初の電気自動車「スペクター」登場でロールス・ロイスの何が変わる?

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2023年07月12日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
ロールス・ロイスがブランド初の電気自動車(バッテリーEV=BEV)「スペクター」を日本で初めて公開した。極上フィールのV型12気筒エンジンによるスーパーラグジュアリーな「マジック・カーペット・ライド」を実現し続けてきた同ブランドだが、クルマがBEVになると既存のエンジン車とは何が変わり、何が変わらないのか。発表会で聞いた話を元に考察してみた。


○EVであることは2番目の特徴



東京五輪の舞台となった国立競技場内の施設で行われた発表会に登壇したロールス・ロイス・モーター・カーズ アジア太平洋リージョナルディレクターのアイリーン・ニッケイン氏によると、スペクターの特徴は「第1にロールス・ロイスであること、第2にEVであること」だという。つまり、第1は変わらない点、第2はこれまでと違う点があるということだろう。


変わらない点については、今から123年前の1900年にロールス・ロイスの共同創業者であるチャールズ・ロイスが“予言”した「電気自動車は完璧なほど静かでクリーンで、ニオイも振動もありません。充電ステーションが整備されれば、非常に便利な乗り物になるでしょう」という言葉から想像できる。つまり、この予言をついに実現したのが、「ウルトララグジュアリー・エレクトリック・スーパークーペ」と銘打って登場したスペクターであるわけだ。これまでのエンジン車は「ウルトララグジュアリー」を実現するための手段であったわけで、BEV化しても目的は変わらないのだ。



ちなみにスペクターはボディサイズが全長5,475mm、全幅2,144mm、全高1,573mm、ホイールベースが3,210mm、車重が2,890kgという壮大でエレガントな2ドアクーペだ。強力な6.6リッターV12ツインターボを搭載する2ドアクーペ「レイス」の後継といったような立ち位置で、長さや幅、ホイールベースなど各項目で少しずつ大きくなってはいるが、流麗なファストバックスタイルや「コーチ(馬車)ドア」と呼ばれる前開き後ろヒンジの長い2ドアというルックスには共通点がある。さらに、紫のスモークに包まれて登場するという発表会のスタイルもレイスの時(2013年)とよく似た雰囲気だった。


上質なインテリアもことさらEVであることを強調しておらず、ヴィンテージでアールデコ調のマニュアルスイッチやダイアルが手の届きやすい位置に配置されている。合計で1万個を超える光源を取り付けて夜空のような雰囲気を醸し出す幻想的な室内の演出も変わっていない。ドアを開ければすぐに取り出せる傘をフェンダー内に収納(おそらく乾燥機能付き)しているのもお馴染みの設え。内外装ともに、誰が見てもすぐにロールス・ロイスであるとわかるスタイルを採用している。

○変わったところは?



変わった点といえば、ロールス・ロイスらしいフロントデザインがEV化によって少し姿を変えている。特徴的なステンレス製の「パンテオングリル」は史上最も横幅の広いものとなり、断面が滑らかで、ボディと段差がないよう注意深く取り付けられている。前面空気抵抗を減少させるために830時間ものデザインモデリングと風洞実験を行ったとされていて、その数値は同社で最も低いCd値0.25を達成。ボンネット先端の彫像「スピリット・オブ・エクスタシー」についても空力を考慮してあるそうで、今までより少し前のめりな形状になっている。


FRモデルばかりだったロールス・ロイスにあって(SUVの「カリナン」は別として)、スペクターは前後に搭載した2モーターによって全輪を駆動する4WDシステムを新たに採用している。動力性能はシステム合計で最高出力585PS、最大トルク900Nm。最高速度の250km/hはレイスと変わらないものの、0-100km/h加速は4.5秒で0.1秒上回っている。700kgという重いバッテリーを搭載したことで全体の車重が530kgも重くなったにも関わらず、レイスを加速で上回っているのはさすがのEVパワーといったところだ。



航続距離はWLTPモードで530km。もちろん、走れる距離ではガソリンモデルに敵わない。フル加速時にはV12エンジンの咆哮(筆者の数少ないロールス・ロイス試乗経験からいえば、咆哮というほど激しいものではないのだが)がなくなった代わりに、スペクターは完全停止まで行えるワンペダル走行を実現している。



プロダクト・スペシャリスト・エレクトリフィケーション・ストラテジーのフレッド・ウィットウェル氏によると、「既存のV12モデルの特徴は、静かさと瞬間的なトルクが出るところでした。それを電気モーターなら完全に実現できるし、またガソリンスタンドにわざわざ行かなくてもご家庭でチャージするだけでクルマをお使いいただけるというメリットを提供できると思います」とのこと。ビスポークによって4.4万通り以上の組み合わせができる点はこれまでと変わらないが、スペクターには新たに「モルガナイト」と呼ぶピンク色が加わったそうだ。


ロールス・ロイスのピンクといえば、伝説のTV番組『サンダーバード』に登場したレディ・ペネロープが乗るあのクルマ(運転手は執事のパーカーだった)を思い出したのだが、フレッドさんは「いやいや、あのピンクではなく、もう少し濃いダークロゼのようなカラーです」と笑いながら答えてくれた。



スペクターの価格はカリナンとファントムの中間となる4,800万円。デリバリーは2023年冬からだという。



原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)

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