国内Webtoonでヒット作が少ない理由 中国と韓国が指摘する日本の“弱点”

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2023年05月20日 14:00  KAI-YOU.net

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国内Webtoonでヒット作が少ない理由 中国と韓国が指摘する日本の“弱点”
2022年10月21日から23日にかけて豊島区で開催された、漫画・アニメ業界のカンファレンス「IMART2022」(「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima」)。

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セッションには、アニメや漫画の制作や流通を担う企業の代表らが登壇。紙媒体から電子媒体への移行や新たなプラットフォームの登場など、変化する業界についての知見を交換した。

アニメ『チェンソーマン』で注目されたスタジオ・MAPPAの担当者による講演や、韓国発の漫画文化・Webtoonを制作するスタジオの代表たちによる、日本の業界が抱える問題点についてのセッションなど、様々な講演が行われた。




本稿では、日中韓それぞれの国のWebtoon市場や流通について、各国の有識者が意見を交わしたセッション「Webtoon販売セッション: 海外との比較から考える日本市場の課題とこれから」をレポート。

韓国の漫画文化に関する深い知識を持ち、翻訳者・ライターとしても活動する宣政佑さん、株式会社ビリビリの新規事業室責任者・金春成さん、KADOKAWAのタテスクコミック部部長兼ブックウォーカー執行役員の寺谷圭生さんが登壇。

Web文化や出版・漫画産業などについて広い知見を持つライター・飯田一史さんが聞き手役をつとめている。

企画と販売力の弱さ、日本のWebtoonが抱える課題





セッションが始まると飯田一史さんはまず、「日本のWebtoonは、中国、韓国の作品やWebtoon以外の日本漫画(※)と比べて、広い意味での『販売力』が弱い」と投げかけた。

※本稿では、Webtoonではない、雑誌等に連載されコミックスとして出版される横開きの日本の漫画を便宜上「日本漫画」として記述する。

世界では、Web小説などメディアミックスの起点となる原作を巡るIPの争奪戦が起きている。Web小説プラットフォーム上での競争に勝った作品がマンガ化/Webtoon化されるか、あるいはNAVERの「挑戦漫画」のようなWebtoonの自由投稿プラットフォームで人気になった作品が勝ち上がって公式連載になる。

そのため、売れる見込みのある企画をそもそも厳選した上で、予算をかけて公式連載に進んでいる。日本漫画の場合も、正式な連載の前には、読み切りといった形でテストを行い、企画段階でふるいにかける仕組みが存在している。

しかし、日本のWebtoonにおいては事情が異なり、現状(※)では、プラットフォームに参加しているスタジオが自ら原作から制作したオリジナル作品がそのまま市場に流通していることが多い。企画のスクリーニングが不十分な状態で作品を世に放つのであれば、なおさら売るための販売力が必要になる。そのため、このセッションで「販売」をテーマとしていると飯田一史さんは説明した。

※本稿で「現状」「今」と言った場合、すべてIMARTで本イベントが開催された2022年時点を指す。その後、状況が変わっている点もあることは留意されたい。

今の日本のWebtoonには、有効なプロモーション手段としては、プラットフォーム側が打っている広告くらいしか存在していない。

もし、あるWebtoon作品が連載開始時に広告に採用されたとして、それでランキングに入ればある程度売れ続けることができるが、広告を打ってもらえる対象にならなければ、あるいは打ったとしても読者に刺さらなければ、それ以上は露出の機会が限られており、苦戦を強いられることが少なくない。

日本漫画であれば書店や街頭広告、TikTokといったSNSでのプロモーションやアニメ・グッズ化などのIP展開によって新たな顧客へリーチできるが、日本Webtoonは映像化をはじめとする二次展開はまだまだこれからという段階。アワードや影響力のあるメディアも少なく、ユーザーからのリアクションもアプリ内のコメント欄程度しかなく、話題づくりという面でも課題が多い。

作家がインフルエンサーに 本場韓国のWebtoonシーン



日本の市場が持つ課題点を整理した上で、飯田一史さんは、韓国Webtoonでは『外見至上主義』『喧嘩独学』のパク・テジュンさんや『女神降臨』のヤ・オンイさんのように、作者がインフルエンサーとして有名になり、テレビなどへも出演していることを紹介。

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他に「韓国では作品の認知度を上げるために行われていることや仕組みはありますか?」と問いかけたところ、宣政佑さんは「韓国でも街頭広告や作家によるSNSでの拡散など、取られている手法自体に大きな差はないです」「アワードよりも、ドラマをはじめとするメディア化の方が効果が高いですね」とコメント。

間違いなく今の作家の方がSNSの使い方は上手いが、日本でも漫画家がテレビに出ることがあるように、韓国でも紙の漫画が主流だった時代から漫画家がテレビやCMに出演することはあって、元からそういったメディア露出は行われていたと語った。

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宣政佑さんは、Webtoonに関する日韓の環境の違いとして、韓国のNAVERではチャレンジ(挑戦漫画)という形式で作品を投稿でき、Daum(現在のKAKAO)でも投稿作品に対して編集が付く体制を取っており、自由に作品を投稿できる環境が整っていることを挙げた。

KAKAOは元々大手Web小説サイト「KakaoPage」を運営していたため、現在多くのヒットを生み出しているWeb小説の人気作をWebtoon化するという手法にいち早く着手したことも補足している。

飯田さんもこれに同意し、日本のLINEマンガでも「LINEマンガインディーズ」という仕組みはあるものの、Naver WebtoonのアプリではLINEマンガと違って自由投稿の「挑戦漫画」(インディーズ作品)への導線が画面の中心にあり、切り替えも容易にできる点に触れ「(日本でも)本当に(作家・作品を)育てたいなら、もっと目立つところに自由投稿作品や新人の新連載をおいてほしい」と問題意識を指摘した。





「誰もが何らかの形で表現者になれる」のがWebtoon



飯田さんは続けて、シェア機能についても、韓国のサービスではコマを切り抜いてコメント欄やSNSでシェアでき、シェアされた側はすぐに当該話数をWebブラウザを通じて読めるようになっているのに対し、日本のアプリでは特定の話をシェアしようとしても、作品全体の紹介ページに飛ばされる仕様になっており、ユーザーが盛り上がりをつくれるようになっていないと指摘。

この違いについて宣政佑さんは、Webtoonという文化はインターネットのカルチャーであり、その文化が生まれた韓国では根底にインターネットの持つ「誰もが何らかの形で表現者になれる」という思想が活かされており、実際に黎明期からコメント欄などが整備されていたのだと説明した。

実はこのコメント欄の整備は、Webtoonの収益モデルにも起因していた。

今では有料モデルが中心となっているが、Webtoonは文化黎明期の頃には無料公開というスタイルが多かった。マネタイズはPVに応じた広告収益に依存していたため、ユーザーが自分のコメントへの反応を見るためにページへ再訪することを期待して、コメント欄が整備されていたという経緯もイベント内では補足された。

なお、現在でもファンコミュニティは活発で、作品のコメント欄が一番熱量が高まりやすい場になっている。また、「NAVER Webtoon」では作品ページから作者のブログに飛べるようになっているため、作者がコメント欄の質問にブログで回答するエントリーを投稿することもあるという。

韓国Webtoonのファンダムは、作家の味方をするだけではなく、批判すべきことがあれば批判するコミュニティにもなっている。

宣政佑さんは「日本では縦スクロールという点に注目が集まっていますが、それはWebtoonヒットの直接的な理由ではないんです」と強調。SNSのプロモーションなどももちろん重要ではあるが、それは他のクリエイターでも再現できる手法であり、国や作家固有のものではない。

Webtoonが世界的に広まってきていることで、国や地域ごとにどういったアウトプットをすべきなのか、作品の内容をより注視すべきだと語った。

宣政佑さんは最近、元は紙の作品を扱う会社だったがWebtoonのプラットフォームを立ち上げたフランスの出版社と会ったそう。最近では横読みの漫画でも、紙の出版を経ずに電子でリリースされるケースが世界的に増えており、今後よりデジタル化は進んでいくだろうとの見解を示した。

韓国でWebtoonが生まれてきた経緯



宣政佑さんは、韓国でWebtoonという文化が発展してきた歴史についても言及。

韓国のWebtoonは最初、1990年代からインターネットで漫画やイラストを載せる個人のホームページから始まり、2000年代に入りその中で話題になる作品が出て、それらが「書籍化」されることによってヒットに繋がるケースができた。

その後、Yahoo! KoreaやDaumなど大手のいわゆる「ポータルサイト」がWebtoonサービスを始めたことが、連載媒体や商業メディアとしてのWebtoonの流れに繋がる。

その中でも2003年、ニュースページを再編しWebtoonサービスを始めたDaumに連載されたカン・プルさんの『純情物語』は、「商業連載でのWebtoonの初期ヒット作」として大きく注目を受けた。



その後、カン・ドハさんの『偉大なるキャッツビー』やカン・プルさんの『タイミング』といった作品が発表されていくにつれて、徐々にコマ数が増えていき、縦スクロールという特色が誕生したのだという。

現在のように個人ではなくスタジオ制作というスタイルが定着してきたことによって、さらにその傾向は強化されているという。

また、Webtoonは物語やテーマの重厚さよりもエンタメ性を重視しているとする見方も強いが、黎明期の2006年に『26年』という実在の大統領を扱った作品も書かれていることに言及。「Webtoonにおいても政治などに切り込む作風が可能だということが証明されています」と力強く主張した。

初期には実際の就活体験をもとにした『トンカツ就活』のようなエッセイマンガや、白黒作品、文字の多い作品なども生まれてきた。

2010年代に入り、プラットフォームが徐々にWebよりもアプリの方をメインとして捉えるようになった。他方で、Web小説からの影響などを受け、韓国のWeb小説では前から人気のあったファンタジージャンルがWebtoonでも増えた。

特にWeb小説を原作にしたWebtoonの増加で、Web小説では過去からの定番ジャンルだった「回帰モノ、憑依モノ、転生モノ」が、最初はファンタジー系で、後になると現代背景や歴史モノのWebtoonにおいても大きく流行り、アプリ時代のWebtoonを表す代表的なサブジャンルとなった。

また一方では、アプリのテクノロジーも様々な方向に進行した。例えばKAKAOは2021年、KAKAO Webtoonアプリにおいて作品の表紙を動画形式で動くようにするアップデートをして話題になった。

KAKAO Webtoonアプリのこの表紙の形は、中国でKAKAOとTencentがつくった合弁会社がロンチングした「PODO漫画」アプリなど、海外向けのKAKAO Webtoonアプリでも共通の特徴になっている。

昨日くらいに中国で新しくアップされたAPP、PODO漫画。韓国との合作app。すごい、ゲームのキャラクター選択画面みたいに、漫画のキャラが動く、動画が流れる。なるほど、最近、中国の漫画appに動画入ってきているのは、この流れなのか、そしてこれが中国、韓国が考える今の「縦スクの表紙」なんだな。 pic.twitter.com/Kp2Q8iZFE1

— 浅野龍哉@電子書籍『faceless ダークヒーロー編』上・中・下、発売中! (@Moyashi_Koubou) September 27, 2021




BiliBili担当者が語る中国のWebtoonシーン



続いて金春成さんは、自身が携わる「BILIBILI COMICS」を中心に、中国のシーンについて語った。

まずは、「BILIBILI COMICS」が2018年にスタートし、各話約7円で提供しており、IP制限やサイマル配信にも対応しているサービスであることを紹介。



中国では、デジタルコンテンツの利用者は年々増加しているものの、デジタルコミック市場はそれほど大きくなく、「中国の漫画の市場規模は日本の10分の1程度」だとコメントした。

プラットフォームとしては「快看漫画(Kuaikan Comic)」「哔哩哔哩漫画(bilibili comics)」「腾讯動漫(we comics)」が主流であり、「快看」は縦スクロールのフルカラー、bilibiliは縦スクロールや日本のモノクロ漫画、Tencentは中国の国産漫画に注力しているという各社の特色があるという。



中国では、国土が広く作家と読者が直接交流するのが難しいため、オンラインプロモーションが強いそうで、オフラインでイベントを行う際はサイン会などを中心に行っているのだと、中国ならではの事情を説明した。

金春成さんは、中国の市場は今後成長していく見込みがあり、マーケットはあると説明。ただし、市場規模がまだ未熟なため売り上げの見込みを立てづらく、話題づくりなどの明確な目標を持つことが重要だと語った。

また、海賊版も多いため、日本での販売と同タイミングで中国でもサイマル配信は行った方がいいこと、前職では日本のコンテンツのライセンス取次を行っていた経験から、日本の作品は許諾をとりつけるのが難しいため、国外展開に際して一定の自由度を与えた方が柔軟な対応ができるだろうとの見解を示した。

アプリの中にSNSや動画機能が内蔵、ファンの熱量が離脱しない仕組み



トークセッションの序盤で飯田さんが言及した、日本の作品のSNSでのシェアの難しさも根底に同じ問題があると金春成さんは指摘。

「これからWebtoonをつくるクリエイターさんが、自分のSNSアカウント上でも作品を公開・シェアしていいという許可を出していくことで変わっていくと思います」との展望を語った。

飯田さんは、「快看漫画」を例に、中国のWeb漫画においては「サービスの中にファンアートやコスプレを投稿できるSNS機能があり、ファンの力が強いように感じています」とコメント。



さらに、ユーザーが直接作家を支援でき、また、作品間の月次ランキングを左右する「月票(※)」を使っての投票機能や、作品ごとに支援者側のランキングまで存在しており、支援(課金)額がもっとも多い、いわゆるTO(トップオタ)が一目瞭然であることに触れ、作家と読者のコミュニケーションが活発なのはもちろん、それが数字として可視化されており、ファン同士も競うようになっている点がユニークだと述べた。

※:月票は、中国語で定期券などを指す単語

金春成さんは、上記のような支援機能はTencent(テンセント)が発祥のものだと説明。もともと「腾讯网(QQ.com)」のようなポータルサイトを運営しているTencentのサービスにはユーザーとのコミュニケーション機能が充実しており、そこから発展する形で支援機能が誕生・普及していったのではないかと、同じ業界に身を置く立場としての見解を語った。

投げ銭機能は、投げた金額でユーザーがランキング表示されるため、「この作品への愛は誰にも負けない」というユーザー心理を刺激。印税として作家にも還元されており、プラットフォームはその支援の熱量なども、メディアミックスなどの展開を行う上での判断基準にしているという。

「月票」のような機能は、「BILIBILI COMICS」にも投げ銭機能として存在しており、「作品にもよりますが、投げ銭される金額は作品を読むための課金額と変わらないほどで、アニメ化などの話題があれば、通常課金を上回ることもあるんです」と、ファンコミュニティの活性化がもたらす効果を示した。

KADOKAWAの「持続可能な市場づくり」を目指したWebtoonへの取り組み



続いて、KADOKAWA出版事業グループタテスクコミック部の部長をつとめる寺谷圭生さんが、自身の立場から見たWebtoonの販売を解説。

寺谷さんは、現在タイやベトナム、インドネシアのような成長性の高い市場において、各出版社が共同でイベント「マンガフェスティバル」を開催するなど、国際的に日本の漫画をアピールしているという状況を説明。

タイではWebtoon販売を試験的に行っており、市場を拡大すべく動いているという。



飯田さんは、Tencentがタイの大手電子書籍サービス「Ookbee」と提携したり、タイのポータルサイト「Sanook.com」を買収するなど市場を開拓していることに言及。

「Sanook.com」ではすでにトップページからTencentの漫画サービスである「WeComics」にリンクが張られているという状況を引き合いにだし「NAVERは日本で言えばYahoo!JAPANのような存在で、そこでWebtoonが読めることが重要。日本ももっとトラフィックのある場所にWebtoonを流して、気軽に目につくようにできればいい。日本のWebtoonはアプリ内に閲覧機能が閉じていて、WebtoonなのにそもそもオープンなWebでは読めない」と改善点を提示した。



KADOKAWAのWebtoonへの取り組みについて、寺谷さんは「既存作品のカラー・縦スクロール化」「新規オリジナル作品の制作」「新人賞の開催(新人作家の発掘)」「自社プラットフォーム(Boolwalker)の強化」「組織体制の整備」「国内・海外のスタジオとの関係構築」という6つの取り組みを行ってきたと説明。

現在の作品掲載数は98作品となっており、当初の目標だった作品のリリース・人員の安定化を行うことができたとしている。一方で、これまでKADOKAWAが行ってきた漫画制作とWebtoonではやはり勝手が違うそうで、演出などへの試行錯誤を行い続けているという。

実際に販売を行ってみて単行本形式の漫画を読む層と、基本的に1話単位で購入され、待てば無料というビジネスモデルをストア側が持つWebtoonでは購買層にも差があることが実感できたそうで「持続可能な市場づくり」を目指していくとしている。

飯田さんは、Webtoonは世界ではNAVERにしろTencentにしろ、原作開発・発掘の場としてのWeb小説プラットフォーム運営、デジタルコミック事業、さらに小説やコミックを映像化してOTTで配信し、ゲーム化し、さらにはポータルサイトなどで情報発信するメディア事業までのすべてを一企業がグループ会社を連動させて一気通貫で手がけており、日本で同様のことを一社で行えるのはKADOKAWAくらいではないかと主張。

KADOKAWAならばたとえば「次に来るマンガ大賞」のWebtoon部門を立ち上げるなど、既存のリソースを活かしたチャネルと絡めることで、よりWebtoonを浸透させうる力を持っているのではないかと述べた。



漫画自体が動く時代に、中国で広がる新たな動き



トピックスは、各社が近年進めている新たな試みに移る。

「bilibili Comics」では、アニメまではいかないものの動きが付いた漫画をリリースしているという。この「動く漫画」は、中国では各プラットフォームが取り組んでいる新しい流れになっており、アニメ化ほどではないものの、原作の販促として一定の効果が出ている。

金春成さん曰く、こういった形式の対象は現時点では中国のコンテンツが主軸であり、韓国の作品からも許諾が取れてきているものの日本からはまだ許諾が取れていないという。

金春成さんは、繰り返しになることを前置きしたうえで、「日本の作品がより柔軟に作品のプロモーション利用などに対して許諾が取れるようになること」の重要さを強調した。

寺谷さんもこれに同調。許諾の努力は必要だとしたうえで、KADOKAWAとしても、Webtoonのプロモーションにおいてショート動画や動きのあるバナー広告が大きな効果を持っていることを体感しているとの見解を示した。

Webtoonが持つ販売方法の特色について、宣政佑さんは「韓国では、先ほども言った通り地下鉄やバスへのWebtoonの広告の掲出が増えています」と切り出す。

ただ、この増えている広告を出しているのはプラットフォームであることが多いという。日本で漫画の広告を出すのは出版社であり、書店ではない。だが韓国Webtoonの場合は制作会社ではなくプラットフォームの方が広告を出すケースが多いという違いがある。

これはプラットフォームの方がそれだけ力があるという意味でもあるが、また韓国ではプラットフォームが多くのWebtoonの制作会社に投資しているというのも理由だ。つまり投資した子会社の作品を、プラットフォームがバスや地下鉄の広告に掲出するという構造である。

日本Webtoon市場の最大の課題「投資金額の桁が違う」



飯田さんは、韓国や中国と日本のWebtoonの市場の差について「身も蓋もない話をすれば、投資している桁が違う」とする。

NAVERは2021年に北米最大のWeb小説プラットフォーム「Wattpad」を約615億円で買収し、韓国のTop3に入るWeb小説サイト「Munpia」も400億円で買収しており、年間で数百〜数千億円もの金額感で各社が投資を行っている。




一方、日本の企業がWebtoon事業を始める際に投資額として対外的に発表しているのは、多くて数十億円程度というのが現状だ。

海外でこのような多額の投資が行われているのは、Webtoon自体はもちろん、その上流にある、原作となるWeb小説、そして下流にある映像化双方に投資が行われているからだ。

飯田さんは、「日本はまだ企画が弱く売り方を工夫しないといけない中で、まともに海外と勝負しようと思ったら、投資の額を増やさなければいけない。それが難しいのであれば、別のポジションを探らないといけない」と危機感を見せた。

飯田さんは続けて、注目すべき近年の流れとしてそれまで中国では「起点中文網」を筆頭に、毎話の従量課金(有料)モデルが主流だったWeb小説が、Bytedanceが運営する「番茄小説(Tomato Novel)」を筆頭とする基本無料のサービスにすっかりユーザー数では抜かれてしまったことを挙げた。

この流れは「メディア展開がされる前提であれば、最初に無料で読ませて人気を取ってしまうことで、あとからいくらでも稼げる」という発想なのではないかと推測している。

「Tomato Novel」は月間アクティブユーザーが9000万人というデータもあり、「数年間無料で読ませても耐えることができる資本力がないとできないこと」としつつも、無料から有料という流れの先にもう一度コンテンツが無料化しているという流れは注目すべきだとし、「日本のWebtoonも読まれないことが課題なのであれば、無料で読ませることでまずは読者を獲得し、作品を大きくするのも選択肢の1つ。そもそも韓国のWebtoonも2014年にレジンコミックスが有料化モデルを成功させる前はそれが基本だった」だと提示した。

世界の動きに目を向けることが、国内の市場をとらえるヒントになる



最後に、話題は北米に。金春成さんは、北米では韓国系のWebtoonが人気だと発言。NAVERが買収した大手Webtoonサイト「Tapas」が好調であり、以前北米の配信を担当していた金春成さんとしても「KakaoとNAVERの勢いには勝てない」とコメントした。

寺谷さんは、KADOKAWAとしても代表の夏野剛さんが積極的に海外展開を進めていると説明。これまでの慣習では、ライツアウトした海外の出版社が翻訳を行うことが多かったが、現在は社内で翻訳まで行う体制が整っており、北米市場への進出も予定されているという。

宣政佑さんは、「韓国のプラットフォームは自分たちで作品を翻訳し海外に売りに行くことが多い。また、海外のプラットフォームを積極的に買収したり投資する。韓国のプラットフォームはそれだけIT企業的な、もしくはベンチャーキャピタル的な動き方をしている」と説明。

というのも韓国のWebtoonプラットフォーム企業はそのほとんどがIT企業的に起業していて、「コンテンツ企業として始まったところは少ない」と指摘した。

最後に、宣政佑さんは日本のクリエイターたちに「日本は漫画やアニメに関して、すでに強固な構造を持っています。そこから抜け出すことだけが正しいわけではないと思いますが、各出版社が新たなアプローチを試みることで、作家側にも選択肢が生まれると思います」とコメントしている。

金さんは、「日本ではオリジナル作品の制作が多いと思いますが、実際にアメリカのWeb小説が中国や韓国でWebtoon化されてヒットしている例もあるので、原作となるコンテンツを選ぶことも必要」「僕自身、単独では難しいと思うので、韓国や中国と共に開発を行っていく必要があると思います」と現状を分析。

「まだまだ市場が成長期なので、目先の利益よりも、話題などをしっかりとつくっていくことで、海外展開が有利になる可能性も大きい」「そのためにもヒット作が生まれてほしいですね」と今後の展望を述べた。

寺谷さんは「日本には強みがある一方、中国や韓国に学ばなければならないことも多い。何が必要なのかを1つ1つ試していくフェーズだと思っています」と語った。

飯田さんは「宣政佑さんが縦スクロールについて言っていたように、今日本のWebtoon業界で当たり前だと思われていることは、歴史を遡ってみると偶然の産物だったりするし、韓国、中国、タイ、フランス、北米、マレーシア等々すべての国でデジタルコミック市場は一様ではなく、行われている施策も少しずつ違います。縦軸(歴史)、横軸(世界)を眺めていくことは日本の今後に対して大きなヒントになると思うので、このセッションを見たみなさんも(過去や各国の動きに)目を向けて考えていただければと思います」とセッションを締めくくった。





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  • へいへい、なに言ってるんだい『SPY×FAMILY』も『地獄楽』もWeb発だぜ。
    • イイネ!1
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