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医師の命は軽い? 過労自殺を生み続ける“加害者”の正体

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2018年11月09日 07:43  ITmedia ビジネスオンライン

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写真「働く人たちの厳しい現実と苦悩」は続いている。私たちが考えるべきこととは?(写真提供:ゲッティイメージズ)
「働く人たちの厳しい現実と苦悩」は続いている。私たちが考えるべきこととは?(写真提供:ゲッティイメージズ)

 「教壇に立つ私の携帯が鳴った。授業を中断し、急きょ新神戸へ。列車が滑り込んできた時、医師から携帯へ。『心肺蘇生を打ち切ってよいか』。私は訳も分からず、『止めないで! 息子を助けて!』と叫んだ。看病どころか、息子の命は風前のともしび。母は何もしてやれない。



【その他の画像】



 夕方逢えた息子はすでに冷たく、横たわるだけ、何も答えない。懸命に生きた一人の青年の命が尽きた。母一人子一人、幸せな我が家の終焉(しゅうえん)。私の人生も終わった」



 これは、先日厚生労働省が公表した2018年版「過労死等防止対策白書(過労死白書)」に書かれていた一節です。



 女性(母親)の息子さんは、大手電気機器メーカーの関連会社にSE(システムエンジニア)として入社。即戦力として働かされ、37時間連続勤務、終電後は会社で仮眠する日々を繰り返し、うつ状態になったそうです。



 息子さんのブログには「日本人って何でこんなに働くのでしょうかね。うつの原因は確実にお仕事です。このまま生きていくのがつらい。普通に働いて普通に生活をしたいものです」といった、多くの苦しみの言葉がつづられていました。彼はうつの治療薬を過量服用し、27歳で生涯を閉じてしまったのです(自死か事故かは不明)。



 今から2年前の2016年10月7日。大手広告代理店に勤務していた24歳(当時)の女性(高橋まつりさん)が15年12月に投身自殺したのは、長時間労働を原因とする過労死だったと大きく報道されました。



 くしくもその日(10月7日)は、「過労死白書」が初めて公表された日。この白書は、14年に制定された「過労死等防止対策推進法」で義務付けられたもの。過労死遺族たちの「過労死をなくそう」という活動が、やっと実を結んだ末の法律だったのです。



 おそらくご遺族たちは若い女性社員の過労自殺を知り、「絶対に過労死をなくさなくては」と激しい憤りを覚えたに違いありません。



 しかしながら、今回発表された白書によると……、



・仕事に悩みを抱える人は増加



・自殺者のうち「仕事に関する悩み」を原因にする人も増加



・勤め人の自殺者は増加



・過労死の労災請求件数は増加



・労災認定件数は変わらず



・うつ病などの精神障害を発病したとする労災請求件数は増加



・労災認定件数は増加



 といった具合に、「働く人たちの厳しい現実と苦悩」が続いている現状が浮き彫りになってしまったのです。



 そもそも電通の女性社員の事件以来、「長時間労働」ばかりに関心が集まっていますが、長時間労働だけを規制しても「過労自殺」はなくなりません。



 「過労死」と「過労自殺」は全く別物なのです。



●「過労自殺」は長時間労働だけの問題ではない



 過労死とは、いわゆる「突然死」です。長時間労働による過重な負荷が脳や心臓にかかって引き起こされる、脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡です。



 国内外の多くの研究で、長時間労働および深夜勤務と、脳血管疾患や心臓疾患は強く関連していることが認められています。週50時間を超える勤務でリスクが高まるとする報告もあります。



 つまり、やる気とか仕事好きとか関係なく、長時間労働によって睡眠時間が減ると「疲れる→休む→回復する」というサイクルが機能しなくなり、体は確実に蝕まれます。そして、ある朝突然、心筋梗塞で亡くなったり、くも膜下出血で倒れてしまったりするのです。



 一方、過労自殺は、仕事上の強い心理的負荷により、生きる力がなえた末の死。重い責任、過重なノルマ、達成困難な目標設定などにより精神的に追い詰められ、長時間労働で肉体的にも極限状態に追い込まれる。



 特に、“overwork”すなわち「自分の能力的、精神的許容量を超えた業務がある」という自覚が強まると、過労自殺を招く確率が高まります。



 本当はSOSを出したいのに、受け止めてくれる人がいない。本当はもっと生きたい。でも、生きているのがつらい。その結果、「死」という悲しい選択をしてしまうのです。



 過去10年で10倍も増えた過労自殺(未遂者を含める)をなくすには、「長時間労働」だけでなく「職場のストレス要因」も除去し、人間関係のいい職場づくりをめざすことが必要不可欠。



 繰り返しますが、「過労自殺」は、単に「労働時間を短くすればいい」というものではなく、本人を追い詰めるストレスも同じように考慮すべき問題なのです。



●「教職員」「医師・看護師」のストレス要因



 そして、今回の白書では、過労死等が多いとされる「教職員」「医師・看護師」の働き過ぎや精神的ストレス要因を分析した結果も盛り込まれました(以下、白書より抜粋)。



【教職員】



・1日の平均勤務時間は11時間17分



・忙しい時期の1日の勤務時間は「12時間超14時間以下」が38.6%でトップ。「14時間超16時間以下」は15.5%



・忙しくない時期の1日の勤務時間が「10時間超12時間以下」との回答は、半数を超える50.2%



・残業の理由は「自分が行わなければならない業務量が多い」が7割弱で最多



・ストレスの要因は「長時間勤務の多さ」がトップで、次いで「職場の人間関係」「保護者・PTAへの対応」。学校に無理な要求をする親「モンスターペアレント」への対応が、大きな要因になっていることが分かった



【医師・看護師】



・医師が残業する理由は「救急や入院患者の緊急対応」が71.1%でトップ。次いで「手術や外来の診察時間延長」「患者(家族)への説明」



・医師のストレス要因は「個別患者の様子(容体や経過等)」(39.9%)、「休日・休暇の少なさ」「患者(家族)からのクレーム対応・訴訟」(共に34.0%)で、患者からのクレームや暴力・暴言が精神的なストレスになっていた



・月の残業時間が「過労死ライン」とされる100時間を超える医師がいる病院は12.3%



・看護師のストレス要因は「職場の人間関係」(41.8%)、「夜勤の負担」(37.8%)、「時間外労働」(36.7%)



 ……さて、いかがでしょう?



 教職員や医師・看護師が長時間労働であることは、メディアでも何度も報じられてきました。その一方で、子供の親や患者の家族との問題が、過労自殺と結び付けられることはあまりありません。



 上記を見れば分かる通り、「『私たち』自身が、現場の人たちのストレスの原因になっている」ことが、明らかになってしまったのです。



●「医者の命だけは軽いのかもしれません」



 「せがれが過重労働とパワハラで、体調を壊してしまいましてね。特に患者の家族とのコミュニケーションには、ずいぶんとストレスを感じていたようです。



 確か倒れる半年くらい前だったと記憶していますが、患者さんの家族が来た時に、息子は他の病院の勤務日でいなかった。そしたら『何で担当医がいない。これじゃ、家族には親の病気の状態がどうなっているか分からないじゃないか! 勝手な治療は許さん。医者を呼べ!』って、怒り出した。チーム医療で他の医師が対応したのが、気に入らなかったんでしょう。その後も事あるごとにクレームをつけられるので、休日出勤させられたりしていました。



 ……真面目にやってきたのに、かわいそうで。『人の命は何よりも重い』と教育されてきたけど、医者の命だけは軽いのかもしれません」



 以前、インタビューした男性はこう話していました。



 彼の息子さん(34歳)は、某病院の勤務医。夜間の当直の後も、通常の勤務を行うのが日常茶飯事でした。そんなある日、電車の中で意識を失い、病院に搬送されたそうです。2週間後には退院しましたが、病院を辞め、自宅療養を続けています。



 人の命を預かる「責任」の重さ、過労死ラインを超える長時間労働、深夜勤務、患者や家族との人間関係……。その全てが、医師たちを追い詰めているのです。



 実は医師の過労自殺は一般の労働者より多く、これは世界的にも共通した傾向です。米国では一般の労働者の4倍ほど多く、デンマークでも、医師の自殺は看護師や教員など他の20以上の職種に比べて多いという調査結果があります。



 日本の医師を対象とした調査では、長時間労働と周囲からの要求の過度な高さ(責任の重さ、高い技術など)からうつ状態に陥ることが多いことが分かりました。その傾向は研修医のときが最も顕著で、ある調査では研修開始から1〜2カ月後には、4割近くが抑うつ状態になってしまうことも分かっているのです。



 私たちにとって、過労死や過労自殺は「関係ない話」ではありません。自分だけでなく、大切な家族、大切な友人、愛する恋人が追い詰められることもあるかもしれない。それと同時に、自分自身が「追い詰める側」になってしまうかもしれないのです。



 過労自殺をなくすために、私たちにできること。いま一度、考えてみてください。



(河合薫)


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  • 今や過労死は世界的に有名な恥ずかしい日本語。汚名返上に躍起にならない日本政府は異常
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  • 「死ぬ気でやれ、死なないから」→近年本当に死ぬ事がわかってきた。
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