中学受験で第1志望に合格も、GW明けから「不登校」に――犯人探しに奔走した母の答え

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2023年05月13日 19:01  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 ゴールデンウィーク(GW)明けは、“不登校”が増える季節。進級・進学などによる新しい環境で、頑張りすぎて疲れ切ってしまうという子どもは少なくない。特に、中学受験を経験した子どもの環境は“劇変”するだけに、親は我が子の様子をより注意深く観察しておく必要がある。

 2年前のGW明けから娘が不登校に陥ったという百合子さん(仮名)は、遠くを見つめながら話し出した。

「美咲(仮名)が志望校に合格し、真新しい制服に袖を通して、一緒に校門をくぐった入学式は、もう遠い昔のことのようです……」

 美咲さんは中堅校と呼ばれているA学園の中学3年生。中1の頃から不登校気味といえる状態にある。

「我が家の中学受験は、決して親主導の受験ではなく、美咲が『やってみたい』と言い出したことでした。もちろん、『やるからには!』と私も3年間できる限りのことはしたつもりです。第1志望校のA学園に合格した時は本当にうれしかったですね。美咲と主人と手を取り合って『努力は裏切らない!』と喜び合ったんですが……」

 美咲さんに異変が起こったのは、入学直後のGW明けだった。

「朝、美咲をどんなに起こしても起きてこないんですよ。我が家からA学園まではバスと電車で1時間ほどかかるんですが、バスに乗り遅れると、私が駅まで送るはめになるので、今度は私が仕事に遅刻してしまう。もう、必死で起こしていましたね。どうにかこうにか着替えさせて、バスに乗せるんですが、途中で『気持ち悪くなった』とかで帰ってくることが増えていきました」

 そうこうしているうちに、美咲さんは朝が来るたびに腹痛を起こし、登校できるような状態ではなくなったそうだ。

「不思議なんですよね。制服を着ると、途端におなかが痛くなるみたいで。最初は『遅刻してもいいから、行きなさい!』と登校を強制していましたが、徐々に、『これはもう行けるような状態じゃないな』と、私のほうが次第に観念したような感じでしたね」

 もちろん百合子さんは担任の先生、学校カウンセラー、各科のドクターと、考えられるあらゆる専門家に頼ったそうだ。

「内科的には異常なしと言われ、学校からも特に対人関係で問題となるようなことはないと言われ……。メンタルクリニックのドクターからは『様子を見ましょう』とだけ。美咲に聞いても、本人にも理由がわからないみたいで、本当に途方に暮れました」

 このような場合、親は子どもの将来を案じ、どうにか「王道」と呼ばれるレールに戻そうと躍起になることが多い。百合子さんも最初はそうだったという。

「せっかく第1志望校のA学園に入れたんですよ。私だったら、勉強はともかく、青春を目一杯エンジョイするのになって、歯がゆい気持ちでした。正直、学費もバカにはなりませんし、『この子はどうして、不登校になってしまったんだろう』って、“犯人探し”ばかりをやっていましたね」

 筆者は、主に中高一貫校の親御さんから「子どもが親の思うように動いてくれない」という相談に多く接している。不登校もその一つだが、個人的にはこう思う。

「動けないのは、子ども自身が自分の人生について考えているモヤモヤした時期だから」

 「いじめ」はまた別問題として、本人にも理由がわからない場合は「自我を育む期間中」のように感じることが多い。

 中学受験は、たとえ子どもが「やりたい」と言い出しても、親が将来を見据えて敷いたレールに、我が子を乗せる行為。ハッキリいえば、そのことに子どもの意思は関係ない(もちろん、驚異的にIQが高く、自ら将来を見据えて難関私立を目指す子もいるので例外はある)。

 子どもは中学入学後、本格的な思春期に突入していくが、繊細な子ほど、一度立ち止まって、水面下で深く静かに、自分自身の道を模索しているように思うのだ。

 無論、親の焦りは相当だ。日本では新卒採用制度がいまだ根強く、それを逃すと、セカンドチャンスはほぼないに等しい。我が子に中学受験を体験させようとする親は、子どもの将来を案じている傾向があるだけに、その分“ドロップアウト”を過剰なまでに恐れるのだ。

 しかし、結論をいうのであれば、こういう時こそ「急がば回れ」が有効のような気がしてならない。本人も何を悩んでいるのかすらわからない、けれど体がその環境に拒否反応を起こす場合、解決には時間がかかり、しかも、その答えは子どもが自分自身で獲得するしかないからだ。

 百合子さんも、不登校の根源=犯人探しに奔走し、どうにかして登校させる方法を見つけ出すことに尽力していたが、途中で方針転換をしたという。

「りんこさんに相談して思い直したんです。本人にも学校に行けない理由がわからないのに、別の人間である私にわかるわけないよなって。だったら、本人が答えを見つけて、再び歩み出せるようになるまでは、何も言わず見守ろうと決意しました」

 以降、百合子さん夫婦は何事もないかのように、ごく普通に仕事に行き、3人で食卓を囲み、夜は決まった時間に寝るというルーティンを続けた。その間、ほとんど教室には入れなかったという美咲さんだが、今年に入ってうれしい変化があったという。

「美咲が『留学してみたい』と言い出したんです。ここ最近は、午後から体調が良くなることもあって、教室には入れないものの、ネイティブの先生がいる部屋へは不思議と入ることができるようになっていました。そこに通学しているような感じだったんですが、ネイティブの先生から、『留学試験を受けてみたら』と言われたそうなんです。それで、美咲も『留学を目指したい』とやる気を見せるようになり、本当にうれしく思っています。中学に入って、初めて自分から『こうしたい』と言ってくれたので」

 私立中高一貫校のメリットの一つに、たいていの学校で海外の学校への扉が開いている点が挙げられる。長期だけではなく、1学期間のターム留学制度が整っている学校も多い。A学園も国際教育に熱心な学校なので、美咲さんの決断を応援し、「試験をクリアできるように」と全力でサポートしてくれている最中だそうだ。

「りんこさんは、『犯人探しには意味がない』と言ってくれましたが、私は大いに反省しました。美咲に『自分で受験するって言ったんじゃない!』と言いながら、実は、私が無自覚に自分の希望を押しつけすぎたのかなって……。美咲にとって“親のための受験”になってしまい、第1志望の合格後に燃え尽きたのかもしれません。この留学試験に受かるのかはわかりませんし、受かっても、本当にうまくいくかはわかりません。でも親としては、見守るだけだと腹をくくっています」

 美咲さんは、今現在、9月から始まるターム留学を目指して人が変わったように勉強しているとのことだ。

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