F1のシートはドライバーの尻から太もも、くびれまで忠実に再現!?

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2017年06月02日 19:00  citrus

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乗用車のシートはOne size fits all.のコンセプトで設計されている。つまり、フリーサイズだ。既製服のようにS、M、Lサイズのシートがあって、体格に合わせて選ぶことができれば便利だが、そうはなっていない。そんなことをすればコストが高くなり、それが製品価格に跳ね返ってしまうからだ。

 

だから、小柄な人が座ってもそれなりに、大柄な人が乗ってもそれなりにフィットするように設計されている。シートの前後スライドやハイト調整、ステアリングのチルト(上下)やテレスコピック(前後)機構を使って、自分の体格に合わせてドライビングポジションを調整するのが一般的だ。

 


F1のシートはカスタムメイド。ドライバーの体形をしっかりと型どりしてあつらえる

 

一方、F1は不特定のドライバーを相手にしていない。メルセデスAMG F1 W07ハイブリッドの44号車はルイス・ハミルトンの専用車だし、マクラーレンMP4-31の14号車はフェルナンド・アロンソの専用車だ。だから、シートはカスタムメイドである。

 

F1ドライバーの体には、旋回時に4G、制動時には5Gを超える重力が掛かる。乗用車では最大でもそれぞれ、4分の1、5分の1程度だ。0.3Gも発生すると「キツっ」と感じるだろう。乗用車のシートも多少はサポート性を考慮に入れた設計になっているが、それをF1に持ち込んだら、体は前後左右にぐらんぐらん揺れて、とても運転どころではなくなってしまう。

 

だから、太もも〜尻〜腰〜背中を包み込むような、というより密着するような形状のシートを製作して、いかなる状況でもドライバーの体がぐらつかないようにするのだ。

 

■シートの重量はわずか1kg台

 

シート製作の第1ステップは型どりだ。コクピットに置いたシェル型の枠にポリエチレン製の袋を置き、その上にドライバーは座ってドライビングポジションをとる。その状態で、袋にポリスチレンなどの発泡材を流し込む。化学反応による熱に耐えながらじっとしていると、発泡材が硬化。ドライバーの体型を正確に写し取る。

 

発泡材が固まったら、ステアリングやペダルを操作し、硬化した発泡材の形状を微調整する。これで、シートの元が完成。ドライバーとの圧着面を三次元スキャンでデータ化し、そのデータを元に炭素繊維強化プラスチック(CFRP、俗に言うカーボン)でシートを製作する。腰や背の部分に必要最小限のパッドを貼れば完成だ。

 

シートの重さは1kg台である。完成したシートを裏から見ると、ドライバーの尻や太もも、腰のくびれが正確に再現されており、ちょっと奇っ怪な眺めである。空力効果を優先するため、コクピットは足元が高い位置にあり、バスタブに寝そべっているような姿勢をとらされる。ただし上体は起きているので、操作に大きな問題は生じない。

 


シートを裏側から見ると、ドライバーの太ももからくびれにかけてが忠実に再現されているがわかる

 

F1ドライバーにとっては、ちょっとした違和感が死活問題になるため、シートの型どりは念入りに行うし、型どりした後の微調整も神経質なほどに行う。新しいシートを投入するときは、走行前にわざわざガレージで、仕上がり具合を確かめるドライバーもいる。複数製作し、お気に入りのシートばかりを使うドライバーもいる。

 

ドライバー専用のシートを作っておきながら、F1のシートは簡単に脱着できるようになっている。なぜか。ドライバーが着座した姿勢のまま、運び出せるようにするためだ。

 

大きなアクシデントが発生した際、ドライバーをシートから起こして搬送すると、脊椎などを損傷している場合は症状を悪化させてしまう場合がある。そうした事態を避けるため、着座したままシートを取り外せる設計にしているのだ。具体的には、前後4ヵ所のボルトでフロアに固定している。

 

シートに通っている赤と青のストラップは、シートベルトではなく、レスキューに使用するためのものだ。F1の走行プログラムは金曜日から始まるのが一般的だが、その前日、木曜日には各サーキットのコースマーシャル(コースサイドで待機し、レースの円滑な運営をサポートする係員)は、必ず救出訓練を行う。

 

乗用車のシートベルトは肩に斜めに掛けて腰の両側で固定する3点式だが、F1のシートベルトは6点式だ。肩と腰を固定するそれぞれ2本のベルトに加え、股にも2本のベルトを通す。大きな衝撃に耐えられる強度が求められると同時に、シートと同様の軽量化が求められるので、バックルやアンカーにチタン合金を用いたり、リリースレバーにCFRPを用いたりする。


細かい調整を行いながらドライバーに最高にフィットするように仕上げていく

 

ベルトに用いる糸は市販のシートベルトと同じポルエステル製だが、糸の太さや縒りが異なるし、乗用車のシートベルトよりも幅広だ。ベルトのリリース(片手でリリースできなければいけないと規則で定められている)はドライバー自身が行うが、しっかり固定するため、装着はメカニックが行う。

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