霜降り明星、EXIT、四千頭身……お笑い第七世代のYouTube活用法にみる“希望”

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2020年02月18日 07:01  リアルサウンド

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動画サムネイルより

 霜降り明星、EXIT、四千頭身、宮下草薙、かが屋ーー令和のお笑い界を賑わせる“第七世代”にとって、活躍するメディアを選ばないことは、もはや当たり前の発想だ。


(参考:M-1王者ミルクボーイ、YouTubeで珠玉の漫才動画を公開中 ツッコミ内海の面白いHPにも注目?


 “お笑い第七世代”という言葉については説明するまでもないが、多くのメディアでこの言葉、そして、その世代に当てはまる芸人たちが“くくり”で扱われるようになった発端は、霜降り明星・せいやの発言である。2018年に自身のラジオ番組で「平成の後の元号を代表する世代を勝手に『第七世代』と銘打って固まりたい」という趣旨の発言をした。ほとんど雑談中の思いつきのような発言だったため、本人としては言葉がひとり歩きしているような状況に困惑しているようだが、気の毒にもそれがエンターテインメント界の“新しい風”を表すのにぴったりなビジネス用語になっていることは間違いない。


 冒頭に記したように、“第七世代”に当てはまる芸人たちは、活躍するプラットフォームを選ばない。90年代以降生まれが多いデジタルネイティブな彼らにとっての成功とは、必ずしも“テレビ出演・テレビでの人気”に限らないからだ。


 その象徴ともいえるのが、彼らのYouTubeチャンネルである。


 もとはと言えば“第七世代”は、同世代のミュージシャンやYouTuberも含めて時代を盛り上げていきたいというせいやの思いから発言された(せいや自身はそれを日常生活でも体現しており、同世代の人気YouTuberであるFischer’sと懇親会をする様子をSNSにアップしたりなど積極的に活動している)。


 そのように、YouTubeなどの動画プラットフォームやSNSにも偏見や壁がまったくない世代なのである。彼ら自身がチャンネルを立ち上げ、そこで発信を始めるのはごく自然な流れだろう。


 彼ら芸人たちのYouTubeチャンネルが、テレビとはまた違う“ファンづくり”の場として機能していることもたしかだ。自身による、自身のための発信チャネルとして使えるメディアだからこそ、それぞれの色が思う存分に出せる。そうした各々の位置づけを見てみることで、YouTubeというメディアの新たな可能性を考えたい。


・好きなことを好きなだけやる 霜降り明星「しもふりチューブ」
 第七世代の代表格である霜降り明星のチャンネル。“せっせっせいやゲーム”やインスタントなモノマネなど、SNSでバズりそうなハードルの低い企画を行うこともあれば、“お宅訪問”や二人で酔っぱらう姿も見せる旅行企画など既存のファン向けとも思われるナチュラルな企画もある。


 そんな“お利口さん”風な企画の中で、ひときわ異彩を放っているのが“粗品のパチンコ談義”“せいやのNARUTO談義”の二つだ。10〜15分の1本の動画内で、彼らがそれぞれに、趣味であるパチンコや『NARUTO』について語り続ける。それも1本や2本ではない。粗品はパチンコ以外にも麻雀や競馬などあらゆるギャンブルに精通しているが、“麻雀あるある”“地方競馬実況”など多くのギャンブル関連の企画を行なっている。せいやも、自身の大好きなマンガ『NARUTO』について、ツッコミポイントを語る動画や、キャラのものまねをする動画を複数本にわたりアップしている。


 こうした、2人自身の好きなものや趣味についてひたすら語る動画のアップはYouTubeならではの試みだろう。テレビ番組では自分の好きな尺で好きなことについて語ることはできないが、自分のYouTubeチャンネルならそれができる。また、毎日アップすれば本数も増えるので、1本の再生数が多くなくてもそれほど痛手ではない。しかも、ギャンブルや『NARUTO』のファンを、YouTubeのおすすめ機能を使って自身たちの視聴者、ひいてはファンとして引き込める可能性もある。


 「好きなことを好きなだけやる」というしもふりチューブのスタンスは、YouTubeの特性を存分に活かしているといえる。


・YouTuberとのコラボが好印象 EXIT「EXITCharannel」
 チャラ男漫才で女性を中心に大人気のEXIT。“抜き打ちカバン検査”“DIY”などテレビのバラエティ番組と似通った企画が多い彼らのチャンネルだが、特徴的なのは“コラボ”である。EXITは他の第七世代に比べ、本業YouTuberとコラボすることが圧倒的に多いのだ。


 登録者数100万人超の「プリっとChannel」、バンドながらも最近はYouTuberグループとして登録者数約40万人を獲得して有名になりつつある「ノンストップラビット」とのコラボを経て、つい先日も、大人気YouTuberコンビ「スカイピース」とのコラボがアップされた。


 彼らのコラボ動画で印象深いのは、YouTubeというメディアやそのクリエイターたちに対して低姿勢を貫いているところだ。プリっとChannelとのコラボ動画では、元芸人としての同期であるとはいえ“先輩YouTuber”というテロップや説明を忘れない。スカイピースとのコラボ動画でも、「このコラボをしたら俺らのことをYouTube界で知ってくれる方が増えるかもしれない」「大物YouTuber」という呼び方を徹底していた。既にテレビでは引っ張りだこの彼らでも、YouTubeにおいては新米、“まだ知られていない”というスタンスを取ることは、YouTuberファンの視聴者にとっては好印象だろう。


・グループYouTuberに近い空気感 四千頭身「YonTube」
 霜降り明星やEXITとは異なる意味で、あるいはもっとも真っすぐに“YouTubeらしさ”を体現しているのが四千頭身だ。彼らのチャンネル「YonTube」では、ドッキリ、大喜利、質問コーナーなど、いかにもYouTube然とした企画が行われることが多い。彼らが3人揃ってこうした企画に臨むときの(いい意味で)ぬるりとした空気感は、まさにYouTuberのそれに非常に近い。東海オンエアほどのキレはないが、水溜りボンドやアバンティーズ、ボンボンTVのようなほのぼのとした空気感を醸し出している(むしろキレがないところが後藤、ひいては四千頭身の特徴であり長所なので、問題はない)。


 なかでもトリオ漫才師である特性と、YouTubeらしさを双方活かした「トリオなら漫才中にメシ食べてもバレない!?」は、当チャンネルのドッキリの中でも名作である。ライブでの漫才中に石橋がシュークリームやバナナを食べ、都築にバレないかを試すという企画だ。“仕返し”として都築が行う「トリオなら漫才中にコーラ飲んでも相方にバレない!?」という動画もアップされているが、こうして、一定のネタ企画がシリーズ化して人気を呼ぶあたりも実に駆け出しYouTuberらしい。


 第七世代の中でも特に若い世代である四千頭身だからこそ築ける“いま風”の空気感。芸人YouTuberチャンネルの中でも、YouTubeファンを惹きつけやすいチャンネルに成長していくと期待できる。


・コント師として“YouTubeらしさ”に挑むハナコ&かが屋
 ハナコ、かが屋のチャンネルに共通するのは、コントという彼らの本業を存分に活かしたうえで、YouTubeで“挑戦”している点だ。かが屋のチャンネル「かが屋Official YouTube Channel」は19年7月に開設、ハナコもYouTubeチャンネル「ハナチャン」にてコント企画・ハナコントを開始したのは20年1月と比較的新しい。


 ハナコは、360度のVR動画投稿が可能なYouTubeの特性を活かした“360度コント”などを投稿。かが屋は、生配信中の視聴者からのコメントをもとにリアルタイムでコントをつくっていく「15分でコント一本作る生配信」を数回にわたって投稿している。


 YouTubeチャンネル独自の企画や、YouTuberとのコラボを行なうのではなく、あえてコントを使ってYouTube仕様にアレンジした企画を実施しているあたりに、彼らのコント師としての矜持が感じられる。“医師YouTuber”“書店員YouTuber”など本業と動画をうまくかけ合わせた専門家系YouTuberが増える中、プロの芸人による“コントYouTube”チャンネルの需要はどんどん高くなっていくと考えられる。挑戦の独創性も含めて、彼らのチャンネルの今後の躍進は大いに期待できる。


 キングコングの梶原裕太=カジサックを筆頭に、オリエンタルラジオ中田敦彦、ドランクドラゴン塚地武雅、雨上がり決死隊の宮迫博之、そして江頭2:50など、ベテラン芸人も多数参入してきているYouTube界。彼らベテラン勢も試行錯誤しながらYouTube文化に馴染んでいっているが、やはり面白いのは、現役YouTuberたちとまさに同世代の第七世代が、自身のチャンネルを大変器用に使いこなしている点だ。


 余談だが、彼らのチャンネルには多くの場合放送作家がつき、撮影・編集もチームで行っている。作家の多くは1990年代以降生まれ。例えば、「しもふりチューブ」や「みんなのかが家」の白武ときお(1990年生)、「フワちゃんTV」の長崎周成(1991年生)などだ。東海オンエアやしばなんチャンネルとの活動実績のある「株式会社こす・くま」のメンバー、たけちまるぽこ、すのはらはともに1995年生まれで、“YouTube作家”と名乗っている。あえて放送作家と名乗らないことが興味深い。


 新しいメディアに抵抗感のないゆとり世代が、キャスト・スタッフともに場所を選ばずのびのびと活動している。第七世代のYouTubeでの活躍は、そんな若年層にとっての希望すら抱かせる。


 ゆとり世代によるエンタメ業界での攻勢は、まだまだ留まるところを知らない。


(桂木きえ)


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