福島復興の最終課題、「除去土壌のこれから」を考える-2045年までの県外最終処分を果たすには?

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2023年08月22日 16:21  マイナビニュース

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福島第一原子力発電所の事故から12年。除染に伴い発生した除去土壌等は、原発に隣接する中間貯蔵施設に一時保管されている。政府は、中間貯蔵開始から30年後の2045年3月までに、除去土壌等を福島県外で最終処分することを約束しているが、具体的な解決の道筋は立っていない。

県外最終処分の認知度は、福島県外で2割、福島県内でも5割にとどまっていて、多くの人がこの問題について知らないのが現状だ。こうした状況を踏まえ、環境省は8月19日に東京・品川で第9回「『福島、その先の環境へ。』対話フォーラム」を開催。「除去土壌のこれから」を国民全体で考えるにはどうするべきか、さまざまな立場から意見が交わされた。

○福島復興の最終課題、除去土壌の最終処分

「『福島、その先の環境へ。』対話フォーラム」は、除去土壌等の福島県外最終処分に向けて、理解や関心を広げる場として全国各地で開催されてきた。第9回となる今回は、西村明宏環境大臣やフリーアナウンサーの政井マヤ氏や中野美奈子ら10名の登壇者が、一般参加者からの意見や疑問に対するフィードバックを交えつつ、意見交換を行った。

福島第一原発の事故により、事故発生直後から福島県12市町村の住民が避難を余儀なくされた。現在、除染作業によって生じた除去土壌等は、原発に隣接する大熊町・双葉町に設置された中間貯蔵施設で一時保管されている。

帰宅困難区域を除く地域で発生した除去土壌等は東京ドーム11杯分にのぼる見込みで、中間貯蔵施設は渋谷区や港区に匹敵するほどの面積を占める。除去土壌等の県外最終処分は、福島復興の最終課題のひとつとなっている。
○除去土壌は本当に安全?

除去土壌全体の4分の3を占める、1キロ当たりの放射性セシウム濃度が8,000ベクレル以下の土壌は、公共工事の盛り土等に再生利用する方針で、残りの4分の1は濃縮して体積を減らした上で、福島県外で最終処分される予定となっている。

過去のフォーラム参加者からは「除去土壌は本当に安全なのか?」という質問が寄せられていた。長崎大学原爆後障害医療研究所 教授 高村昇氏は、除去土壌等の安全性についてこう語る。

「100ミリシーベルト以上の放射線を浴びるとがんリスクが増大するとされているが、除去土壌等の濃度の基準はそれよりもはるかに低い、年間1ミリシーベルト。しかも、1度に大量の放射線を浴びた場合に比べ、毎日少しずつ浴びたほうが放射線の影響が出にくいことがわかっている。過去のさまざまな研究を踏まえて除去土壌の基準が決められていることを理解してほしい」

除去土壌等の再生利用にあたって、環境省は安全性確認のため、福島県飯館村にて花や野菜等の栽培実験を行ってきた。再生資源化された土を使って栽培した作物の放射能濃度は、一般食品の基準値よりも十分低いという結果が出ている。
○中間貯蔵施設を受け入れた2つの町の想い

福島第一原発に隣接する大熊町と双葉町は、苦渋の判断の末、除去土壌等を一時保管する中間貯蔵施設の受け入れを決めた自治体だ。

大熊町の吉田淳町長は、フォーラムに寄せたビデオメッセージで、中間貯蔵施設への想いを明かした。「大熊町には中間貯蔵施設面積の7割にあたる1,100ヘクタールが位置している。震災前は町民が普通に暮らしていた土地を、地権者が『復興のためになるなら』と、苦渋の決断で手放し、施設の設置を受け入れた。多くの人の協力によって、福島県内の環境再生が進んでいること知ってほしい」

双葉町の伊澤史朗町長も「復興のためとはいえ、中間貯蔵施設の受け入れは容易ではなかった。原発事故による避難生活が継続する中、追い打ちをかけるように先祖代々の土地を手放すことになった町民の怒りや悲しみ、苦しみに満ちた表情は忘れられない。数々の苦渋の決断や協力に応えるためにも、国は必ず県外最終処分を実現しなければならない」と語った。
○まずは正しい情報を「知る」ことから始まる

また、フォーラムの後半では参加者からの疑問や意見を対話ボードに集約し、対話セッションも行われた。

フォーラムの当日参加者からは「すべての土は福島県外に出すな」という強いコメントが寄せられた一方、「福島のために県外にいる人ができることは?」「中間貯蔵施設を見に行きたい」「再生利用や最終処分の進捗について、小さなことでも新しい情報を発信してほしい」といった建設的な声も多数上がった。

フリーアナウンサーの政井マヤ氏は、「不安な気持ちは理解できるが、いま中間貯蔵施設を受け入れている自治体の方の思いにも耳を傾けなければならない。相手の声に耳を傾けて対話を積み重ねることで着地点に向かっていけるのでは」とコメント。

フリーアナウンサーの中野美奈子氏は、正しい情報を知ることの大切さを訴える。「放射能は目に見えないからこそ恐怖をあおる。SNSなどでは間違った情報も流れているので、環境省等のしかるべき機関が発信している正しい情報を自分から拾いに行くことが大切。除去土壌が県外に移設されることを知らない人に対して、この問題をどう伝えていくかは私自身の課題でもある」

一方、大学院生で大熊町民でもある遠藤瞭氏は、地元民ならではの心情を吐露した。「原発事故で福島が特別な場所になってしまったが、福島が特別な場所でなくなることが復興だと考えている。除去土壌問題で、多くの人の知らないところで誰かが負担を強いられていることを知ってもらうことが対話フォーラムの意義」

タレントで福島環境・未来アンバサダーのなすび氏は、「首都圏近郊の人から『なぜ福島県外で最終処分をするのか』という声が上がることもあるが、そもそも福島原発は首都圏に電気を送るための東京電力の発電所。それを念頭に置いてさまざまな議論が進んでいけば」とコメント。

ファシリテーターを務めた東京大学大学院准教授の開沼博氏は「『平等な負担が必要』という意見があったが、除去土壌の受け入れ以前に、この問題を知ることも、フォーラムに足を運ぶことも一種の『負担』。知るという負担を背負う輪を広げていきたい」と述べた。

最後に、西村環境大臣は「除去土壌問題を一緒に考えて、福島のみならず日本の未来を考える輪を広げていかなければならないと改めて感じた。日本国内はもちろん、国外に対しても、福島の状況や日本が歩む道について発信していきたい」と締めくくった。

「『福島、その先の環境へ。』対話フォーラム」は、同様の形式としては第9回をもって一旦終了し、今後はさらにバージョンアップした形での開催を予定しているという。また、環境省では、大熊町・双葉町の中間貯蔵施設や実証実験が行われている飯舘村の現地視察会を開催しており、すでに1,000人以上が参加している。

東日本大震災と原発事故から12年余りが経ち、福島や東北に縁がないと、福島を取り巻く問題を「自分事」として捉えにくくなっている人も多いだろう。しかし、除去土壌問題を含む福島の復興は日本全体の課題である。問題は途方もなく大きく、到底一個人がどうにかできるものではないが、たとえ微力でも、1人ひとりがこの問題を知って「自分事」として考えること。それがいま私たちにできることではないだろうか。

春奈 はるな 和歌山出身、上智大学外国語学部英語学科卒。信念は「人生は自分でつくれる」。2度の会社員経験を経て、現在はフリーランスのライター・広報として活動中。旅行やECをはじめとした幅広いジャンルの記事を執筆している。旅をこよなく愛し、アジア・ヨーロッパを中心に渡航歴は約60ヵ国。特に「旧市街」や「歴史地区」とよばれる古い街並みに目がない。ブログ「トラベルホリック〜旅と仕事と人生と〜(https://harubobo.com/)」も運営中。 この著者の記事一覧はこちら(春奈)

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