江口のりこ、俳優は「有名になりたいとかいう動機では続かない」

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2022年08月12日 11:00  AERA dot.

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写真江口のりこ(えぐち・のりこ)/ 1980年生まれ。兵庫県出身。2002年映画デビュー。タナダユキ監督「月とチェリー」で映画初主演。21年、中田秀夫監督「事故物件 恐い間取り」で日本アカデミー賞優秀助演女優賞。長塚圭史演出の出演作に、「浮標」(11年)、「冒した者」(13年)、「王将」三部作(17、21年)など。公開待機作に中田秀夫監督「爐修讚瓩いる森」、荻上直子監督「川っぺりムコリッタ」がある。(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)
江口のりこ(えぐち・のりこ)/ 1980年生まれ。兵庫県出身。2002年映画デビュー。タナダユキ監督「月とチェリー」で映画初主演。21年、中田秀夫監督「事故物件 恐い間取り」で日本アカデミー賞優秀助演女優賞。長塚圭史演出の出演作に、「浮標」(11年)、「冒した者」(13年)、「王将」三部作(17、21年)など。公開待機作に中田秀夫監督「爐修讚瓩いる森」、荻上直子監督「川っぺりムコリッタ」がある。(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)
 やり手の国土交通大臣を演じた2020年版の「半沢直樹」で、その名を知った人も多いだろう。以降、バイプレーヤーとしてだけでなく、主演としても活躍する。俳優・江口のりこさんの素顔は、平常心を保つ達人だった。


【写真】シックな衣装をまとう江口のりこさん
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 何度となく、「自分は何も変わってないです」と呟(つぶ)いた。2年前、大ヒットドラマに出演し、知名度が上がったこと、それに伴いバラエティーなどの仕事も増えてきたことについても、「しょうがないことですよね」と淡々と振り返る。


「世間の人が、自分が出ているテレビを観ることが多くなっただけで、自分自身は何も変わらないんです。バラエティー番組も自分が『出てみようかな』と思う番組に出ているだけで、『ちょっとそこまでしなくたっていいんじゃない?』と思うことはやってないし。誰かにやらされてるわけではないので、浮かれることも、周りの変化に戸惑うこともないです。もし、20代にこういう状況になったら戸惑ったかもしれないですけど、今はもう42で、大人ですから」


 江口さんが上京したのは、18歳のとき。アルバイトで生計を立てながら、劇団東京乾電池のオーディションを受けた。


「映画に興味があったので、役者を目指すことにしたんです。私は昔から、アルバイトなんかでも、長く続けることができなかったし、習い事も、自分から積極的にやりたいと思ったことがなかった。でも、芝居は、続いたんですよ。なんでかわからないけど、しつこく続けてしまう自分がいて。舞台に関しては、好きだし、楽しいし、やりたいと思うからやっているという感じですね」


 ブレーク後の2021年には、単発ものや配信も含めると、8本ものドラマに出演しているが、同時に複数の舞台にも出演している。今年2本目となる舞台は、初のミュージカルだ。溝口健二監督の映画「夜の女たち」を長塚圭史さんがミュージカル化し、戦後間もない大阪・釜ケ崎を舞台に、生活苦から夜の闇に堕(お)ちていった女性たちが必死に生き抜こうとした姿が描かれる。1年以上前、長塚さんから、「この時期なんだけど、空いてる?」とサラッと聞かれ、「何か一緒にやるんだなあ」と思ったので、「はい」と答えた。



「映画もドラマも、それぞれにおもしろさがありますけれど、舞台のおもしろさっていうのは……何ていうのかな。ひと月以上稽古して本番も1カ月ぐらいあるから、しつこく作り上げていくことができるじゃないですか。台本1ページ分を作るのに丸一日かけたりできる、その作業がすごく好きです。贅沢(ぜいたく)な時間だなと思います。あとは、俳優としての修業の場にふさわしい気もするんですね。もちろん映画もドラマも、鍛えられる場所ではあったりするんですけれども、舞台は、単純に『楽しいし好き』っていうところが大きいかもしれない」


 これまで、「自分の名前が世間にもっと知れ渡ったらいい」などと考えたことは皆無だという。


「有名になりたいとかいう動機では続かないですよ、この仕事は。しんどいですから。いつも追われている感じなので、目の前のことをやっていくだけで精いっぱい。今やっている芝居のことしか考えられないです。私も、今はこの作品が目の前にあって、日々稽古をして、問題が見つかったら、それに立ち向かう。そういう作業日がずっと続いている感じで、一日があっという間に終わってしまう。だから、先を見る余裕がないんです」


 毎日、いろんな日があって、「楽しい」「好き」ばかりでは乗り越えられないときもある。でも、江口さんは、「それはしょうがないです。仕事ですから」と変わらず淡々とした口調で言う。


「目の前のことを淡々とやっていくのは、俳優業に限ったことじゃなく、仕事をしている人は、みんなそうなんじゃないですか。自分の選んだ仕事ではあるけれども、全部が楽しいわけじゃない。それは、誰もが同じだと思うんですけどね。目の前のことに必死になって、昨日できなかったことが今日はできたり、明日に持ち越したり。それが私は苦じゃないし、それもひっくるめて楽しいと思えるんです」


 もう一つ、江口さんを舞台にのめり込ませるのが、作品ごとの出合いだ。役との出合いも刺激的だが、そこには常に課題がつきまとう。でも、スタッフや共演者など“人”との出会いは、シンプルに現場を「楽しい」と思わせてくれるのだそう。


「どうせやるならおもしろいほうがいいじゃないですか。何でもね。舞台のおもしろさは、脚本にもあるけど、私にとっては、一緒にやる人が大きいかもしれない。今回のチームにも好きな人がいっぱいいます。『夜の女たち』では、これまでやったことがない役ですが、役柄の変化には、私は、そんなにこだわりはないです。何でもできるとも思ってないし。人にはそれぞれタイプがありますから」


(菊地陽子 構成/長沢明)

※週刊朝日  2022年8月19・26日合併号より抜粋


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