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「ニセ医学」を信じてしまった患者を救えない、“正論”医療の現実

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2019年01月11日 07:01  AERA dot.

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写真大塚篤司/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
 間違った医療情報に惑わされると、患者の健康に悪影響が出るかもしれません。医師が正義感をもって患者に正しい情報を伝えていくだけで、ニセ医学で苦しむ人たちは減るのでしょうか。京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が、「ニセ医学」との向き合い方について語ります。

*  *  *
 今から50年前の1969年、アポロ11号は人類史上初めて月面着陸に成功しました。ニール・アームストロング船長の「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」という言葉はあまりにも有名です。それからしばらく経った2002年、メアリー・ベネット著『アポロは月に行ったのか?』が日本で出版され話題となりました。アポロは月に行ってない、「2001年宇宙の旅」で有名なスタンリー・キューブリック監督の指揮のもとスタジオ撮影で捏造(ねつぞう)されたとするアメリカの陰謀論。

 私がこの本を読んだ20代前半、今となっては恥ずかしいことですが、アポロは月に行っていない、そう思った時期もありました。その後、NASAや専門家が一つ一つ丁寧に反論し、現在は陰謀論そのものを知っている人が減っています。

 トンデモ医療・ニセ医学とは、根拠がなく明らかに間違っている医療情報のことを指します。アポロ11号の陰謀論と同じく、医学の専門的知識がない多くの方にとって、確実な効果をうたうトンデモ医療は魅力的に映ります。しかし、間違った医療情報を信じると結果的に自分の健康や生命を脅かすことになります。世の中の常識と思われていたことが実は間違っていた、この手の話には伝播力があります。ニセ情報を広めてしまうことで、自分の健康だけでなく他人の健康も脅かす加害者になりかねません。

 がんは放置しておけば治る、サプリで十分などといった明らかに間違っているもの。副作用を過大に心配するあまり、ステロイドを一切使わない、ワクチンを子供に打たせない、などの偏った理解。トンデモ医療・ニセ医学に時間とお金をかけた結果、健康被害が大きくなった患者さん、そういう話は医療従事者の間でよく耳にします。

 当然、トンデモ医療・ニセ医学に対して、私たち専門家は正しい情報を毅然とした態度で発信していくことが求められます。国立がん研究センターや学会などの信頼できる組織、そして多くの専門家が、ニセ医学に対して間違いを指摘しています。こういった活動によって、ニセ医学に“新しく”だまされる人は減ります。

 しかし、すでにニセ医学を信じてしまった人たちに対するアプローチは異なります。間違った医療情報で苦しんでいる人たちは全て自己責任なんでしょうか。

 私がまだ20代の頃、勤務していた総合病院の近くには、「ステロイドを使わないで治す」とうたう、いわゆる「脱ステロイド」の有名な皮膚科があり、全国から重症のアトピー性皮膚炎の患者さんが集まっていました。

 標準治療を選ばなかった患者さんが選んだ「脱ステロイド」。私が勤めていた病院は、この脱ステロイドも合わなかった患者さんの一部が駆け込んでくる、そんな病院でした。

「健康食品に毎月30万円くらい使っています。今、『好転反応』で皮膚の調子が悪いので見てもらえますか?」

 毎週のように「根拠のない何か」を治療として実践している患者さんを前に、

「好転反応なんてものは医学的に存在しません。ステロイド外用剤は正しく使えば安全です。しっかり治療してください」

 と、私は時間をかけて説明をおこなっていました。

 そして、説明を受けた多くの患者さんは、ニセ医学から解放され、標準治療を受けることで症状が良くなりました……。

 いいえ、現実はそういうわけにはいきませんでした。

 実際は、私の医学的に正しい説明を受けた患者さんの多くは、二度と私の診察に来ることはありませんでした。

 なぜ?

 私はずっと考え悩み続けました。20代の私は自分が間違っていた部分に全く気がつけませんでした。

 ジョン・スチュアート・ミルは『自由論』の中で愚行権という概念を提唱しています。愚行権とは、他人から見れば愚かな行為でも本人が納得し周囲に迷惑をかけないのであれば誰にも邪魔されない自由のことです。トンデモ医療・ニセ医学を信じてしまうことを愚行と言い切ってしまうつもりはありません。現代の医学情報は莫大で難しく、一般の方にはわかりにくくなっています。正しい医学情報にたどり着くには、それなりの訓練と知識が必要です。そして、これこそ大きな問題なのですが、ニセ医学の発信者が医者である場合もあります。

 ミルは『自由論』の中で愚行権に続いて、間違った行為をして困っているからといって、その人をもっと苦しめようなんて思ってはいけない、と説明しています。

「その人は、自分のあやまちの罰をすでに十分うけている(中略)本人の行為が本人にもたらしかねない災いをいかに避け、いかに解消するかを教えてあげて、その罰を軽くしてあげるよう努力したい」

 病気で苦しむ患者さんは、当然、私たち医者に病気を治してほしいと思って受診しています。ただ、残念なことに現代の医学では治せない病気、慢性の経過をとる病気も多く存在します。病気が治らないことに対するいらだち、不安。

 さらに、医者の対応に傷つき医療不信になった患者さんが一定数います。ニセ医学に走ってしまった原因が、私たち医者の心ない態度だったという話も聞きます。

 若い頃に私は、トンデモ医療に走ってしまう患者さんの気持ちも考えず、正論を振りかざしていました。

 私が医者ではなく、もし不治の病にかかったら、良い治療が世界中で存在しないか探し回ると思います。それでも見つからなかったら、そしたら、とても残念だけれども、最後は私の心もみてくれる優しい先生を探します。

 私の話を聞いてくれて、受け入れてくれて、そして正しい治療をおこなってくれる先生にお願いします。

 決して、正しい治療をおこなってくれるだけの先生は選ばないと思います。

 トンデモ医療・ニセ医学の間違いを否定し、正しい情報を普及することは必要です。正しい知識を先に得ることで、間違った情報をうのみにしてしまう危険性は減ります。

 ただ、同じ方法ではニセ医学を信じてしまった患者さんを救えない。

 正論を振りかざしてニセ医学を切る。その切った刀の先には、ニセ医学を信じて苦しんでいる患者さんがいます。もしかしたら、ニセ医学を選んだ理由は、僕ら医者の態度にあったのかもしれない。

 私は、今まさにニセ医学に苦しんでいる患者さんには「とりあえず話を聞きましょう」と伝えたいと思っています。

 ゆっくり時間をかけて、

「こっちの治療のほうがいいんじゃない?」

 そう提案できるお医者さんでありたいと思っています。

◯大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん薬物治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、作家として医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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  • なんでもそうだけど、信じきった人に正論言っても無理だよ�Хåɡʲ�����������
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