絶海の孤島・南硫黄島の調査に訪れた鳥類学者による「冒険エッセイ」兼「研究成果報告書」

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2023年09月15日 18:11  BOOK STAND

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『無人島、研究と冒険、半分半分。』川上 和人 東京書籍
 本州から南に1200kmの場所にある絶海の孤島・南硫黄島。過去に人が定住したことがなく、人為的な撹乱を受けていないことから原生の生態系が維持されており、研究対象として高い価値を持っているそうです。書籍『無人島、研究と冒険、半分半分。』は、そんな南硫黄島に特別なミッションを受けて挑む鳥類学者の川上和人さんの姿を描いた冒険の書。......であると同時に、進化や生態について記した研究成果報告書でもあります。

 これまで南硫黄島の山頂を含む自然環境調査は1936年、1982年、2007年、2017年の4回しか実施されておらず、そのうちの2007年と2017年の2回に参加している川上さん。同書の第1部「探検・はじめまして」では、2007年の約2週間の滞在の様子が描かれています。

 なぜこの島がこれほどまでに手つかずのまま残されてきたかというと、それは天然の要塞とも呼ぶべき厳しい地形をしているから。そこでの生活はバカンスでもキャンプでもなく、ひとことで言えば"サバイバル"です。

 大量の物資の陸揚げやテントの設営などを終えたら、侵略的外来種のネズミがいないかのチェックや島にいる鳥の仮剥製づくりをおこないます。さらには2泊3日の山頂往復ツアー。これは約15kgのザックを背負って海岸から標高500mのコルまで登り、休息をとってから標高916mの山頂まで登りきるという過酷なものです。

 しかし「山頂に到着すると、そこは天国だった」(同書より)といいます。多数のクロウミツバメが繁殖しているこの場所では、その数に応じてたくさんの死体が生産されており、「一見すると地獄絵図のようなこの光景は、研究者にとっては天国そのもの」(同書より)なのだそうです。また、ここではクロウミツバメたちの集団帰還にも遭遇。

「おそらくクロウミツバメは山頂周辺だけで数万つがいが繁殖している。それがアメアラレと降り注いでくるのだ」
「いやはや、この島に来ることができて私はなんとハッピーなんだろう!」(同書より)

 さて、調査が終わり、これをきっかけに海鳥を研究テーマの一つとして位置づけた川上さん。その後も北硫黄島や小笠原諸島の無人島行脚を始めます。そして2017年、10年ぶりの南硫黄島上陸。前回とはどのような違いが見られ、どのような研究の成果が見られたのかも読んでいて興味深い点です。

 同書に出てくる言葉に、「エベレストもヒマラヤも、お金を払えば登れるんです。でも、ここはお金を積んでも来られないんですよ」というものがあります。本来は足を踏み入れることのできない稀有な島の姿を知ることができるのは、読者にとっても貴重な経験となることでしょう。そして、川上さんのユーモアあふれる筆致も同書の魅力です。研究と冒険が同居した類を見ない科学エッセイを皆さんもぜひ楽しんでみてください。

[文・鷺ノ宮やよい]



『無人島、研究と冒険、半分半分。』
著者:川上 和人
出版社:東京書籍
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