“中絶禁止”時代の仏で望まぬ妊娠 映画「あのこと」主演女優にインタビュー

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2022年12月01日 11:30  AERA dot.

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アニー・エルノー(ロイター/アフロ)
 今年のノーベル文学賞に輝いたフランスの小説家アニー・エルノー(82)。自らの経験をもとに、女性の「性」に焦点をあてた自伝小説を多く発表してきた。12月2日から公開される映画「あのこと」は、傑作と名高い『事件』が原作だ。主演のアナマリア・ヴァルトロメイ(23)に話を聞いた。


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──昨年の第78回ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞した映画「あのこと」。主演のアナマリア・ヴァルトロメイは、エルノーのノーベル文学賞受賞について、何を思ったのだろうか。


 受賞は当然のことだと思いました。彼女はフランスではもちろん有名な方ですが、世界中で高く評価され、特に女性の方たちに読まれています。彼女が女性読者から評価されているのは、彼女の小説が女性を描くにあたって、とても的確で正確に現実を描いているからだと思うんです。


 そして、女性の、ちょっとタブーのように思われていることも堂々と語ります。例えば、女性が持っている欲望、性欲なども語りますし、自分の体をきちんと自分で管理している女性の姿、女性たちの自由も的確に描いています。私たち若い女性にとって本当に胸に迫ってくるものがありますし、とても参考になります。私はエルノーさんを読み続けると思いますし、一生彼女から離れられないと思います。


──映画「あのこと」の原作『事件』はエルノーの中絶体験を描いた小説。中絶が法律で禁止されていた1960年代のフランスを舞台に、望まぬ妊娠をした大学生の主人公アンヌが12週間、たった一人で難局を乗り切ろうと闘う姿が描かれる。


 アンヌは本当に勇気があります。違法中絶をする(施術者の)女性のところへ行くだけでもすごく勇気のいること。相手はどんな人かもわからないし、ひょっとしたら命を落とすかもしれない。私は60年代のアンヌのような経験をした女性の勇気と勇敢さを考えます。


 今は当時の違法中絶のことを話す女性がいたり証言もあったりするので、なんとなくこういうものだろうかと私たちは知っているわけですが、63年のアンヌの周りには見本になるような人も全くいません。そんな中で、社会が選択の余地を禁じるそういうものに私は刃向かうんだと、違法中絶の場所に行くのですからその勇気は本当にすごいなと思います。



──撮影前は、当時の違法中絶や女性たちを巡る状況について「何も知らなかった」とヴァルトロメイは言う。


 それまで違法中絶がどのように行われていたか、また、堕胎を商売としてる女性のことを「天使を作る女性」というとか、中絶する道具についても、あいまいな知識しかありませんでした。本当にこんなに暴力的な現実があるなんて知らなかったんです。小説を読んだ時は、具体的なディテールに驚愕しました。


 そして、もう一つ驚いたことは、違法中絶の現実を書いた本が彼女の1冊しかないということでした。中学生ではまだ早いかもしれませんが、高校生にはこういうことをこの本を通して教育することはとても重要だと思います。私は20代で読みましたが、10代の人たちにも早いうちに(自身の性に対する)意識を持ってもらえればいいなと思います。そういう意味でも、この映画はやはりたくさんの人に見られる価値があると思いますし、小説も読まれる価値があると思うんですね。


──ヴァルトロメイはオーディションで主役アンヌを射止めた。


 私はシナリオに性的なシーンがあると、そういうのをやりたがらないタイプの俳優です。でも、今回はシナリオを読んだ時に、これは意味があることだという確信をすごく持てたんです。そこで、「ちょっと監督に会ってみよう」という気持ちでオーディションに行きました。実際、オードレイ・ディヴァン監督にお会いして、この役は本当に俳優冥利に尽きるというか、プレゼントみたいな役だな、と思いました。お会いした後にすぐに電話があって「この作品をやる気持ちはありますか」と聞かれたので、「もちろんです」って答えました。


──堕胎は時間との闘いでもある。1週間後、数週間後と映し出される時間経過は、見る者の鼓動を速める。映画では思わず顔を背けたくなるような堕胎のシーンが何度か出てくるだけに、演じるヴァルトロメイもかなりハードだったに違いない。



 稽古はそれほどしませんでした。痛いシーンは稽古してもあまり意味がないと私たちは判断し、直感的に本能でやるのが一番いいということになったんです。でも、稽古してないから怖かったですね。ひょっとしたら失敗するかもしれない、そしたら監督をがっかりさせてしまうかもしれないと、私の中で恐れがありました。とはいえ、この映画ほど私は監督に寄り添ってもらったことはありません。本当にこれほど撮影現場で自由だと思ったことはありませんでした。オードレイ監督が温かく見守ってくれていました。この映画は低予算でしたが、監督は必要な時間を十分取ってくれました。私自身が居心地のいいような雰囲気作りもしてくれましたし、私だけが頑張って試行錯誤するのではなく、監督にサポートしてもらって一緒に考えるべき感情を作り出していくという形で作り上げました。ちょっと実験的な、何かを探し求めながら作り上げていくという雰囲気は心地良かったです。


──ヴァルトロメイは本作でベルリン国際映画祭のシューティングスター賞ほか、国内外で多くの賞を受賞。人生は大きく様変わりした。


 今私はロンドンにいて撮影の最中です。どういう映画か言えないのがつらいくらい。受賞していなかったら私なんか絶対出られなかったような作品なんですよ。そう思うと、受賞したことで扉がいっぱい開いた感じです。


 米国でもエージェントがつきましたし、これからどんどん世界のステージで活躍できる。そういう扉が開きました。私はそれを可能にしてくれたのが、とても重要なテーマを扱う本作だったことがすごくうれしく、誇りに思っています。フランスで公開されたのは去年ですが、1年経って日本でも公開される。この作品が歩みを止めずにどんどん道をまた切り開いてくれたらと思います。


 私には壮大な目標はありませんが、できればずっと俳優を続けていきたい。仕事が止まってしまうことがないことだけを願っています。


(聞き手/ライター・坂口さゆり)

※週刊朝日  2022年12月9日号


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