「邪神ちゃんドロップキック」作者・ユキヲ「僕の漫画家生活にゲームは不可欠」 スマホゲーム全盛時代にレトロゲームで遊ぶ理由

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2022年11月05日 09:01  リアルサウンド

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 漫画家のユキヲはレトロゲームの愛好家である。ユキヲのTwitterのアカウント名を見てほしい。@PentarouXとある。



 勘がいい人、ゲームに詳しい人は気づいたかもしれないが、実はこれ、あるゲームのキャラクターの名前なのだ。先日、アニメの第3期の放映が終わり、漫画の単行本は19巻が発売中。いよいよ20巻に到達する『邪神ちゃんドロップキック』の連載を抱えるなど多忙を極めるユキヲだが、原稿の合間に遊ぶゲームがかけがえのない安らぎの時間なのだそうだ。


 そんなユキヲが最近ハマっているのは、スーパーファミコン(以下、スーファミ)のソフトである。スマホゲーム全盛の時代に、ユキヲがレトロゲームをプレイする理由はなんだろうか。飽くなきゲームの魅力をとことん深掘りしてみた。


ゲームの基板を買ってくれた父

――ユキヲ先生が子どもの頃は、ファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)の全盛期ですよね。


ユキヲ:そうですね。僕はファミコンの世代でした。初めてはまったゲームは、初代の『スーパーマリオブラザーズ』や『ドンキーコング』ですね。幼稚園の年長生の頃にプレイしたのが最初だったと思います。


――幼稚園児の頃に遊んでいたんですか! 早い!


ユキヲ:小学生になってからもゲーム漬けです。その勢いは冷めることがなく、ゲーム熱は中学生くらいまでぐんぐん上がっていきました。そして、一気に伸びたのは『ストリートファイターII』です。何しろ、ゲーム基板を持っていたので、家でひたすらプレイしていたんですよ。


――ええっ!? それは凄い!


ユキヲ:凄いですよね(笑)。父が基板を買ってくれたんです。父は仕事で忙しくて家に帰れないことが多く、罪悪感があったのか、ゲームを買って喜ばせてくれることが多かったです。今と違い、この頃はまだ、ゲーセンは子どもにとって安全な場所とは言えなかったので、家にあった方がいいと考えて買ってくれたんでしょうね。


――なるほど。最近では、かつてゲーセンが不良のたまり場だった時代があるとか、もしかすると実感が湧かない世代も増えたかもしれませんね…… それにしても、基板があったら友達が家に押しかけそうです。


ユキヲ:ゲーム好きの親しい友人を数人、家に呼んで遊んでいました。ゲームは共通の話題になるし、格闘ゲームだと一緒に遊べるので、最高のコミュニケーションツールなんですよね。


こちらがゲームの基板。ソフトと比べるとあまりに無機質だが、男心をくすぐるメカメカしさがいい。写真提供=ユキヲ

――でも格ゲーって、勝ち負けで喧嘩になったりしませんか?


ユキヲ:友達とはならなかったけれど、ゲーセンでは喧嘩になるし、巻き込まれたことがあります。僕が圧倒的に勝ったとき、相手が筐体の向こうからずっとこちらを睨んできたこともあります。


――ユキヲ先生はゲーム、強そうですよね(笑)。


ユキヲ:基板を持っていたので家でひたすら練習できたし、とにかくゲームに狂っていたので、強かったと思いますよ。地元のゲームセンターでもたぶん一番強かったんじゃないかな。ちなみに、ストIIではガイルかケンを使っていましたね。


――ストIIといえば、春麗みたいなかわいいキャラがいるじゃないですか。ユキヲ先生はキャラのイラストを描くことはなかったんですか?


ユキヲ:その頃はイラストを描くよりも、ゲームをひたすらやり込んでいましたね。中学生の頃はゲーム三昧でした。学校行って、帰りはゲーセン、家ではスーファミと基板でストIIです。とにかく、なんでここまではまったのか自分でもわからないくらい、はまっていました。ゲームが上手いといわれると純粋に嬉しいし、楽しいんですよ。子どもの頃の熱い思いを今も持ち続けている人が、きっとプロゲーマーになっているんでしょうね。


ユキヲは現在もゲームの基板を蒐集。漫画を描く仕事部屋の棚には、基板がぎっしりと詰まっている。緩衝材でしっかりと包んで保管されている。写真提供=ユキヲ
『バーチャファイター2』は大人のゲームだった

――高校生になってもゲーム熱は健在でしたか?


ユキヲ:そうですね。高2の秋にあった修学旅行では、『スーパーストリートファイターIIX』が遊べなくて早く帰りたいと思っていたくらいですね。そして、高2の冬に『バーチャファイター2』が出たんですよ。この出合いは衝撃的で、高3のときはバーチャに狂いまくっていました。学校にいても家にいても、バーチャのことしか考えていなかったんです。


――受験生なのに(笑)! バーチャにはまった要因はなんでしょうか。


ユキヲ:一言でいえば、おしゃれだったんですよ。3Dのポリゴンは最先端のゲームのイメージでしたから、大人のゲームのような感じがしたんです。当時、学校にはバーチャ派と鉄拳派がいたんですが、僕はバーチャのほうが面白かった。というのも、ボタンが3つしかなく、ガードとPKのみのボタンを組み合わせて多彩な技を出せるところが凄いし、読み合いの要素が強くて面白かったです。もちろんストIIも突き詰めれば面白いんですが、当時の僕の感覚ではバーチャの方が戦略性が高く、新鮮味があるように感じました。


――アーケードゲームの攻略法はどうやって学んでいたんですか?


ユキヲ:『ゲーメスト』を読むんですよ。


――ああ、「インド人を右に!」のゲーメストですね(笑)。


ユキヲ:(笑)。『ゲーメスト』は休刊になる最後の号まで買っていました。ゲームセンターのゲームを攻略している唯一の雑誌でしたからね。僕が通っていたゲーセンって、上手い人の後ろに立って見ていると、怒られるような雰囲気もあったんです。だから、ゲーメストは教科書みたいなもので、自宅でひたすら勉強するんですよ。ゲーメストで勉強して、超えられない面を超えるという感じです。


――誤植ばかりを何かと話題にしてしまうゲーメストですが、当時のアーケードゲーム好きには必読の雑誌だったわけですね。


ユキヲ:でも、ゲーメストの誤植は、読んでいて「ん?」と気づきましたよ。有名な「確かみてみろ!」をリアルタイムで見て、爆笑したのは記憶しています(笑)。


――受験生なのにゲームに没頭したユキヲ先生ですが、しっかり大学に合格して、大学生になっています。


ユキヲ:大学生の頃はパチスロにはまってしまったので、アーケードゲームをあまりやらなくなったんですよ。でも、大学生の頃は『シスター・プリンセス』に出合って、イラストを描き始めたのは大きな出来事でした。シスプリとの出合いを機に、パソコンゲームや美少女ゲームにはまりましたし。それ以前にも『餓狼伝説2』の不知火舞や『サイコソルジャー』の麻宮アテナのようなゲームの女性キャラを描いたことはありましたが、意識して描くようになったきっかけは間違いなくシスプリです。


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パロディウスシリーズが大好き

――さて、ユキヲ先生は現在、ゲームソフトやゲーム基板を蒐集しておられます。子ども時代にもたくさんソフトはお持ちだったと思いますが、意識して集め始めたのはいつ頃でしょうか。


ユキヲ:ソフトを集め始めたのは、2002年の頃からですね。僕はコレクションとして飾っておくのではなく、遊ぶために集めるタイプで、子どもの頃に一度手放したソフトを大人になってから買い戻したことは何度もあります。僕の中でもゲームの流行があって、最近はスーパーファミコンのゲームにはまっていますね。


――スーファミのゲームを買うときの基準はあるんですか?


ユキヲ:アーケードからスーファミに移植されたソフトを買うことが多いです。子どもの頃にゲームセンターに通っていたので、その思い出を呼び覚ます効果がありますね。


――そんなユキヲ先生に、いくつかお気に入りのソフトをお持ちいただきました。まずは『実況おしゃべりパロディウス』、懐かしいですね! 僕もソフトを持っていました。


ユキヲ:僕はシューティングではパロディウスシリーズが大好きで、『パロディウスだ!』と『極上パロディウス』は今も箱入りで持っています。僕のTwitterのハンドルネームは、@PentarouXですが、これは極パロに出てくる敵キャラからとったものです。隠しステージのボスでペンギンのロボットなんですが、一目見てこいつかっこいいなと思いました。


1995年にコナミが発売した『実況おしゃべりパロディウス』。横スクロールのシューティングゲームで、『パロディウス』シリーズの第4作目にあたり、イラストは漫画家のあさりよしとおが手掛けている。主人公・タコの実況解説が入っているため、「おしゃべり」パロディウスなのである。


――パロディウスシリーズって、敵キャラはかわいいのに攻撃はえぐいですよね。


ユキヲ:純粋にシューティングとして面白いですし、難易度を上げて楽しむことができるので、かなりやり込みました。僕は今でも、極パロは最高難易度で全クリできますよ。


――それは凄い! キャラクターもかわいいですし、女の子キャラはセクシーでユキヲ先生好みなんじゃないですか?


ユキヲ:極パロのひかるとあかねが大好きですね。セクシーといえば、『セクシーパロディウス』だけは、ステージが分岐するシステムにちょっと抵抗があるのですが。今日持ってきた『実況おしゃべりパロディウス』はゲームバランスもいいですし、『ときめきメモリアル』や『がんばれゴエモン』など、コナミのゲームをイメージしたステージが出てきて楽しいんですよ。


アーケードゲームをスーファミに移植した人々の苦労を知る

――『奇々怪界 謎の黒マント』も、ソフトに描かれたキャラがかわいいですね。


ユキヲ:タイトーが出していたアーケードゲームの、スーパーファミコン版です。この小夜ちゃんは見ての通り、巫女さんのキャラですね。中学生のころに遊んだゲームなのですが、小夜ちゃんはたぶん、ゲームの女の子がかわいいなと思った最初のキャラなんですよ(笑)。


1986年にタイトーが製作した『奇々怪界』を、1992年にナツメがスーパーファミコンに移植した『奇々怪界 謎の黒マント』。中央の巫女のキャラクターが小夜ちゃん。お札を打ってお祓い棒で敵を倒していく、シューティングに近い感覚で遊べるゲーム。


――かわいい女の子を描くユキヲ先生の原点ですね(笑)。一方で、『ワールドヒーローズ』は硬派なゲームですね。


ユキヲ:本物志向だったので、当時はネオジオ(SNKが開発した家庭用並びに業務用ゲーム機)で遊んでいました。それがスーファミに移植されたものです。どこまで忠実に移植できているのかなと、最近になって興味本位でやってみたらものすごく面白かったんです。ちなみに、ワールドヒーローズのキャラは「邪神ちゃん」のネタにもなっているほど、気に入っています。


――『ファイナルファイトタフ』はどうですか?


ユキヲ:このゲームは初代『ファイナルファイト』の移植同様に、容量の問題で、敵が一度に画面に3体までしか出てこないんです。1体倒したらすぐ次の1体が出てきたりと、工夫して一度にたくさんの敵と戦ってる感じを出してるんですよ。こういった涙ぐましいメーカーの努力に引き込まれますね。


1989年にカプコンがアーケードゲームとして製作した『ファイナルファイト』は、第4回ゲーメスト大賞で、大賞を獲得した名作。以後、シリーズ化された。スーパーファミコン版4作目にあたる『ファイナルファイトタフ』は1995年の発売。


――その気持ち、わかります。とはいえ、僕も子どもの頃は、アーケードそのままと思って買ったら、スーファミ版は不完全な印象で不満でした(笑)。


ユキヲ:そうそう。子どもの視点では、アーケードのほうが本物だと思ってしまうんですよ。でも、大人になった今だと、「スーファミの制約の中、よく頑張った!」と思えますね(笑)。『ザ・キングオブドラゴンズ』は、制約のせいで、かえって曲がアーケード版よりかっこいいんです。対して、こちらの『Mr. Do!』もアーケードの移植なのですが、ほぼ完全に近い形で移植できている例です。アーケードとスーファミの細かな違いを見比べて、開発陣の苦労に思いを馳せるのも、大人ならではの楽しみ方だと思います。


『ザ・キングオブドラゴンズ』は1991年にアーケード版が出たのち、1994年にスーパーファミコンに移植。ユキヲ曰く、「スーファミ版の音は、アーケード版を比べると籠っている感じ。それは制約のせいなんでしょうけれど、僕には逆にかっこよく聴こえるんですよね」とのこと。ソフトは子どもの頃にも持っていたが、後で買い直したという。 『Mr. Do!』は、ピエロを操作して画面の点をとっていくゲーム。ユキヲは「『ディグダグ』と『パックマン』を合わせたようなアクションゲームで、基板も持っています」と話す。1982年に出たアーケード版が、13年後の1995年にスーパーファミコンに移植された。



今の時代にレトロゲームで遊ぶ理由

――ユキヲ先生が考えるレトロゲームの魅力って、何でしょうか。


ユキヲ:シンプルで遊びやすいことが挙げられます。現在のゲームはもちろん凝っていて面白いのですが、システムが複雑で、操作方法を覚えるだけで時間がかかるんですよ。昔のゲームは直感的な操作で遊べるのがポイントです。あと、僕にとっては思い出をもう一度辿れる喜びもあります。昔遊んでいたものを今やったらどう感じるんだろう、という好奇心もありますね。対して、スマホゲームは、今は一本もやっていないんですよ。


――ええっ、そうなんですか?


ユキヲ:スマホゲームはサービスが終わると、遊べなくなってしまう。レトロゲームはゲームソフトが一本あれば遊べるので、安心感があるんですよね。最近のアーケードゲームも、筐体が撤去されたら遊べなくなるパターンが多くて残念です。僕は『プリパラ』や『オトカドール』が大好きで、一時期はめちゃくちゃ遊んでレベルも上げたのに、今ではプレイが難しい。思い出がなくなってしまうようで、悲しいんですよね。


――『邪神ちゃんドロップキック』の連載で多忙なユキヲ先生ですが、ゲームを遊ぶ時間は欠かせないそうですね。どんなタイミングでプレイしているんですか?


ユキヲ:僕は1日のノルマを終わらせたときに、ゲームをやるのが日課です。あと、朝に仕事をする気が起きない気分のときに、やる気を出すために遊ぶ。一種のルーティーンになっていますね。


――ゲームから漫画のインスピレーションを得ることも多そうですね。


ユキヲ:ゲームの一場面からアイディアを思いつくこともあります。例えば、『邪神ちゃんドロップキック』に出てくる“邪神ちゃん会議”の場面は、『ザ・キングオブドラゴンズ』からヒントを得たものです。こういうアイディアが拾えることもあるのが、ゲームの楽しさですね。


――レトロゲームの愛好家が増えている現状を、どう見ていますか。


ユキヲ:レトロゲームは、最近僕みたいなおじさんが当時を懐かしんで集めているのか、プレミアがついて高くなっていますね(笑)。あと、僕個人の話で言えば、コレクションが増えすぎてだんだん置く場所が足りなくなってきました。ソフトはまだ管理がしやすいのですが、僕が集めているゲーム基板は分厚くて場所をめっちゃとるので、部屋の中が占拠されつつあります。


――ユキヲ先生は今後もゲームと縁を切れない生活を送りそうですよね。


ユキヲ:何しろ幼稚園児の頃から遊んでいますから、ここまで来たら、一生遊び続けると思います(笑)。僕はゲームを通じて友達も作ったし、漫画家になるきっかけにもなりました。常に毎日の生活の中にゲームがあったと言っても過言ではない。本当、ゲームには感謝してもしきれないほどです。


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  • レトロゲーム自体は好きだし否定はしないが「そればかり」買ってると未来は無いよね。復刻移植やミニハード等で少しでも還元。
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