ルパン最新アニメ、なぜ“未熟な五ェ門”が主人公に?『血煙の石川五ェ門』小池健監督インタビュー

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2017年02月04日 10:13  リアルサウンド

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小池健監督

 モンキーパンチ原作『LUPIN the Third』シリーズ最新作『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』が、本日2月4日より公開される。これまで『LUPIN the Third -峰不二子という女-』『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』と、大人向けのルパン作品が生まれてきた本シリーズ。今作では、日本のヤクザの用心棒を務めていた石川五ェ門が、“バミューダの亡霊”と呼ばれる殺し屋・ホークと出会い、決死の戦いを通して最強の剣士として覚醒していく模様が描かれる。


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 この度リアルサウンド映画部では、『次元大介の墓標』に続いて本作を監督した小池健監督にインタビュー。監督が考える五ェ門の魅力や従来のルパンシリーズとの違いをはじめ、昨今のアニメ業界への印象について話を聞いた。


「五ェ門の心理描写や剣戟シーンは挑戦してみたかった」


ーー「LUPIN the Third」シリーズは、大人向けのルパンという印象があります。監督が特に意識したポイントは?


小池健(以下、小池):テレビで放送されているような“みんなが知ってるルパン”と毛色は違いますが、これもルパン作品のひとつとして受け入れていただけるように気をつけています。このシリーズならではという点では、出会って間もない頃のルパン一味が描かれているので、敵か味方かわからない緊張感を出したり、付かず離れずなルパン一味の距離感も演出していきました。


ーー『ルパン三世』には、魅力的なキャラクターが多数出ていますが、石川五ェ門をフォーカスしたのはなぜですか?


小池:『次元大介の墓標』に続く作品を作りたい、という相談をプロデューサーから受けた時は、まだ誰にスポットを当てるのか決まっていませんでした。ただ、『次元大介の墓標』の感想として、五ェ門がいないっていう声をたくさんいただいたため、今回は主役を石川五ェ門に決めました。


ーー他のキャラクターで迷うことはなかったですか?


小池:僕としても、まずはルパンの右腕左腕になるキャラを描きたいと考えていたので、割とすんなり決めることができました。もしも『次元大介の墓標』で五ェ門のことをきちんと描けていれば、違う選択肢があったかもしれないです。これまでのルパン作品でも、どちらかというと五ェ門はハブられやすい印象が強いですよね(笑)。描かれていないからこそ、メインに置いてしっかり掘り下げていけば、必ずドラマチックな作品が生まれるだろうと思いました。


ーーファンの声を汲み取ったんですね。監督自身は、五ェ門に思い入れはありますか?


小池:興味深いキャラだと思っていたし、五ェ門の心情や剣戟シーンを描くことは僕にとっても挑戦してみたい表現のひとつでした。彼は剣のこと以外にはまったく興味がないキャラクターで、剣術の腕を磨くことだけに人生を捧げている。その上、命を尊んで無駄な殺生はしないという考え方もかっこ良くて惹かれます。なぜそういう剣士になったのか、その理由を探るところからシナリオ作りも進めていきました。


ーー五ェ門の内面がこれほど浮き彫りになった作品はいままでにありませんでした。


小池:シナリオ担当の方には、なるべく五ェ門の感情の起伏が出るようなストーリーにしてほしいとお願いしました。五ェ門にとって感情が一番表れるのは、やはり剣術に絡む部分だと思ったので、彼が一番自信を持っている剣術が一度破られて、そこから這い上がっていくシチュエーションを盛り込むことにしました。


ーー“バミューダの亡霊”という異名を持つ大男・ホークが今回の敵キャラでした。そのキャラクター設計はどのように?


小池:『次元大介の墓標』に登場したヤエル奥崎は、知的で計画的に動くキャラクターだったので、そことの対比という意味も込めて、今回はパワー系でごり押ししてくるようなキャラクターにしました。見た目は隙だらけだけど強い男、スタン・ハンセンみたいなイメージです。このキャラクターのアイデアは、コンセプトデザインを担当している石井(克人)さんが考えてくれました。五ェ門の剣がホークに掴まれるラフデザインも最初からありましたし、五ェ門を泣かせるアイデアも石井さんからの提案でしたね。『PARTY7』の時からの付き合いになりますが、いつも創作意欲を刺激するような面白いアイデアを出してくれるんですよ。


ーー五ェ門がホークやヤクザと剣戟を繰り広げるシーンも力が入っていましたね。


小池:殺陣は男の強さの象徴と捉えているので、自然と力が入ってしまいますね。五ェ門が剣を抜いたらとにかくヤバイんだ、ということが伝わるようにカット割りや演出を考えていきました。刀を抜くまでの“溜め”と刀を抜いてからの対比が重要で、実際には一瞬しかないシーンをどれだけ綺麗に映像で見せられるか工夫を重ねました。少しでも美しく感じていただけたら嬉しいです。


ーー特に力を入れたパートはありますか?


小池:後半の見せ場である50人斬りは、作画の方々も大変だったと思います。絵コンテで斬る順番をざっくりと指示していますが、それを絵に落とし込んでいくことは、ものすごい作業量だったはず。現場の原画マンさんが緻密に書いてくれたおかげで、迫力のあるシーンにすることができました。


ーー作画とCGはどのように使い分けていますか?


小池:ここぞという見せ場は手書きにして、背景の描写をCGにすることが多いです。このご時世、作業を半々にしないと現場が回らないと思います。作画は本当に大変な工程なので、アニメーターがスムーズに作業できるようにケアするのも、監督の仕事のひとつです。僕が描いていた時も、とにかく目の前の作業に全力で取り組んでいました。自分で自分の首を絞めているのはわかっているけど、手を抜くことはできなかったです。


ーー五ェ門役の浪川さんの印象は?


小池:浪川さんは子供の頃から声優をしているので、どのカットも完璧でした。すぐにOKを出したくなっちゃうんですよ。前半部分の五右衛門はまだ未熟者なので、驕りのあるニュアンスを加えて、少し多めに感情を乗せて欲しいとお願いしていました。色々と細かい要望を出したのですが、何度も挑戦していただいたおかげで、この作品のイメージ通りの五ェ門にすることができました。


ーー本作には極道や裏社会もテーマにあると思います。日本の極道映画からインスパイアされた部分はありましたか?


小池:深作欣二監督の『仁義なき戦い』が好きで、その作品にインスピレーションを受けた部分はあるかもしれません。拳銃や火器の使用を制限して、手持ちの武器と体ひとつで戦うのが、この作品での裏社会に生きる強くて恐い人たちを上手く表現できるのかなって。周りの風景や武器から、昭和中期の雰囲気を感じ取ってもらえたらいいなと思います。今回は、海外の刺客であったり、鉄竜会というヤクザの組織が登場するので、群像劇の要素も含まれています。キャラクターがたくさん出てくる物語を緻密に作り上げていくことは、これまでに経験したことがなかったのでいい挑戦になりました。


■「今後は企画自体も精査されていく状況になる」


ーー2016年はアニメが大変盛り上がりました。監督はどのように受け止めていますか?


小池:『君の名は。』に関しては、単純に羨ましいなって(笑)。ただ近年の様子を見ると、アニメを作って欲しいと思う人も、それを求める人も確実に増えているのでは。リクエストを受けて良いものをたくさん作れたら良いですが、数が多いと現場はそれだけ苦しくなるのでそう簡単にはいきません。そういうジレンマがある中でも、比較的この作品はスケジュールに恵まれていたので、1年半かけてじっくり丁寧に作ることができましたが。この流れを受けて、自分がどういう作品を作っていくべきなのか考える必要はあると思いますし、今後は企画自体も精査されていく状況になるのかなって。


ーー監督自身は、次作の構想を考えているのですか?


小池:アニメーションは大きな規模感で制作していくものなので、制作するために必要なバジェットや人員の確保が最初にぶつかる壁になってきます。そういう意味では、自分がやりたいという理由だけで作るのはなかなか難しい。僕の場合は、幸いルパンのようなやりがいのある作品に出会えているので、今回の作品が高く評価されるのであれば、続編も全力で作っていきたいと思っていますね。(泉夏音)


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