2023年シーズンはリーグ3連覇、そして2年連続の日本一を目指すオリックス。今年も監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。
第55回は、近鉄バファローズOBで元NPB審判員の良川昌美さん（62）です。近鉄時代は中継ぎとして活躍し、現役引退後は審判員に転身。その後は審判を指導するスーパーバイザーを務め、後進の指導にあたってきましたが、昨年12月末で勇退しました。
もともとは2年で消滅したクラウンライターライオンズ（現・西武）の2期生で、1977年のドラフトでは1位の江川卓さんとともに5位指名。江川さんは入団を拒否し、クラウンは翌年に西武ライオンズに名前を替えましたが、「江川さんと一緒にプレーをしたかった」と今も残念がります。
プロ球界最終年には、近鉄の系譜を継ぐオリックスが26年ぶりに日本シリーズを制覇。「バファローズ」としては初めての日本一に、「今季もリーグを盛り上げてほしい」と期待を寄せます。
◆ “怪物”とドラフト同期も…
「近鉄はなくなりましたが、（統合で）バファローズを引き継いでくれたオリックスのことは気になります。昨年はバファローズとして果たせなかった日本一になってくれて、めちゃくちゃうれしかったですね」
昨年12月末でNPBの審判を指導するスーパーバイザーを勇退した良川さんは声を弾ませた。1月からは大阪市内の専門学校での仕事が、プロ野球選手、NPB審判員に続く第三の人生だ。
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「直球とカーブしかなかった」という右腕だが、巨人や阪神、近鉄、南海など7球団が調査に訪れ、1977年のドラフトでクラウンから5位指名を受けて入団した。
この時の1位は法政大の江川さん。作新学院高時代の1974年の阪急（現・オリックス）に続く1位指名だったが、江川さんは「指名された球団は、関東に住む私にはなじみが薄く、遠隔地である」などとして入団を拒否している。
監督は、のちに「球界の寝業師」と呼ばれる根本陸夫さん。クラウンは成績不振の太平洋クラブライオンズから命名権を引き継ぎ、1977年から参入。監督は根本さんに替わったばかりだった。
「ファームの練習のノックもされるなど熱心で、度胸のあった監督さんでした」
その度胸に、すぐに驚かされることになる。熊本・藤崎台球場での巨人とのオープン戦で、先発起用されたのだ。
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それでも、高卒新人をいきなり九州のファンが注目する巨人戦にぶつけるあたり、度胸が据わっている監督としか言いようがない。
立ち上がりに無死満塁のピンチを迎え、マウンドに来た根本監督に「任せて下さい」と言い放つ強心臓で、張本勲と柳田真宏の強打者を連続三振に仕留めた。
しかし、山本功児に二塁打を許して降板。「今までほとんど打たれたことのないカーブでしたが、後で聞いたらローボールヒッターだったと。事前に知っていたら結果は違っていたかも知れません」と悔しがる。スポーツ紙の一面に《度胸は買えるぞ18歳》の見出しで取り上げてもらったのも懐かしい思い出だ。
当時のクラウンは大きな補強をせず、打者では土井正博や竹之内雅史、太田卓司、基満男、山村善則、伊原春樹らのほか、若菜嘉晴に真弓明信、立花義家ら若手が台頭したが、投手陣はエースの東尾修以外に主戦級は不在だった。
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「ドラフト指名直後は、江川さんと一緒に野球が出来ると喜んだのですが。一緒にプレーをしたかったですね。入団していたら、クラウン球団の歴史も変わっていたかも知れません」と良川さん。
江川さんとはその後、一度だけ対戦したことがある。西武に移った後、多摩川での巨人との練習試合で打席に立ち、直接対決。「追い込まれてカーブで投ゴロでした。投手相手に本気で投げてはくれなかったと思います」。
西武でも一軍機会はなく、1981年オフに自由契約となり、テストを受けて近鉄に移籍。中継ぎとして39試合に登板するも、1988年に現役引退。近鉄時代の1983年6月11日・阪急戦で2番手として3回を無失点に抑え、そこで挙げた1勝がプロ投手としての証しだ。
◆ 印象に残る選手は「ダルビッシュ有」
審判への道は1989年から。その後、プロ野球に長年携わることになったが、きっかけは西武時代の姉・美鈴さんの一言だった。
肩を壊して練習生になり、帰省した実家で愚痴ばかり言っていた時、「あんたは全部、人のせいやな」と諫められた。
「恥ずかしくなって、それからは一日一日、精一杯やろう」と心を入れ替えたところ、周囲からいろんなアドバイスをもらえるようになったという。
近鉄のテストでは、野口二郎さんら首脳陣に必死さが伝わり採用が決定。パシフィック・リーグの審判員に採用されたのも、真面目でコツコツやる選手という評価があったからのようだ。
審判では、元審判部長の村田康一さん、元審判指導員の久喜勲さんに影響を受けたという。近鉄OBでもあった村田さんには、一瞬で正確なジャッジをする重圧との向き合い方、久喜さんには優しく丁寧な指導を受け、「こんな人になって、将来は審判を指導したい」と思うきっかけとなった。
「球審は頭を絶対に動かすな」「塁審はボールから目を離すな」。塁審への指導は走者への目配りなど、今とは違うようだが、この2人は基礎を学んだ恩人だ。
年間で球審を務めるのは約20試合。「自己満足かもしれませんが、正確なジャッジが出来て両チームからも異議がなくゲームセットを迎えた時の達成感は、お金には代えられません」と審判のやりがいを語る。
審判としての出場試合数は「1519」。日本シリーズやオールスターゲーム、クライマックスシリーズも担当した。
印象に残る選手は、ダルビッシュ有。「球種が豊富で、すべてのボールにキレがありました。カウント2ボール・2ストライクになっても、ストライクゾーンで勝負が出来る投手でした」。
退場処分としたのは延べ7人で、2007年7月17日のロッテ−オリックス戦では一度に3人。3回表、清水直行投手の内角への直球にタフィー・ローズが激高。里崎智也捕手を殴って両軍選手による乱闘に発展。主審の良川さんはローズとオリックスのジョン・ディーバスコーチ、ロッテの高橋慶彦コーチの3人を退場させた。
「ストライクと言ってもいいくらいの内角球。ローズから『アブナイネ』と声を掛けられた里崎捕手が『そんなこと、ないでしょ』と軽く返したんですが、あれはローズの作戦だったと思います。違う試合でもローズが同じように捕手に声を掛け、次の外角球を痛打しているのを見ていましたから」
ローズは、策に取り合わなかった里崎捕手の態度が気に障ったようだ。
なお、この退場劇には後日談がある。当事者の一人、高橋さんが自身のYouTubeで「首を絞められ失神する寸前だったのに」と“異議”を唱えているのだ。
良川さんは「被害者だという不満があったのかもしれませんが、乱闘の当事者でしたから審判団で協議をして退場処分としました。お会いする機会があれば改めて説明したいですね」と語る。
◆ 気に掛ける「山��颯一郎」の活躍
昨年は、審判が注目されることも多かった。特に4月24日のオリックス−ロッテ戦（京セラドーム大阪）。カウント0ボール・2ストライクからの3球目をボールと判定され、不満げな態度を見せてマウンドを降り、本塁方向に歩み出したロッテ・佐々木朗希に対し、白井一行主審が歩み寄ろうとした際、選手を威嚇するようにも見えたことから大きな話題となった。
当日、記録員席の隣で上から試合を見ていた良川さんは「この判定までに、微妙なコースに佐々木君が不満げな表情をした場面が2度ありました。映像で確認したら判定通りボールで、打者にすれば『よく主審が見てくれた』と思う球でした。あの場面でマウンドを降りて来た佐々木君の行為を注意することに、全く問題はありません。白井主審は正しいジャッジをしていただけに、違うところに注目されたことは残念でした」と語る。
「国際的にも、日本の審判員の技術は高いと言われています。今はプロ野球経験者でなくても採用されていますので、興味を持ってほしいですね」と、次代を担う若者に呼び掛けた。
今後の目標は、野球の指導だ。勇退後、大阪市の中学校の外部指導者に登録した。
NPB時代のオフに、野球教室で子供たちを教えたことがある。その時に驚いたのが、指導者の𠮟責だった。
「始まる前に『絶対に怒らずに指導してくださいね』とお願いするのですが、エラーを叱る場面を何度も見てきました。プロでもエラーをするのに、小学生がエラーをするのは当たり前。野球人口が少なくなるだけに、野球が好きになるように教えたいですね」
OBとして気になるのは、オリックスの選手ら。特に選手時代の背番号「63」を付ける山��颯一郎には「頑張ってほしい」と、さらなる成長に期待を寄せる。
「山��君は判定に表情を変えずに淡々と投げますし、若月健矢選手の一塁ベースカバーはいつも全力で素晴らしい。駆け足で打席に入る紅林弘太郎選手の姿勢もいいですね。当たり前のプレーを続けて3連覇、2年連続日本一を果たしてほしいですね」
審判の「目」で、バファローズの飛躍を祈念していた。
取材・文＝北野正樹（きたの・まさき）
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このニュースに関するつぶやき
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良川昌美やっと辞めたか｡昌美ちゃんが指導員ってホンマ納得行かんかった｡せめて2000試合出場をノルマにしてくれ｡なんでコイツが指導員で柿木園さんはなれなかったのか？
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