『ザ・ノンフィクション』北九州連続監禁殺人事件、犯人の息子が伝えたかったこと「放送1000回SP 後編」

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2021年04月19日 20:21  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。4月18日は「放送1000回SP 後編」というテーマで放送された。

あらすじ

 今放送で1,000回目を迎えた『ザ・ノンフィクション』。前週の999回から番組26年の歴史を、前後編で振り返っている。

 当番組の初回は1995年10月15日。登場したのは、同年にロサンゼルス・ドジャーズに入団した野茂英雄投手で、放送2回目は同年3月に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教。その後も「大事件の関係者」「芸能、スポーツの有名人」などを取り上げることが多かったが、徐々に番組は市井の人たちにスポットライトを当てていく。

 今回の後編では、東日本大震災(2011年3月)以降の10年間が取り上げられた。震災の翌月には、犠牲者が全市町村で最多であった宮城県石巻市に暮らす3組の家族を取材。別の回では、田舎暮らしに憧れて、福島県浪江町に単身移住した老齢男性が、福島第一、第二原発事故により終の棲家と考えていた場所を失うことに。また、葛尾村の酪農家夫婦は飼っていた牛とも別れねばならず、牛の頭を撫で牛舎の片隅で涙する妻の姿を伝えていた。

 2017年に放送された、「人殺しの息子と呼ばれて…」。世間を震撼させた北九州連続監禁殺人事件の主犯、松永太死刑囚、緒方純子受刑者を両親に持つ息子の声を伝えたこの回は、大きな話題になった。事件当時彼は9歳。番組の取材を受けた際は、24歳になっていた。事件では緒方の親族6人が犠牲となっており、息子は事件後、身寄りがなく児童養護施設に預けられ、壮絶な半生を送る。彼は「ネットとかで(自分のことを)書かれるじゃないですか。その息子は今まともになっていないだろうなとか。知りもしない人たちが僕のことを悪く言うっていうのに納得ができなくて」と取材に応じた思いを話した。

 また、自身の体と心の性が異なる人たちについても、番組は何度か取り上げている。新宿ゴールデン街の名物ママ・真紀さん(当時76歳)は若い頃に性別適合手術を受け、当時の時代背景もあり家族に迷惑をかけられないと、故郷の鹿児島にはそれから一度も戻らなかったが、「せつなくて故郷」では47年ぶりとなる帰省の様子を取材。真紀ママはその後亡くなり、故郷の墓で眠っている。「しっくり来る生き方」では風呂ナシ、38歳で女装し地下アイドル活動をする男性の姿を見つめていた。彼は大学を出て働くも、その生活がどうもしっくりこず、はじめて「しっくりきた」のが、女性用のワンピースに袖を通したときだったという。

 社会問題に対し、長年にわたって献身的な活動をしてきた人についても番組では多く取り上げている。杉並区で動物病院を営みながら、休日は犬猫の避妊手術を行う太田快作獣医師を追った「花子と先生の18年」をはじめ、動物愛護活動に携わる多くの人たちを伝え、1,000回総集編の最後では、非行、不登校など問題のある子どもたちを「逃げるな」と支え続け、2019年に亡くなった愛知県西居院の熱血和尚、廣中邦充さんを伝えていた。

※「人殺しの息子と呼ばれて…」「切なくて故郷」は、FOD(フジテレビオンデマンド)で全編が視聴できる。

 かつて番組のホームページには「2011年の東日本大震災から、何かが変わった。その何かがこの国の行方を左右する」と記載があり、似たようなことが今回の後編のナレーションでも伝えられていた。私は宮城県出身で、震災で価値観や考え方が変わったが、震災の体験者や被災者、そうした者を家族や友人に持たない人は、価値観の本質的な部分は特に変わっていないように思う。それは自然なことだろう。当事者とそうではない人が、完全に同じように感じるなんて無理だ。

 「2011年の東日本大震災から、何かが変わった」という言葉を番組が伝え、今回の前後編の区切りも東日本大震災だったのは、番組スタッフが被災直後から被災地を何度も訪ね、被災した人たちの声を聞いてきたからこそだろう。「何かが変わったのだと伝えたい」という願いに似たものを感じる。この願いは、震災から10年たった2021年、新型コロナウイルスの蔓延により、「大きな困難により価値観、考え方が変わる」ということが、日本全国にようやく伝わったのではないかと思う。

 震災の被害が場所によりまったく違うように、新型コロナウイルスの被害も、職業によってその経済的な損失も全く違うので、さほど変化なく暮らせているように見える人がいる一方で、なぜ自分だけが、という深い絶望にある人もいる。絶望や孤独の状況にある人たちが歯を食いしばっているから社会は成立しているのだと思う。

 当事者やそれに近い人が感じた気持ちと同じように、自分が体験したことのない出来事を受け取るのは不可能だと思うが、それでも知ることで、相手に対する想像力は育まれる。こんなときに映像はとても雄弁だ。

 DV問題を追った回では、DV被害者の妻からの手紙と離婚届を代理人経由で受け取った加害者である夫の姿を遠くから映していた。手紙の中から離婚届を見つけた夫の手は、遠目でも「わなわなと」震え、動揺から手紙を持ったまま部屋をウロウロし続け、代理人から何度も座るように促されてもやめられない様子だった。

 夫の顔にはモザイクがかけられていたものの、その行動から、離婚届が夫にとっては「青天の霹靂」であったことが伝わり、夫が「それまで自分が妻にしてきた暴力について、全く理解していなかったこと」がよく伝わった。ここまで加害側は無自覚なのかと、DVの恐ろしさと、DVに耐えることの不毛さがよく伝わる映像だった。

 『ザ・ノンフィクション』は、ドキュメンタリー番組の中でも登場人物が自分の思いを話す割合が高い番組だと思うし、そこが魅力の一つだと思うが、私は番組のこんな「言葉がない、映像だけのシーン」も好きだ。言葉では語りきれない多くのことを伝えていると思う。

 次回は「銀座の夜は いま…2 〜菜々江ママとコロナの1年〜」銀座の超高級クラブを経営する唐沢菜々江ママ、47歳。新型コロナウイルスに翻弄されながらも模索を続ける姿を昨年20年5月の放送でも伝えていた。しかし、その後1年、「夜の銀座」の状況は改善される兆しすら見えない厳しい状況が続いている。銀座の今の姿とは。

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