宇治拾遺物語『絵仏師良秀』の現代語訳をスタディサプリ講師がわかりやすく解説!

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2021年08月11日 00:11  スタディサプリ進路

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高校入試でよく出題されている『宇治拾遺物語』は、大学入試にも採用されているから、しっかり勉強しておきたい作品のひとつ。

今回は、その『宇治拾遺物語』の中から『絵仏師良秀』について、スタディサプリの古文・漢文講師 岡本梨奈先生に解説してもらった。
【今回教えてくれたのは…】
枕草子『中納言参り給ひて(ちゅうなごんまいりたまひて)』を スタディサプリ講師がわかりやすく解説&現代語訳!
出典:スタディサプリ進路

岡本梨奈先生
古文・漢文講師
スタディサプリの古文・漢文すべての講座を担当。
自身が受験時代に、それまで苦手だった古文を克服して一番の得点源の科目に変えられたからこそ伝えられる「わかりやすい解説」で、全国から感動・感謝の声が続出。

著書に『岡本梨奈の1冊読むだけで古文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『岡本梨奈の1冊読むだけで漢文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『古文ポラリス[1基礎レベル][2標準レベル]』(以上、KADOKAWA)、『古文単語キャラ図鑑』(新星出版社)などがある。

『宇治拾遺物語』とは?

『宇治拾遺物語』は、鎌倉時代に書かれた説話集。編著者は未詳。『今昔物語集』と並んで説話文学の傑作とされています。

説話とは、いわゆる「お説教話」です。教科書に載っている説話には、エピソードの部分に必ず教訓が込められているので、その教訓を意識することがポイントになります。

1分でわかる! 『絵仏師良秀』ってどんな話?

『絵仏師良秀』とは、仏画を描く職人・絵仏師である良秀の話。

良秀は、自分の家が火事になったとき、家が燃えるのをうなずきながら見ていました。しかも、その家の中にはまだ妻子がいるのに笑って見ていたのです。

まわりにいた人があきれて、「もののけでもとりついたのか」と言うと、「長年、不動明王の炎を下手に描いていたが、今見て、炎はこのように燃えるのだとわかった。だから、もうけものだ。仏画を上手に描ければ、家は百軒でも千軒でも建てられる。あなたたちは才能がないから、物を惜しむのだ」と、あざ笑ったのです。

その後、良秀が描いた不動明王の絵は「良秀のよぢり不動」と称賛されるようになりました。

この話は、芥川龍之介の『地獄変』のモデルになったと言われています。

(注)もののけ…人にたたりをするもの。人にのりうつって悩ますという。

不動明王…怒りの表情をし、右手に剣、左手に縄を持ち、火炎を背負い、いっさいの邪悪を鎮める力を持つと言われる。

「絵仏師良秀」を詳しくマンガで理解しよう!!

宇治拾遺物語『絵仏師良秀』の現代語訳をスタディサプリ講師がわかりやすく解説!
出典:スタディサプリ進路

宇治拾遺物語『絵仏師良秀』の現代語訳をスタディサプリ講師がわかりやすく解説!
出典:スタディサプリ進路

宇治拾遺物語『絵仏師良秀』の現代語訳をスタディサプリ講師がわかりやすく解説!
出典:スタディサプリ進路

宇治拾遺物語『絵仏師良秀』の現代語訳をスタディサプリ講師がわかりやすく解説!
出典:スタディサプリ進路

宇治拾遺物語『絵仏師良秀』の現代語訳をスタディサプリ講師がわかりやすく解説!
出典:スタディサプリ進路

『絵仏師良秀』の原文&現代語訳を読んでみよう。


これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。

これも今となっては昔のことだが、絵仏師の良秀という者がいた。
家の隣より火出で来て、風おしおほひてせめければ、逃げ出でて、大路へ出でにけり。

(ある日、良秀の)家の隣から火事が起こり、風がおおいかぶさるように吹いて(火が)せまってきたので、逃げ出して、大通りに出た。
人の書かする仏もおはしけり。また衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。それも知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに立てり。

(良秀の家の中には、)人が(注文して)描かせている(仏画の)仏もいらっしゃった。また、着物を着ていない(良秀の)妻子なども、そのまま中にいた。そのことに関心も持たず、ただ逃げ出したのをよしとして、(家の)向かい側に立っていた。
見れば、すでにわが家に移りて、煙、炎くゆりけるまで、おほかた向かひのつらに立ちて眺めければ、「あさましきこと。」とて、人ども来とぶらひけれど、騒がず。

見ていると、すでに自分の家に(火が)燃え移って、煙や炎が立ち上がったときまで、(家の)向かい側に立って眺めていたので、「たいへんなことですね。」と人々が見舞ったけれども、(良秀は)騒ぐようすもない。
「いかに。」と人言ひければ、向かひに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづきて、時々笑ひけり。

「どうしたことですか。」と人が言ったところ、(良秀は家の)向かい側に立って、家が焼けるのを見て、うなずいては、ときどき笑っていた。
「あはれ、しつるせうとくかな。年ごろはわろくかきけるものかな」と言ふ時に、とぶらひに来たる者ども、「こはいかに、かくては立ちたまへるぞ。あさましきことかな。物のつきたまへるか。」と言ひければ、

「ああ、たいへんなもうけものをしたよ。(今までは)長年下手に描いてきたものだな」と言ったので、お見舞いに来た人たちは、「これはまあどうして、このように立っていらっしゃるのだ。あきれたことだなあ。もののけでもとりつきなさったか。」と言ったので、
「なんでふ物のつくべきぞ。年ごろ不動尊の火炎を悪しくかきけるなり。今見れば、かうこそ燃えけれと、心得つるなり。これこそせうとくよ。この道を立てて世にあらんには、仏だによくかきたてまつらば、百千の家も出できなん。わたうたちこそ、させる能もおはせねば、物をもをしみたまへ。」と言ひて、あざ笑ひてこそ立てりけれ。

(良秀は)「どうしてもののけなどとりつくことがあろうか。長年(わたしは)不動明王の火炎を下手に描いていたのだ。今見ると、(火は)このように燃えるものだったと、会得したのだ。これこそもうけものよ。仏画の道を職業として世の中を生きてゆくには、仏様だけでもうまくお描き申しあげれば、百や千の家などすぐできるだろう。あなたたちこそ、これといった才能もお持ちでないから、物をおしみなさるのだ。」と言って、あざ笑って立っていた。
その後にや、良秀がよぢり不動とて、今に人々愛で合へり。

そのことがあって以来のことだろうか、「良秀のよぢり不動」と言って、今でも人々が称賛しあっている。
/『宇治拾遺物語』より

『絵仏師良秀』のポイントをチェック!

まず、前半を読んでみましょう。絵仏師の良秀は、自分の家が燃えているのを見て、笑っていました。この段階でおかしいですよね。

しかも、自分の家が燃えているのに、良秀は「たいへんなもうけものをしたよ。」と言っています。絵仏師の良秀という人は、かなり普通の人とは違った反応をしていますね。

そういう、ちょっと普通の人とは違った反応から話が始まっていることを読み取っておきましょう。

では、後半部分で重要語をチェックしていきます。

Point1:いかに=どうして

「こはいかに」は、「これはどうしたことだ」と訳します。

Point2:たまへ=〜なさる・〜いらっしゃる

「たまへ」の終止形は「たまふ」です。

この「たまふ」は、「給ふ」と書く尊敬語です。本動詞だと「お与えになる」という意味ですが、ここでは補助動詞で「〜なさる・〜いらっしゃる」と訳します。

そのため、「立ちたまへるぞ」は「立っていらっしゃるのだ」と訳します。

Point3:あさましき=おどろき、あきれる

現代語で「あさましい」と言うと、「意地汚い」などの品性が卑しい意味で用いますが、古文ではまったく意味が違います。「あさましき」の終止形は「あさまし」で、「おどろき、あきれる」という意味の古文単語です。覚えておきましょう。

Point4:なんでふ=どうして

「なんでふ」は歴史的仮名遣いです。「なんじょう」(または「なじょう」)と読みます。

意味は「どうして」です。

Point5:年ごろ=長年

「年ごろ」は「としごろ」と読む、大事な古文単語です。現代では「いいお年頃」などと年齢の意味で用いますが、古文では「長年」、つまり「長い間、今までずっと」という意味になります。

Point6:なり=(断定)〜である

この「なり」は「つる」についていますね。「つる」は完了の助動詞「つ」の連体形です。

連体形に接続する「なり」は断定の助動詞で、「〜である」と訳します。

Point7:かう

「かう」は指示語「かく」のウ音便です。「かく」は「こう・この・このように」などと訳します。

Point8:この道=仏画の道

古文の問題では、よく「この道」は何の道かと問われることがあります。歌の道、仏の道、いろいろな道がありますが、ここでは絵仏師良秀の「仏画の道」です。

Point9:だに=せめて〜だけでも

この「だに」は、下に仮定があるので最小限「せめて〜だけでも」の意味です。

Point10:たてまつら=〜申し上げる

「たてまつる」は、「奉る」と書く謙譲語です。本動詞だと「差し上げる」という意味ですが、ここでは補助動詞で「〜申し上げる」と訳します。

Point11:させる

「させる」は、下に打消と一緒に用いて「たいした(〜ない)・これという(〜ない)」と訳す連体詞です。

『絵仏師良秀』から読み解く教訓とは?

不動尊=不動明王は、剣を持った火の仏様です。不動明王のまわりには火炎が描かれています。

でも、絵仏師良秀は、今まで火炎が上手に描けませんでした。そこで、自分の家が燃えているのを見て、不動明王の火炎はこう描いたらいいのか、とわかったのです。

自分の家が燃えていることよりも、火を見て、不動明王の絵が描けることのほうが、絵仏師良秀にとっては大事だったのでしょうね。

絵仏師良秀は、上手な絵を描くためなら、自分の家が燃えていてもいいのです。自分の家が燃えていることで、炎とはこう描くものなのだ、とわかったことが、絵仏師良秀にとって拾いもの、幸運だったのです。

説話とは、エピソードと教訓で構成されていますが、今回の教訓は「芸術の道を究めるための姿勢」なのでしょう(良秀の言動に賛成できるかどうかは別として)。

取材・文/やまだ みちこ 監修/岡本 梨奈 イラスト/カワモト トモカ 構成/黒川 安弥

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  • 不動明王の炎�ϡ�����と火事場の火は違うのだよ。わからないかな。
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