「チームに馴染む時間がすごく大事」 オリックス・森友哉の決断とそれから

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2023年02月21日 06:52  ベースボールキング

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すっかりチームに溶け込み笑顔を見せる森友哉 [写真=北野正樹]
◆ 猛牛ストーリー【第62回:森友哉】

 2023年シーズンはリーグ3連覇、そして2年連続の日本一を目指すオリックス。今年も監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第62回は、西武からFAでオリックスに加入した森友哉捕手(27)です。3月開幕のWBCに挑む侍ジャパンの主力捕手候補でしたが、「新たなチャレンジをする年の2月・3月は自分にとって大事な時期」と日本代表入りを辞退。WBC組の強化合宿が行われている宮崎市内のキャンプで、ひたむきに汗を流しています。


◆ 熟慮の末に下した決断

 「チームに馴染む時間がすごく大事だと思いました。こっちで時間を使う方が、大事だなと」

 キャンプ2日目の2月2日。WBC辞退についての考えを聞くと、即座に答えが返って来た。

 ただし、「悩みました。結構……かなり悩みましたね」と続けたあたり、決断までには相当の時間を費やしたようだ。


 U-18から日本代表として戦い、日の丸を背負う重みは知り尽くしている。

 昨年11月26日の入団会見では、「代表としてプレーしたい気持ちはありますが、2月・3月は大事な時期。そこに行ってシーズンを100%で迎えられるのか、不安もあります。まずチームに溶け込み、開幕戦に向けて良い準備をすることだけを考えたい」と話しており、球団関係者も「WBC辞退は森選手の判断」と言うから、熟慮の末の決断だった。


◆ 「飛距離にはこだわっていない」

 輝かしい球歴だ。強豪・大阪桐蔭高では1年秋から正捕手を務め、1学年上の藤浪晋太郎(アスレチックス)とバッテリーを組み、甲子園で春夏連覇を達成。

 ドラフト1位入団の西武では、2019年に打率.329で捕手として史上4人目、パ・リーグでは野村克也氏以来となる54年ぶりの首位打者に輝き、23本塁打・105打点と勝負強い打撃で優勝に貢献した。


 170センチ・85キロ。全体練習では背番号「4」を探すのに苦労するほど。だが、打撃練習では一躍、目を引く。打球はセンター中心。低いライナー性の打球が外野の芝生で弾む。

 「飛距離にはこだわっていないですし、常にどのコースに来ても強く打ち返すということをやっています。センター中心に打ち返すこと、自分はそこが一番大事だと思っています」

 大阪桐蔭の後輩で「右の森友哉」と呼ばれていた池田陵真は「打球の質やバットの入り方を見ていたら、調子は良さそうだなと感じます。僭越なのですが、自分から見たら良い状態なんだな、と思います」と憧れの目でスイングを見る。


 フィニッシュで、振り抜いたバットから離れた左腕を天に突き上げるダイナミックなフルスイングが森の代名詞。しかし、基本はコンパクトだ。

 フルスイングをする軌道の中で、しっかりとボールをとらえる。その地味な確認作業を繰り返す。

 「日によって、良い時・悪い時がはっきりとしていますので、それをどこが(修正をする)ポイントなのか、探り探りやっています」

 プロ10年間の通算打率が.289を誇る巧打者でも日々状態が変わることに驚くと、「自分なんか、まだまだです」と真剣な表情で返って来た。


◆ 捕手としても高い評価

 打撃を作り上げるために大切にしていることは、「まず、強く振れること。それが大前提ですね」。

 キャンプ中盤の14日。全体練習後のメイン球場でロングティーに取り組んだ。「体を大きく使って、しっかりときれいなフォームで、きれいにバットを出すため」の作業だった。


 18日に行われた初めてのLIVE打撃(実戦形式の打撃練習)では、阿部翔太が投じた10球のうち、5球はバットを出さなかった。

 「打席の中で、しっかりとボール引き付けて見ていました。嫌な打者の印象ですね」と阿部。過去に対戦してきた近藤大亮も「スイングが速く、真っすぐに強いイメージ。僕も直球主体の投球なので、メチャクチャ嫌な打者でした」と声を揃える。

 また、近藤は「キャッチングがうまく、気持ち良く投げることが出来るんです」と捕手としての印象も語る。

 「お辞儀しそうなボールでも伸びているように捕球してくれるので、ピッチャーも気持ち良く自然と腕が振れるんです。良い意味で、“調子に乗せてくれるキャッチャー”です」と述べ、捕手としても高い評価を口にした。


 森も新天地の投手陣に関しては「若い選手がたくさんいるので、元気はつらつとやっている感じがありますね」と印象を語りつつ、「まず球を捕ってコミュニケーションを取ることが一番大事だと思っています。ものすごい球を投げる投手も多いですし、対戦していて打者として嫌だなと、改めて思いましたね」とコメント。

 新たなチームメイトとはキャンプ地でも食事をともにするなど、グラウンド内外で交流を深めており、すっかりチームには溶け込んでいる。


◆ 「誕生日だと聞いたので…」

 周囲も温かく見守っている。キャンプ5日目、2月5日のブルペン。宮城大弥のボールを受けた後、森が移動した。

 育成4年目で、大阪桐蔭出身の中田惟斗を受けていた中川拓真に声をかけて捕手交代。中田の投球練習が終了する直前で、5球ほどしか受けることはなかったが、「大阪桐蔭バッテリー」がいきなり実現した。


 森によると、中嶋聡監督が中田の球を受けてあげるように声を掛けたという。

 先輩・後輩の間柄を知っての指揮官のいきな計らい。実は、中田は中学時代も2017年に「たけしのスポーツ大将」で森と対戦したことがあり、同じ土俵で顔を合わせるのは6年ぶりのことだった。中嶋監督がそんな関係性まで知っていたとは思えないが、チームに早く溶け込ませてあげようという配慮だったのだろう。

 中田は「まさか受けていただけるとは思っていなかったので驚きました。公式戦ではもう対戦できないので、実戦形式の練習で打ち取りたいですね」。森も「(テレビ番組で)対戦したのは覚えています。早く支配下に上がってほしいですね」とエールを送った。


 「ありがとうございました。頑張って野球選手になります」

 球場内で森を取材中、道路を挟んで少年の大きな声が届いた。聞くと、森がバットをプレゼントしたことへのお礼だった。

 「誕生日だと聞いたので、バットをあげました」と野球少年のような笑顔で答えた森。「プロ1年目のような気持ち」で心機一転、新たな環境でさらに輝きを増すはずだ。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)

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