倖田來未さんに誓う完全復活 オリックス・黒木優太が挑む意欲の先発転向

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2023年01月18日 06:52  ベースボールキング

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先発に意欲をみせる黒木優太 [写真=北野正樹]
◆ 猛牛ストーリー【第53回:黒木優太】

 2023年シーズンはリーグ3連覇、そして2年連続の日本一を目指すオリックス。今年も監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第53回は、今年がプロ7年目の黒木優太投手(28)です。入団以来リリーフとして活躍してきましたが、右肘を痛めてトミー・ジョン(TJ)手術を受けたため育成選手に。支配下に復帰後、昨季は4年ぶりとなる一軍マウンドに立ち、2勝を挙げました。

 18日には、倖田來未さんが登場曲として書き下ろした未発表の楽曲「It's "K" magic」がCD化。今季はプロ入り後初めて先発に挑み、完全復活を倖田さんにも誓います。


◆ 「今年につなげなきゃ」

 「昨年はチームも日本一になれましたし、一軍で投げることが出来たのが良かった。抑えた、抑えられなかったという結果より、(一軍に)戻って来ることが出来たのが一番の収穫。リハビリをやって来て良かったと思いました。これを、今年につなげなきゃいけません」

 1月4日。仕事始めで開いたばかりの大阪市内の球団施設に、黒木の姿はあった。施設がクローズした12月28日まで汗を流し、オフは所用がない限り通い続ける。

 17日には今年初のブルペン入り。29球は立ち投げで、最後の1球は捕手に座ってもらって投じた。

 「思い切り引っかけました(笑)。でも指に掛かった感覚は悪くありませんでした」

 昨年のキャッチボール開始は1月10日。コンディションの良さをうかがわせるような笑顔が印象的だった。


 橘学苑高から立正大を経て、2016年ドラフト2位でオリックス入り。1年目の2017年から救援として55試合に登板し6勝3敗2セーブ・25ホールドと活躍。2018年も39試合に登板した。

 しかし、右肘を痛めて2019年6月にはTJ手術を経験。3年もの間、一軍のマウンドに登ることは出来なかった。

 それでも昨季は27試合に登板するなどカムバック。2勝2敗1セーブ、防御率2.36で4年ぶりとなる勝利も挙げ、チームのリーグ連覇に貢献した。


 手術から3年半。昨年は年明けの自主トレのキャッチボール開始日を設定、キャンプでの投げ込みも球数を抑えてきたが、今年は負荷を制限していたリミッターを解除する。

 「手術では、靭帯が緩んではいけないのできつく締めるそうで“遊び”がないんです。その遊びが出来るようになれば、本来のパフォーマンスに戻ると言われてきましたが、いきなり負荷をかけるといけないので、制限をかけて調整してきました。もう靭帯に遊びを作って元通りに出来る段階なので、制限はなくしました」と黒木。

 制限を解除する理由もある。昨年のシーズン終了後、チーム関係者に先発転向を志願。「そういう気持ちが大切。頑張ってみたらいい」と理解を示してもらったのだ。

 「先発完投が理想の投手像。中継ぎの人を休ませてあげることも出来ますし、チームの状態や順位も良くなると思う」

 術後の状態の良さが、投手としての本能に火をつけたようだ。


◆ 復活の原動力

 挑戦する気持ちを奮い立たせてくれたのは、妻ともう一人の女性の存在だ。

 高校時代の同級生と結婚したのは2018年オフ。翌年にTJ手術を受け、一軍復帰するまで3年間を支えてくれた。気持ちが落ち込みそうになった時には「大丈夫だよ」と声を掛けてくれ、食事面では野菜中心に多くの種類のおかずを食卓に並べてくれた。

 「徹底的に食事の管理をしてくれて、心のケアもしてくれました。独りなら余計なことを考えたり、食事も偏ってしまったりしていたと思います。家では野球のことは話しませんが、簡単な言葉で心の部分を支えてくれました。結婚してから妻には全然良いところを見せることができなかったので恩返しをしたいと思います」

 高校時代から約13年。野球人・黒木を最も知る妻だが、野球の話はしてこないという。良い時も、悪い時も、そっと寄り添う。復活を信じてくれた妻だからこそ、「大丈夫だよ」という言葉が何よりの支えになった。


 そしてもう一人は、昨年登場曲を作ってくれた歌手の倖田來未さん。

 高校時代から倖田さんのファンで、入寮時にはDVDを持参した。「自分で稼いだお金で入ると決めていた」と、初めての給料で公式ファンクラブの「倖田組」に入会したほどだ。

 2017年の誕生日には、関係者から伝え聞いた倖田さんからCDと花束が合宿所に届き、マウンドへの登場曲も倖田さんが2018年にリリースした「Guess Who Is Back」を使用してきた。

 「いつかアップテンポな曲で応援歌を作ってほしい」。2019年にライブ会場で直接お願いをしたが、その後は故障もあり夢はかなわなかった。


 そんな時、リハビリの苦しさを知る知人でオリックスファンのタレント・たむらけんじさんが、「頑張っていたら、良いことがあるよ」と激励。支配下登録後に倖田さんに楽曲をお願いしてくれたことで、新曲「It's "K" magic」が届いた。

 クールなビート感があふれる楽曲で、関西弁混じりに「未来の自分誇りたいのなら、答えは一つやるしかないやん?!」と背中を強く押す歌詞が特徴。昨年の本拠地開幕戦となった3月29日・楽天戦の7回、2番手として登板した際に初めて披露された。


◆ 完全復活でお礼を

 右肘の手術から苦しいリハビリ、二軍での1年間の調整などを経て、4年ぶりに一軍のマウンドに立った黒木の復活の軌跡を連想させるサウンド。

 倖田さんは所属事務所を通して「黒木投手がマウンドに立つ時に、ワクワク感とエネルギーが満ち溢れ、力を出せるように背中を押すようなビート感で、楽曲を作りたいと思いながら制作しました。今回の楽曲が少しでも、黒木投手の背中を押せる、最高の試合になる楽曲になってくれることを願っています!!皆さんもぜひ、『K magic』 が炸裂するのを楽しみに応援していきましょう!!」とコメント。


 黒木だけのために作られ、黒木がホームゲームで登板する時だけしか聞くことの出来ない、まさに“幻の楽曲”。

 ファンの間でも「自分のためだけに好きなアーティストが曲を作ってくれるなんて夢のよう」「辛い時でも、その曲があるだけで奮い立たせることが出来そう。羨ましい」などという声とともに、CD化の希望もあったという。

 18日にリリースされる“Music & Live Package”と銘打った新作「WINGS」には、「It's "K" magic」のほか、昨年8月に配信リリースされたミディアムバラード「Wings」など全5曲を収録。

 黒木は「倖田さんの作品には歌詞のメッセージ性があります。ライブに行くとよくわかるのですが、どうすればファンが喜んでくれるのかと考えるなど、人を大切にする人。内面的な良さも魅力の一つです」と言い、「球場の登場曲で倖田さんを知ってもらい、CDで僕のことも知ってもらえたらうれしい。ライブでも聞けるし、楽しみです」と相乗効果に期待を寄せる。


 手術から4年。昨年挙げた2勝は、K(黒木)が起こした奇跡。

 「楽曲をいただいたお礼を直接、お会いして伝えたい」

 まっさらなマウンドで躍動して完全復活を誓う。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)

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