『疾風伝説 特攻の拓』所十三、いまだから話せる伝説的暴走族漫画の創作秘話

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2023年04月05日 07:21  リアルサウンド

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 1990年代の「週刊少年マガジン」。私は、熱烈な読者の一人だったが、当時は「週刊少年ジャンプ」「週刊少年サンデー」などあらゆる少年漫画雑誌に不良漫画や暴走族漫画が掲載されていたものだった。


 そして現在、暴走族漫画が再びブームになっている。90年代と比べると暴走族の数は激減、もはや昭和レトロとして扱われるようになっているにも関わらず、若い読者も多いと聞く。なぜ、暴走族漫画は世代を超えて人を引き付けるのだろうか。


 漫画家の所十三は、『疾風伝説 特攻の拓』から『ドルフィン』まで、数々の暴走族漫画の名作を世に送り出してきた。約38年に渡り、第一線で現在も作品を発表し続ける所に、暴走族漫画の今昔について話を聞いた。


暴走族漫画はファンタジーの世界だった!?

――1980〜90年代に暴走族漫画が人気を博した要因はどこにあると、お考えでしょうか。


所:『特攻の拓』を描いていた1990年代って、時代でいえば少年犯罪は減少傾向にあったし、暴走族もどんどん解散していった時期ですよね。だからこそ……だと私は思っています。暴走族の世界が身近なものじゃなくて、ある種のファンタジーとして楽しめるようになったからこそのブームだったんじゃないか? って。


――そうなんですか! 暴走族が社会現象になっていた影響で、漫画も売れていたんだと思っていました。


所:暴走族が流行っていたから暴走族漫画も売れたって話じゃないんですよ。ヤクザ映画とかも、警察の取り締まりが厳しくなって暴力団が市民生活から隔絶していったからこそ、義理と人情の任侠映画みたいなファンタジーが生まれたんだと思っています。


――任侠ものの漫画は令和の時代も健在ですし、人気作品も多いですね。


所:漫画はファンタジーとして楽しむものだと思っているので。最近はラブコメが主流だと聞いたとき、もしかして若い子にとって恋愛が現実的ではないファンタジーになりつつあるのか? なんて想像しちゃいました(笑)。


――『特攻の拓』の読者層は、実際の暴走族や不良ではなく、一般的な学生や子どもも多かったのでしょうか。


所:恐竜漫画を描いていたとき、真面目な学者先生やら研究者さんやら高学歴の皆さんにも『特攻の拓』が読まれていたことを知りました。暴走族とは無縁な読者がたくさんいたんだって。女の子からのファンレターもたくさんいただきましたし。もちろんヤンチャな子たちも愛読してくれていたと思いますが、それだけじゃブームにはならないんですよね。一巻あたり100万部売れるってことは、ファンタジーとして楽しんでくれた読者がたくさんいたってことだと思います。


――『東京卍リベンジャーズ』もファンタジーのような読まれ方をしているのかもしれませんね。


所:だと思いますよ。今は暴走族の数は90年代よりさらに減ってしまいました。だから、暴走族漫画を自分とはかけ離れた世界として、楽しめているのだと思います。


キャラ作りの参考にしていたのは、あの雑誌!

――『特攻の拓』は喧嘩のシーンなど、リアルな描写がたくさんあります。執筆にあたり、所先生は暴走族や不良に取材しているのでしょうか。


所:いえ。それはしていません。背景を描くために横浜の風景はいろいろ撮影しましたが……。あと、世田谷のバイク屋さんでバイクを撮らせて貰ったことはあります。旧車ブームが始まった頃で、一昔前の名車が店頭に並んでいたんで。FOUR(編集部注:1974年にホンダが発売した名車DREAM CB400FOUR)のおなかも見せてもらえたんですよね。


――それは羨ましい!! マー坊(鮎川真里)君の愛車ですね!


所:今じゃだいぶ高くなっちゃったけれど、当時は普通にきれいな中古車があったんですよ。


――個性的なキャラクターはどのようにデザインしたのですか?


所:それはね。実は「チャンプロード」(編集部注:笠倉出版社がかつて発行していた暴走族雑誌)に載っていた暴走族の写真を参考にしたんですよ。(一条)武丸くんも、原作の佐木飛朗斗さんが「チャンプロード」に載っていた子を指定してきて、リーゼントの髪型もその子の雰囲気をアレンジしながら描きました。(榊)龍也くんのモデルの子も、あんな感じの面長の顔立ちで、凄くカッコよかった記憶がありますね。「チャンプロード」を立ち上げたライターが、今『ドルフィン』で一緒に仕事をしている岩橋健一郎くんです。『特攻の拓』のキャラができたのは、当時の岩橋くんの仕事のおかげですよ(笑)。



――暴走族といえばカラフルで装飾的な単車のイメージがありますが、髪型やファッションも漫画並みにユニークだったんですね。


所:『特攻の拓』を描いていた頃は、ヤンチャな子たちの髪型も多彩になっていった時期なんですが、岩橋くんの現役時代(80年代)はチャラい髪型していると笑われたみたいですね。90年代の「チャンプロード」には長いさらさらヘアの子も載っていたし、来栖(奈緒巳)くんみたいな女の子っぽい感じの子もいたんですよ。あと、『特攻の拓』の場合、佐木さんが音楽に造詣が深かったので、ミュージシャンのイメージが投影されている部分もあると思います。天羽(時貞)くんのビジュアルなんか、まさにそうですよね。


名場面はいかにして生まれたのか!?

――『特攻の拓』といえば数々の名場面です。鰐淵春樹の「“事故”る奴は・・・・“不運”(ハードラック)と“踊”(ダンス)っちまったんだよ・・・・」、一条武丸の「“待”ってたぜェ!! この“瞬間”(とき)をよォ!!」は、漫画を読んだことがない人も知っています。


所:そのあたりは佐木さん一流の言語感覚ですね。特に鰐淵くんのシーンは、普通に車乗ってタバコふかしているだけですから。描いたときは、普通の1コマとして描いたと思いますよ。武丸くんがツルハシを持って単車に乗っているところは、構図を考えながら一生懸命に描いた記憶がありますけれどね。



――キャラごとの演出の仕方も多彩ですよね。


所:武丸くんは一枚絵で怖さを見せるタイプだけど、鰐淵くんは仕草とか動作でキャラを立たせるタイプ……って捉えていた私には、「ダンスっちまった」とか言葉にするイメージは無かったんですけど(笑)、……やっぱり普通に「おどっちまった」って言葉を選んじゃうかな? そこは佐木さんに敵わないところですね。


――所先生の漫画は迫力あるコマ使いや、キャラクターの表情の豊かさが魅力です。


所:いろいろと褒めていただくのですが、全然描いているときのことは覚えていないですね。自分じゃ、自分の絵の魅力ってわかんないものなんですよ。


――あと、「!!」「!?」なども『特攻の拓』ならではの独特な表現です。


所:「!?」は担当編集の縄谷くんの癖……マーキングみたいなもんですね(笑)。自分が担当する作品にはとにかく入れまくる。あんまり入れ過ぎるから、単行本化の時にコッソリ剥がしたこともあります(笑)。彼はもともと、「月刊少年マガジン」で四コマ漫画を描いていた作家でもあるので、下ネタやギャグシーンの演出も担当していました。


――所先生が、『特攻の拓』の中でも印象的なシーンを挙げるとすれば、どこですか。


所:増天寺LIVEは描いていて楽しかった記憶があります。ライブのラストで空に龍が現れるシーンでは、雲と稲妻を使って龍を表現させてくれ……って佐木さんに頼んだんですよね。最初にリクエストされたのは龍そのものの姿でしたが、鱗だけの絵を一コマ挟むことで我慢して貰いました(笑)。


大学の後輩が単車のエキスパート

――『特攻の拓』を描く上で大変だったことは何でしょうか。


所:単車の描写ですかね。佐木さんがこだわっていたし、これも「チャンプロード」の切り抜きとか資料をたくさん貸して貰いました。助かったのは、チーフアシスタントの伊藤功くんがバイク好きだったことですね。


――アシスタントに、単車のエキスパートがいらっしゃったですね!


所:私の作品の単車は、ほとんど彼が描いています。自身も長年カワサキの大型に乗っていたので指示もすぐ理解してくれるし。金属の重さや冷たさ熱さを感じさせるカッコいい単車が描けるんです。大学の漫研の後輩ですが、彼がいなかったら『特攻の拓』はなかったでしょうね。


――漫研の先輩と後輩の素晴らしい師弟愛です。


所:もちろん、『ドルフィン』の単車も彼に描いて貰っています。福島に住んでいるから、原稿を郵送して……。令和の時代に、未だデジタル化できてないウチの仕事場です(笑)。


――『ドルフィン』の暴走シーンに『特攻の拓』の面影が感じられるのは、そのためなんですね。さて、人気絶頂だった『特攻の拓』ですが、後半は駆け足で連載が終了しました。


所:終わった時は正直、これで読者に納得して貰えるんだろうか? って思いました。最終回も佐木さんの文章を自分なりに咀嚼して描いたつもりではありましたけど。「スピードの向こう側」とか、まだ描き切れてないと思っていたし。


――伏線が回収し切れていない部分がありますよね。


所:佐木さんは、後は漫画ではなく小説で書きたいって話でしたね。


奇跡の化学反応が歴史的名作を生んだ!

――『特攻の拓』は連載終了後も語り継がれる名作となっています。今年から復刻版の刊行も始まりますが、所先生はなぜこの作品がヒットしたと考えていますか。


所:『特攻の拓』は、原作の佐木さん、編集の縄谷くん、そして作画の私の化学反応ですよ。あと、伊藤功くんね。誰か1人が抜けても成立しなかったと思います。


――奇跡の出会いが名作を生んだと。


所:少なくとも私は人に恵まれたんだと思っています。今まで何のかんの、仕事が途切れることもなく40年近く漫画家やって来られたことも含めて、本当に運の良い人間だと思っていますね。恐竜漫画がキッカケでご縁が繋がったももクロさんの当時のマネージャーさんが、高校時代『特攻の拓』を読んでゼファーに乗ってた……なんて話を聞くと、本当にありがたいなぁって。


――僕は小学生の頃、『特攻の拓』を夢中になって読みました。所先生へのインタビューの前に改めて読み直しましたが、ファンタジーの世界だからなのか(笑)内容がまったく古びておらず、文句なしで面白い。少年漫画としての魅力も普遍的です。単行本が復刊されたら、新しい読者を獲得しそうですね。


所:今度、『東京卍リベンジャーズ』と『特攻の拓』がコラボするんですよ(編集部注:取材時点。2023年2月20日から1週間、両作品の広告が渋谷の町中に貼り出される「渋谷ジャック」が行われた)。『東京卍リベンジャーズ』が火付け役になって、特攻服ブームが海外でも起きていると聞いています。凄いですよね。『特攻の拓』は30年以上前の漫画ですが、単行本の復刊を機に手に取っていただけると嬉しいですね。


●単行本情報
『復刻版 疾風伝説 特攻の拓』
2023年2月より毎月2冊ずつ発売中! 全27巻刊行予定!
発行/講談社


コミックス27巻の続きを描いた
『小説 疾風伝説 特攻の拓』Version28〜32(完結) 発売中!
発行/講談社


このニュースに関するつぶやき

  • 佐木先生の原作もだが『特攻(ぶっこみ)の拓』があれ程大ヒットしたのは所先生の画力による所とずっと思ってる。所先生の絵って心の中にスーッと入ってくる不思議な魅力がある。
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