子どもといると気が狂うから保育園に入れたい。ママ同士を対立させる“仮面保活”の実態

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2017年12月16日 22:03  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

Photo by Photocapy from AC

 既婚女性にとって、出産の次に訪れる大仕事といえば、子どもの預け先を探す「保活」。つい最近も、芸人のピーマンズスタンダード・南川聡史が、自身のブログの中で、「月極22万円の保育園しか空きが見つからない」という保活の厳しさを明かしたばかりだ。

 今回は、「子どもと四六時中一緒にいると、気が狂いそうになる」と語るワーママの声に着目。保活を通して見えてきた、東京の育児ママたちの本音に迫っていく。

 必死の形相で「どうしても保育園に入れなければならない」と訴えているのを聞くと、すぐに復職をしなければポジションが奪われてしまうような、キャリアウーマンを想像してしまいそうだが、実際はそうではないらしい。認可保育園に1歳になる男児を通わせているゆかりさん(仮名)は、「育児よりも、仕事の方が楽」と語る。

■復職後は、出世は望めないマミートラックポジション

 ゆかりさんは、企業情報を扱うシンクタンクの正社員。一昨年7月に男児を出産し、昨年4月から職場に復帰している。彼女は教育熱心な母親のもとに生まれ、中高一貫の女子校に進学。有名私大の政治経済学部を卒業し、大手シンクタンクに総合職として入社した。日本各地にある支所への転勤も可という希望を出し、社内試験などにも合格して出世コースを歩んでいたが、大学時代の同級生と28歳で結婚、30歳で出産をすると事態は急変する。

 男児は、女児と比べて、個体差が激しく乳児の時は風邪などひきやすいといわれ、ゆかりさんの長男も体調を崩しやすかった。認可保育園に無事入園ができたものの、子どもの体調次第では保育園からすぐに呼び出しの電話がかかってくる毎日。「すみません、子どもが熱で……」そう言いながら、仕事を早退する罪悪感に耐えられなくなり、職域を一般職扱いに変えた。大幅な昇給がない代わり、ファイリングや文具の発注など、責任のない雑務を担当する庶務へ異動したのだ。

 このような状態を、保活を行っているワーママたちの間では「マミートラック」という。一般的に「マミートラック」とは、出産後のワーママが、育児が優先できる代わりに、出世や昇給というキャリアコースから外れることを指す。ゆかりさんも、最初は「キャリア形成が、出産によって閉ざされた気分になってショックでした」という。

 しかし最近では、この現象を逆手に取り、自らマミートラックに乗ることを希望する者が増えているという。インターネットで「マミートラック」と検索すると、「乗りたい」という予測ワードが出てくる状況で、その背景には、「子育てしながら、総合職としては働くのはしんどい」が、「専業主婦になって子育てだけをするのは息が詰まる」という思いがあるようだ。

そして、当初はマミートラックに乗ってしまったことに絶望していたゆかりさんも、今では、「マミートラックから降りたくない」と考えるようになったという。

「私が子どもを預けている自治体では、一度入園が決まってしまえば、その後、時短勤務になろうが、正社員ではなくなろうが、退園にはならないんです。最初はマミートラックに乗るつもりはなかったけれど、今は降りたくないから仕事を続けている面もあります」

 このように、手放したくない仕事があるから保活をしているという表向きの理由の中には、「離乳食だ」「おむつ替えだ」とまだ手の掛かる乳児を預けたいという、本心が隠されていることもありえるのだ。

 少し前にネットを中心に炎上をした牛乳石鹸のWEBムービーや、ムーニーのおむつのCM。どちらの動画にも共通して描かれているのが、女性が主体となって育児をこなしている「ワンオペ育児」と呼ばれている状況だ。東京で結婚したものの、親が遠方に住んでいるために育児の協力を頼めないケースや、義母とうまくいっていないため、自力で産後を乗り切らなければならないケースも、現代では珍しくないといえる。そんな「里帰り出産」ができないママにとって、慣れない育児のストレスや、言葉も通じず泣き続ける乳児と狭いマンションの部屋で四六時中一緒にいるという状況は、思わずイライラして手が出てしまうことがあっても不思議ではないのかもしれない。

 典子さん(仮名)は、テレビなどで幼い子どもを母親が虐待したというニュースを見て、他人事のように思っていた。しかし「自分も、まだ1歳にもならない娘を、叩いてしまったことがあります」と語りだした。

「育児休暇中、夫の帰りが遅いと、娘と2人きりの状況になり、余裕がなくイライラしがちでした。ものに八つ当たりすることもよくありましたね。夫にLINEでメッセを送り続けても、既読がつかず、『自分一人だけで育児をしている』という不満が募り……そんな時、まだ赤ちゃんだった娘が私のスマホを取り上げて放り投げ、運が悪いことに、ちょうど動こうとしていた私の右目に角が直撃したんです。それで、発作的に娘に手をあげてしまいました。あの時はどうかしていたと思いますが、子どもと締め切りの部屋で四六時中一緒にいると鳴き声で気が狂いそうでしたね」

 実は、典子さんの夫は大手のゼネコンに勤務している建築士。出張なども多いため、家も空けがち。子どもが小さいうちは、夫の収入だけで生活をし、専業主婦になることも可能だったそうだが、夫の言い分を無視して保活に励んだという。

「出産前から働いていた半導体などを扱うメーカーの事務に、時短勤務で復帰しました。認可外に通うことになると、収入のほとんどが保育料に消えていくことになるので、認可保育園に預けました。仕事に復職したい理由は、『子どもと一緒にいたくない』から。もちろん子どもはすごく可愛く思えるときもあるのですが、それは保育園に預けて、離れた時間ができたからだと思います。ただ、地元の友人は、私が建築士と結婚をしているのを知っていて、『そこまでして保育園に入れる必要あるの?』って聞いてきました。なかには『0歳から保育園に預けるなんてかわいそう』と言う子もいたんですよ。結局、保育園に預けて働かないと破産しそうな家のママからしたら、私みたいな“仮面保活”はむかつくみたいですね」

 本来ならば、どのような理由であれ親が望むならば全入保育ができるのが理想といえる。深刻な保育園不足が、育児を息苦しくしているのかもしれない。

 生まれたばかりの子どもを、身を削るような思いで0歳児から預けて働きに出ているワーママ。それに対して、無慈悲な言葉を投げかけるのが、いまだ根強い“3歳児神話”と呼ばれている育児論を振りかざす母親世代だ。簡単に説明すると、子どもが3歳になるまで母が育児に専念し、一緒にいないと成長に悪影響を及ぼすという考え。専業主婦の母に育てられた真理子さん(仮名)も、この“3歳児神話”に振り回されたという。

「保活で最大の敵は実母でしたね。『なんでそこまでして働くの?』『あんたに母性はないの?』って言われたので、イラッとして絶縁しました」

 出産した病院で知り合った高齢出産のママ友も、“3歳児神話”を信じていたそうで、「私が妊娠中から保活に励んでいる姿を、かわいそうっていうふうな目で見ていましたね」とのこと。出産したら、母親は子どものそばにいて当たり前。育児はつらくない、というような“母性”を前提とした価値観に、疑問を感じ、「結局、子どもを預けて働くっていうのは、母親世代にとっては“楽をしている”って思うみたいです」と語った。

 現代の「保活」に隠れた闇。母親がつきっきりで子どもを育てることが当たり前だった時代と違い、女性にとって育児が最優先ではなくなってきている。保活全てが「生活」や「収入」のためだけではない。その裏には、1人で育児を抱え込むしかなかったワーママたちの嘆きが潜んでいた。
(文=池守りぜね)

このニュースに関するつぶやき

  • 家事・子育ては大抵の仕事より重労働だよ。子育てを他人に任せると親子の絆も希薄になる。特に乳幼児の時期、子供は母親を「常に」必要としてるんだから。
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