『伊集院静さんが好きすぎて』 三又又三さんと行く、聖地巡礼旅・なぎさホテル

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2023年09月10日 10:01  リアルサウンド

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 私生活のすべてが伊集院静「脳」になってしまったという放送作の澤井直人。彼がここまで伊集院静さんを愛すようになったのは、なぜなのか。伊集院静さんへの偏愛、日々の伊集院静的行動をとことん綴るエッセイ。


  今回は、“芸能界きっての伊集院静通”お笑い芸人の三又又三さんと伊集院静さんが若かりし頃に住んだ場所であり小説の舞台となった今は亡き「なぎさホテル」の跡地に足を運んできた。


 



澤井:三又さん、本日はありがとうございます。本当に良い天気になりましたね。


三又:晴れたね〜。


澤井:三又さんとは、ひょんなことがキッカケで繋がったんですよね。


三又:俺がX(旧・Twitter)に伊集院静の投稿をしたときに、1人だけ、“いいね”と“リポスト”をしてきた奴がいて。 プロフィールを見ると、誰だこの放送作家は? って。


澤井:僕は、毎日Xで“伊集院静”でエゴサーチをかけていて、 全て見に行くようにしているんです。そこでたまたま、 三又さんが伊集院さんのツイートをされていて。 昔、どこかの媒体で三又さんが伊集院作品のお話をされていたのを覚えていて。


三又:それ、BOOKSTAND.TVだ。


澤井:それで三又さんからDMが来て、SNSを通して繋がりました。


三又:SNSで、そんなまともな繋がりがあるんだって。


澤井:その勢いのまま、翌週には...…。中野の居酒屋を3軒ほどハシゴしましたね。


三又:共通言語って怖いもので、 澤井君とは、はじめてじゃない感じがしたんだよね。


澤井:以前から、伊集院さんの聖地巡礼をこの連載内でしていまして。 前回は、池袋の横山さんという元巨人の投手がやっているうどん屋の「立山」さんに行ってきたんですけれど、なぎさホテルの聖地巡礼はどこかでしたいと思っていたんです。


三又:俺はこの海岸に夏に来たのは初めて。 前に来たときは冬だったのよ。俺は兄を白血病で亡くした。 そのときに出合ったのが伊集院さんの『いねむり先生』という作品。 それで、作中に出てくる逗子に来て、鎌倉の本屋に入ったとき 手に取ったのが小説の『なぎさホテル』だった。 迷わずに購入して、ホテルに一泊して8〜9割一気読み。


  そしたらさ当時伊集院さんはなぎさホテルに住んでいて、交際していた夏目雅子さんを白血病で亡くされたことを知ったんだけど、そのことが自分の兄を亡くした体験と重なってさ。だから最終章はこの「なぎさホテル」の跡地「夢庵」の前で読もうと思わず向かったのよ。


三又:小説の名シーンといえばさ、伊集院さんが昼間からビール飲んでぼんやり海を見ていたら、後ろから「昼間、海のそばで飲むビールは美味しいもんでしょう」と声をかけられるところ。


澤井:それが、逗留することになる 「逗子なぎさホテル」の I 支配人だったんですよね。


三又:そう、その場所がまさにココだね。そこから伊集院さんは7年余りもなぎさホテルに住むんだよね。 人たらしを超えているよ。だってそれだけじゃなくて、支配人からお小遣いをもらって六本木遊びに行っていたんだから(笑)。


澤井:とんでもないですよね。 でも、支配人はそれを喜んでやっているんですよね。


三又:そうそう。それに憧れたさ、僕も伊集院さんみたいに右手に缶ビール、左手におでんで同じようなことやってみたの。心の中では、「あ〜おれにも支配人のように 後ろから声をかけてきて、お金貰えねえかな〜」って考えて。 そしたらさ、後ろから来たんだよ!


澤井:え! 誰が来たんですか!?


三又:トンビが(笑) しかもおでんを襲ってきやがって、おでんの汁でビッシャビシャよ!


澤井:!!!(笑)



三又:ここが、伊集院静と三又又三の違いだよね。 伊集院さんは支配人に声をかけられて、 おれはトンビに襲われるっていう。でもね。良いネタできたな〜って思って歩いていたらさ、忘れもしない。革のライダースジャケットを着たロッカーの男性とすれ違ったんだよね。 どこかで見たことあるぞと。


澤井:誰なんですか?


三又:あの甲本ヒロトさんだよ! びっくりしたよ、街ですれ違ったんだから。


澤井:え! 本物ですか?


三又;もちろん。しかもさそんなことあったら、もうその日の話は普通終わると思うじゃん! これが違う。江ノ電乗ってね、由比ガ浜へ行ったの。駅のホームに高校生がいっぱいいてね、ふとみてたらなんかみた顔がいるわけ。


澤井:今度は誰なんです?


三又:なんとさ、今度はワンピース着た小泉今日子さん。気づいた瞬間「あああ〜って!」俺だけが絶句しちゃったよ。


澤井:すごい! そんなこと滅多にないですよ。


三又:全部回収したんだよね! トンビからの甲本ヒロト、小泉今日子だよ。大好きなレジェンド2人に会えるなんてさ。 ただ、凄い恥ずかしいこともあって……。そのとき、僕、高倉健さんばりの黒い帽子を深く被っていて。 あまちゃんの打ち上げで一緒だったのもあったから、ジリジリ近づいて「小泉さん!」って声をかけようとしたら、あり得ないほどの猛ダッシュで逃げられて(笑)。


澤井:引きが凄いですね〜(笑)。


三又:そんなこともあって『なぎさホテル』からは色々影響を受けて。俺にも伊集院さんのような“なぎさホテル”がないかなって思うようになったのね。 そんなときに「80平米の最上階の部屋を住んで良いよ」 って人が現れたのよ。直感で俺にとってのなぎさホテルがきたとその時思ったよ。場所は江戸川で、ディズニーランドが見えたから花火も見られるのよ。でもオーナーがコロナ禍で色々あったみたいでさ。 俺、毎月賃貸料払ってる。



澤井:やっぱり伊集院静さんにはなれないみたいですね(笑)。三又さんは、伊集院さんがなぎさホテルに7年あまり住めた理由はどこにあると思いますか?


三又:可能性を支配人に感じさせたんだろうね。


澤井:そういうことですよね。 なぎさホテルを読んでいると支配人さんの伊集院さんに対する待遇が全然違うじゃないですか。 ホテルの住んでいた部屋も狭い部屋から、どんどん景色の良い部屋にグレードアップしていくんですよね。


三又:しかも外車乗っていたんだでしょ。恐ろしいよ。


澤井:それに広告代理店に勤めているときにCMの撮影で知り合った女優の夏目雅子さんとそこで交際が始まる。


三又:広告代理店時代には、ビートたけしさんとも野球しているんだよね。 それからもたけしさんと伊集院さんがたまに会っていると聞くとさ、いいな〜って思う。あと、水道橋博士が心の病になったとき、伊集院さんは手紙を送っているんだよね。


澤井:そんなこともあったんですか。


三又:伊集院さんって、なんかいろんなものを引き寄せてくれる。 前にね、鶴岡八幡宮の近くにあるラーメン屋さんで伊集院さんの話をしたの。そしたらさ「僕、伊集院さんと子どもの頃キャッチボールしてるんです」と。 詳しく聞くとね、そのときに一緒にいた女性が夏目雅子さんで「世の中にこんな綺麗な女の人が居るんだ!」って思ったんだって。


澤井:当時の夏目雅子さんの映像を見ると、本当にお綺麗ですよね。 なぎさホテルを出てから同棲。しかし夏目さんは数カ月後には白血病になってしまう。それからおよそ200日間の闘病を共に過ごされていたんですよね……。僕の身近な死のことで言うと、コロナ禍の前に 2つ下の弟を山の遭難事故で亡くしたんです。


三又:はじめて澤井くんと話したとき、 僕は兄を亡くし、澤井君は弟を亡くした。 その話でギュッと距離が近くなったね。


澤井:弟は本当に山登りが好きだったんです。 その時も1人で南アルプスに行っていたんです。実家から弟が遭難したと電話がかかってきました。帰りに乗るはずのバスに乗れていないと。 テレビのニュースに弟の名前が出たとき頭の中が真っ白になりました。


三又:そうだったんだ……。


澤井:消防隊も最初は動いてくれるんですけど、 捜索には期限があって、それを超えてしまったら捜索隊を出すのに膨大なお金がかかるんです。 だから、遺体はまだ見つからないままなのですが、当時親も僕も心が潰れてしまいました。 そんな状況で手に取ったのがたまたま『なぎさホテル』で。 そこには、伊集院さんは弟さんを海難事故で亡くされている話が出てきて、僕と同じことを経験されていることを知ったんです。そのときからずっと伊集院さんの本に寄り添ってもらっている気がしてます。


三又:俺もだよ。伊集院さんの小説には、苦しい人たちに寄り添う力があるのよね。


澤井:この場所で話していると色んな情景が思い出されますね。


三又:最高のお盆ですよ。


澤井:そうですね。本当に今日はいい時間をありがとうございました。



  その後、私と三又さんは話足りなかったので、伊集院静さんと夏目雅子さんが贔屓にされていた 『小花寿司』さんに足を延ばしたのでした。




※三又又三(みまたまたぞう) 1967年岩手県花巻市生まれ。仙台育英高校卒業後... 1992年に山崎まさやとジョーダンズを結成。 三又又三の名付け親は、ビートたけし。 武田鉄矢のモノマネで注目を集め、多数のバラエティ番組に出演。 北野映画『アキレスと亀』(2008年)で東スポ映画大賞新人賞受賞。 現在は、東京農業大学特別講師も勤める。芸能界きっての伊集院静通。


以上、全て撮影:林昂歩


■これまでの内容はこちら
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