパー』という耳の周りだけで音がするスピーカーといったものを制作しているんです。今回は、その路線で一番攻めてると思いますね。

弊社ピクシーダストテクノロジーズの初の製品「ホログラフィックウィスパー」のリリースが出ました!超音波技術を使って空中に点音源を作り出し人に囁くスピーカーです.星先生村田さん田子さんWOWさまいつもありがとう!DCEXPOでみれます!音も三次元に!そして個別のコミュニケーションへ! pic.twitter.com/61H6XVS99r

— 落合陽一/Dr.YoichiOchiai (@ochyai) 2016年10月27日


──攻めてるというのは?

落合陽一 だって「日常生活で使いますか」って言われたら、絶対使わないもん(笑)。

ただ社会にはハマるんです。このメディア装置があったら、ファンは全員着たいんはずなんですよ。それは、すべてのアーティストにおいて言える。

ハレの場でしか使わないテクノロジーだけど、そこに本質的な価値があるんです。音楽の体験は、耳元に対して音を最適化することだけをやってきていた──逆に、身体に対して音楽を最適化することは利便性を考えたら意味がないんですよ。だからこそ体験として価値があるんですよね。

オーディオビジュアルは、つい意味があることを求めてしまう。「スマホで使えんの?」「仕事になんの?」「映画館で使えんの?」とか言うんですけど、全然そうじゃない。意味があるかと価値があるかは全然別なんです

──オーディオビジュアル部門の利便性から離れて、身体的な体験を重視した。だから攻めているんですね。

落合陽一 僕は普段、どうすれば人類社会が変わるかなと思って、どこにでも使えるオーディオ装置とかビジュアル装置つくろうとするんです。今回はそういうことを全然考えてなくて。

ワンオクに変身する体験を提供すること


──身体を同一化させた上で音楽を聴く経験はファンにとって貴重で価値のある体験だったと思います。視聴会の反応はいかがでしたか?

落合陽一 視聴会に来たファンの子たちが上げてる写真を見るとすごい感動的なんです。ファンの子たちは、完全にTAKA本人になりきって「俺はTAKAになった」ってツイートしてるんですよ。

#WEARABLE_ONEOKROCK#ONEOKROCK #weare #18祭
ワンオクの着る試聴会!!
私は左手のTakaさんのMA-1を着ました!
動く度に違った音の響きが聞こえて名実ともに音に体を包まれてる感じで最高でした!Weareでやってくれて嬉しかった! pic.twitter.com/erYh7tGm3J

— Sakura@18祭余韻 (@sakura1030_1111) 2017年1月10日


落合陽一 本質的には、どのアーティストにもそうしたいファンがいるんだろうなって。これははじめに企画を提案してくれた株式会社GOの三浦さんの慧眼だと思います。

同席されていたクリエイティブディレクターの三浦さん(GO.inc) VRや映像の分野でも、没入感──なかなか一人でできないことを、どうやって体験させられるかが今後のコンテンツのテーマになると思っているんです。今回、音楽の分野で没入感をはじめて実現できたに近いんじゃないかなって。

落合陽一 VRしてる時って、格好悪いじゃないですか? VRを体験してる自分は写真を撮られたくないんですけど、ウェアラブルなものは積極的に撮ってくれとなるんですよ。

──個人に依存する没入感とは、真逆の積極性をウェアラブルデバイスは生むのでしょうか?

落合陽一 第三者から見られる自分──どう見られたいかという体験を同時に満たしていることが、ウェアラブルデバイスの特殊な点ですね。いわばハードウェアとしての服だと言えます。

アーティストとメディアアートが生む新体験


──今回のジャケットをプラットフォーム化させ、装置が普及していくような展望があるのでしょうか?

落合陽一 増えてく可能性はかなりあると思いますね。視聴会の反応を見て確信しました。

「WEARABLE ONE OK ROCK」はONE OK ROCKのために今回は曲に合わせてスピーカーを選んで、独自にチューニングをしているんです。それこそ、マイクスタンドをしっかり握ったときによりいい音が聴こえるよう意識して設計していたりだとか。



落合陽一 でも、どのアーティストでも、同じノウハウでこの体験を再現できるんですよね。

例えばBABYMETALの衣装を着て全身からBABYMETALの音楽を体験できるじゃないですか。それがでんぱ組.incでもいいし、AKB48でもいい。ジャニーズも服が特徴的ですよね。

──それこそ故人のアーティストなんかは、特に需要がありそうな。

落合陽一 象徴的な例だとプレスリーやビートルズもそうだし。かっこよくて、ファッションすらも真似たいと思われるようなアーティストさんはいっぱいいますよね。

その人の服に包まれた上で、そこに最適な音楽がかかるってのは体験としてすごい新しく、発展性が高い話だなと。身体を同一化させていくことが、「エモさ」に繋がっているんじゃないかな。

──ライブというレイヤーを無理やり体験者に載せるような。

落合陽一 しかも聴く側じゃなくて歌ってる側のライブを載せるみたいな感じなんですよね。普通に一般人がアーティストの服を着るんですよ。いわばコスプレなんだけど、音響体験がいいと納得できる。

──体験すると「体で聴け」という今回のキャッチコピーも少しイメージが変わってきます。

落合陽一 そうそうそう。「お前がTAKAになるんだ!」って感じですよ。
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