つんく♂、なぜ再びアイドルプロデュースに乗り出した? つん♂タス♀、モー娘。……プロデューサーとしての役割を語る

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2020年07月31日 12:11  リアルサウンド

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つんく♂

 モーニング娘。をはじめとするハロー!プロジェクトのアイドルグループの総合プロデューサーを2014年に“卒業”した、つんく♂。しかし2020年になって、つんく♂の動きが騒がしくなってきた。2019年11月に自身のTwitterアカウントから、「お手伝いできる子、グループはあるかな?」と投稿。活動中のグループ、ソロアーティストからたくさんの自薦、他薦のリアクションが届き、そのなかから3人組アイドルグループ・Task have Funを1年間、プロデュースすることが決定。5月31日に「つん♂タス♀」というプロジェクト名が正式発表されると、大きな話題を集めた。さらに7月13日には、結成10年目・つぼみ大革命の7thシングル『逆襲のYEAH!』(10月7日発売)の全面プロデュースも決定。2010年代の「アイドル戦国時代」が明けて、過渡期を迎えているシーンのなかで、「プロデューサー・つんく♂」の存在感が大きくなっている。それにしてもなぜ今、彼はまたアイドルのプロデュースに乗り出すのか。リアルサウンドでは、つんく♂にインタビューを行い、「アイドルをプロデュースすること」を論点に話を聞いた。(田辺ユウキ)


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■「出来ている気になりがち」なアイドルが多い


――今回は、つんく♂さんにとっての「アイドルをプロデュースすること」についてお話をお伺いさせていただきます。


つんく♂:まずそのテーマの答えを先にお話したいと思います。ふたつあります。ひとつは、完璧に僕が思うように作り込むこと。もうひとつは、僕の理想のなかで、次なるプロデューサーや作家がある程度の形を作っていくのを見届けること。どちらにしても、「アイドルを作る」という前提でやっていくと、やはり失敗すると思います。アイドル作りは結果論です。まず「いかなる作品をつくるか」を考える。それが一番のポイントです。


――「つん♂タス♀」は2019年11月末のつんく♂さんのツイートがきっかけでスタートしました。多数の応募があったと思いますが、そのなかからTask have Funが選ばれました。そもそも、どんな判断材料でプロデュース対象を選抜していったのでしょうか。


つんく♂:最初は、地方アイドル的な人たちを選び、魔法の粉でも振りかけて「どうだ! 楽しいだろう!」みたいな感じでやるつもりでした。地下、半地下、地上を含め完成度の高いアイドルはたくさんいるし、すでにそのジャンルでは認知度の高い優れた人たちも多い。Taskはそのなかでも、人数的にも、これまでの作品的にも、小生意気さ、小洒落た感、青春感が強かった。完成度としてはまだ“未開発シロ”(伸びシロに近いもの)があって、特に“セクシーシロ”が少ないのが良かったんです。


――つまりどれだけ“シロ”があるかどうか、ということですね。ちなみに、「手伝う」と言ってもどこまでの範囲を指しているんですか。すでに活動中のグループには、プロデューサーなど制作陣が揃っていますし。


つんく♂:Taskに関しては「手伝う」の域をこえて、これからも結構、がっつりと関わっていけそうな予感がします。作品づくりって、誰かに少しでも忖度するようになるとパワーが弱まってしまうんです。どうせ失敗するならオオゴケした方が良いので、Taskに関しては「こっち側(つんく♂)で大きく舵をきって良いならスタートしましょう」としっかり話し合って、企画を進めることができました。


――2020年5月31日投稿のブログのなかで、本当は「もっと垢抜けない、プロデュースしごたえのあるグループをテコ入れして大革命させてやろう!」というビジョンの方が強かったと触れていらっしゃいました。もし「パッとしない人たちのテコ入れ」をするとなれば、どういった部分から手をつけますか。


つんく♂:それは、プロデューサーの力量が問われる点ですね。プロデューサーとして、歌詞、曲、メンタルフォロー、プロモーション、そのほかにもいろんな面でどこまでやるか。でもパッとしない理由の大抵は、作詞や作曲が弱いことが多い。今回募集した既存のグループも、曲の見極めや歌詞のあり方が何となく形になってしまっている。だからみんな出来ている気になりがちで、詰めが甘い人たちが多いように思います。自分でグループを作るときにもそれは言えることですが。ライブでそこそこ盛り上がるように曲が出来あがってはいるけど、真芯に当たっていない。そういうところを、改めて見直さなければいけません。


――「ライブでそこそこ盛り上がるグループが多い」はまさにそう思います。というか、それを前提にグループを制作した方がやりやすいですよね。


つんく♂:大事なのは、そのアーティストの現場のベストをどう放り込むかなんです。プロデューサーはそこが分からないといけない。そうじゃなきゃ、どんなにファンが頑張って支えてくれても、2年以内に顎があがってくる。3年目あたりからグループ内で喧嘩や脱退が増え、4年目には惰性でやったり、もしくは終焉したりする。そんななかで一番のテコ入れになるのは、やっぱり楽曲です。僕にプロデュースを依頼するにしても、他の誰かに発注するにしても、そこを常に考えなきゃいけない。そして、アイドルにとってその瞬間のベストを注入する。そうすればグループは、しおれかけた花に水をあげたようにシュっとするものです。


■運営の力量不足で新メンバー募集をしている感じ


――先ほど「地下」という言葉が出てきたじゃないですか。つんく♂さんのなかで「地上と地下」の境界線はどういうところにありますか。たとえば、テレビ番組『ASAYAN』で出てきたばかりの頃のモーニング娘。は今でいう「地下」なのか、それとも「地上」なのか、どちらに振り分けられるでしょうか。


つんく♂:モーニング娘。は地上スタートですね。たとえばAKB48も、地下風演出の地上スタートです。結局、アイドル現場でいえば芸能界のルールが分かっているところは地上なんです。地下はやはり永遠に地下だと思います。半地下は、地下から上がってきて、「芸能界と離れて何かやり始めた人たちにありがちな“さあどっちに転ぶでしょうか?”みたいなパターン」に当てはまる子たちな感じがします。2020年で考えたら、地下と地上でどちらがビジネス的に儲るか、これは僕にも分からない。というより、地上の方が原価は高いので利益を出すのが難しいでしょう。


――大きいグループになれば関わる人数も増えて人件費などが膨らみますもんね。それで解散したグループも近年いますし。そんななかで、あえてオトナのプロデューサーをつけず、メンバー自身がプロデュースをおこなう「セルフプロデュースグループ」も増えています。


つんく♂:それについては、プロとしてビジネスでやっているのか、路上でギターを弾いている自称ミュージシャンなのかって話に近いです。どちらもまず本人たちがどう楽しんでいるか、そして応援しているファンがそれで満足かどうか。セルフプロデュースでやっていって、メジャーレーベルをつけてさらに人気が出て、武道館もいっぱいに……というパターンは、アニソン歌手のようなポジションが多いですよね。あとは活動が続くかどうか、かな。どういう形で活動するにしても、本人たちが楽しんでいるなら、誰も文句は言えないってことですね。


――ちなみにつんく♂さんは、現在のアイドルシーンをどこまで観察していらっしゃいますか。


つんく♂:秋葉原ブームがくるちょっと前の地下とか、アキバ系アイドルが出てきたくらいまではチェックしていました。でもAKB48が出てきて以降は、あまり細かく世の中を見ていないかもしれません。時東ぁみ、THE ポッシボーからバクステ外神田一丁目あたりまではいろいろ見ていましたけど。


――たとえばモー娘。やAKB48の登場以降、ももいろクローバーZ、BiSなどそれまでのアイドルグループのカウンター的な存在が台頭して「アイドル戦国時代」が形成されました。アイドルシーンは、そうやって地上と地下が入り乱れ、一気に盛り上がりましたよね。ライブイベントでも地上と地下のグループが混ざったりして。


つんく♂:そのあたりの時期は、静観するポジションに僕は立たされていたので、じっと見ていたように思います。


――今のアイドルグループは、新加入や卒業・脱退を繰り返しながらグループを作っていくところが特徴的ですよね。毎日のようにTwitterで「大切なお知らせ」が流れますし、それが当たり前になってきた。ただ、そういう出入りが激しい近年のスタイルを作ったのは、モー娘。に一つの要因があると思います。福田明日香さんが、人気上昇中でありながら、メジャーデビューからわずか約1年3カ月で卒業したときは「え、もう辞めちゃうの?」と衝撃でした。グループを作る上では、メンバーはずっと固定する方が良いのか、それともどんどん動かすべきなのか、どのように考えていますか。


つんく♂:作品をつくる上では、急な脱退は大変です。多人数でのボーカルユニットであるならば、メンバーの変動はアリですね。でも最近のアイドルグループの状況を見ていると、マネージメントの力量不足で引き止められなかったメンバーの補正のために、新メンバーを募集している感が否めない。「作品づくりのため」という感じがしないんです。


――メンバーが入れ替わることでもっと良い作品が出来上がるかどうか、ということですね。


つんく♂:まさにそうです。


■“ツッコマレシロ”は大事だけど……


――モー娘。の場合は、つんく♂さんがプロデューサーとして最初から作品や世界観をつくってこられました。一方で『ASAYAN』の番組中、MCだったナインティナインの矢部浩之さんが、句読点の「。」をユニット名に含むことを提案し、採用されました。外の意見を取り入れることの重要性をどれくらい感じていますか。


つんく♂:常に外の誰かの血を入れていくことは非常に大事です。当時、矢部くんはじめ、番組サイドが面白がっているものをどのようにグループに自然に溶け込ませていくか考えていました。それが、つんく♂愛の分散につながったように思います。「。」を入れることで画数が良くなったとか、いろいろな意味はありましたが、それは後付けであり、美談でもある。そういう後付けをしてあげたら、矢部くんの責任も良い意味で軽くなる。みんなで楽しんでグループが作れた時代です。


――音楽番組『うたばん』に出演して、MCの石橋貴明さん(とんねるず)、中居正広さんからいろいろイジられて、メンバーがそれを打ち返すことで、新鮮なアイドル像ができあがりました。その点も外部を生かした展開だと思いました。


つんく♂:でもこれはアイドルに限らずですが、今の時代はどこまでツッコミをやって良いか、あだ名付けをして良いかなど、プロデュース側も慎重に考えていかないといけませんよね。お笑いコンビ、ぺこぱのツッコまないツッコミや、EXITの先輩へのあだ名づけは、時代の空気を生かしていて「うまいな」と思います。本来は、みんなに愛さるためにも“ツッコマレシロ”はとても大事。「何でも言ってください、ツッコんでください」という姿勢はとても良いこと。ただし、本人たちがツッコまれて本当にありがたいと感じているかどうか。それを考えてあげないとダメ。そうじゃないと、後々「やらされた」「我慢していた」となりかねない。


――まさに現在のアイドルシーンの問題点に通じる話ですね。企画などに関しても「プロデューサーや運営の言うことを我慢してやっていた」と後に明かすアイドルも少なくありませんし。双方の意思疎通が不足して、考え方や感じ方にすれ違いが生まれる。


つんく♂:『ASAYAN』では、僕もナイナイにたくさんイジられていたし、メンバーもそれを見ていた。だから、そういうことを「おいしい」と思えるメンバーもいただろうし、逆に真面目な子は「同じことはできない」となっていた気もします。『うたばん』ではタカさん(石橋貴明)がすごく空気を読んでくださっていた。飯田(圭織)や保田(圭)はうまく返していましたよね。後藤(真希)も、女性人気をつかめるような形になった。安倍(なつみ)は、ちゃんとイメージをキープできるように、必死にがんばってくれていました。ナイナイの甘噛みに徐々に慣れていって、タカさんの激しめなツッコミにも対応できた。結果として良かった気がします。ただモーニング娘。の話に限らず、何事も本人たちがどう感じるかです。それを無視すると誰も得しませんから。


――アイドルシーンは過度期を迎えていますし、新型コロナウイルスの影響で運営体制や売り出し方も変わってくるはず。そんななかで、アイドルの方向性を指し示すプロデューサーの役割はより大きなものになると考えます。つんく♂さんの目には、アイドルプロデューサーの現状はどのように映っていますか。


つんく♂:そのあたりのJ-POPやアイドルのあり方に関しては、今後、僕のオンラインサロン内で呟いたり、愚痴ったりしたいと思っています。僕らの稼業って、分かっていても話さないこともあるし、後出しでしか言えない結果もあったりするのも事実なので。それでも、サロン内ではできるだけ素直に話せたら良いなって。何となく今はそんな雰囲気です。


――つんく♂さんが今後、プロデューサーとしてどんな感じで動いていくのかも興味深いです。


つんく♂:僕のなかで、この10年で「わっ!」と思ったのは、のんちゃん、広瀬すずちゃんのデビューあたりを見逃していたことなんです。気がついたらすごいポジションまで一気にあがっていた。ふたりのような存在とデビュー前に出会えなかったのは、残念でなりません。これはすごく不思議なことなんですけど、女優が入り口の子は、そのあと歌手をやってどんなに売れても、女優なんですよね。モデル出身の人も、どんなに歌がヒットしてもモデルさん。僕は、歌手のポジションスタートで、女優も出来るような次なるスターと会いたい。オンラインサロンの企画で始まった「中2映画企画」(中2を題材とした映画のヒロイン募集企画)で、のんクラス、広瀬すずクラスと対面したいものです。楽しみ!


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