中学受験ミラクル合格――「持ち偏差値から15上」の鉄緑会指定校で、息子が腐らなかったワケ

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2023年12月23日 19:11  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験が間近に迫るいま、受験生家庭は追い込みに余念がないだろう。受験は水物なので、何が起こるかわからない。それゆえ、たいていの受験生は安全校という名のいわゆる“滑り止め”の確保を図るのであるが、また一方でチャレンジ受験という別名“記念受験”をする人もいる。

 これは、持ち偏差値よりもかなり上の学校を、とりあえず受験してみるというもの。受験生家庭の憧れの学校を受ける場合が多い。当然ながら、不合格になる確率が高いのだが、ごく稀に「ミラクル合格」と呼ばれる奇跡を成し遂げる場合がある。  

 通常の偏差値からは10以上も離れた上位校に、どういうわけか“ポン!”と入ってしまう子がいるのだ。

 筆者の取材経験では、そういうご家庭はミラクル合格に狂喜乱舞し、そのまま入学。そして、ほどなくして深海魚(成績が低迷すること)となり、極めて厳しい道のりを歩むケースが多い。

 というのも、高偏差値校の授業は進みがフルスピードかつ、相当難しいのが普通。高偏差値校が実力相応校だった子であっても、怠けていると、授業についていけなくなるだけに、ミラクル合格した子にとってはなおのこと苦しい日々が続く。勉強についていけないだけならばまだしも、高偏差値校になればなるほど、そういう生徒には最悪、退学処分が待っているのだ。

 しかし、ミラクル合格を果たした子の全員が苦しい学校生活を送るかといえば、そうともいえない。腐らずに勉強に励み、充実した6年間を送る子もいる。

 友子さん(仮名)のひとり息子である大悟君(仮名/現大学3年生)は高偏差値で知られる〇学園の出身。小学3年生の頃より「僕は絶対に〇学園に入学する!」と言い続けていた、憧れの学校だそうだ。

 ところが、塾での成績は伸び悩み、結局、最上位クラスには一度も在籍することなく受験本番を迎えることになったという。

「正直、私も悩みました。大悟にとって〇学園は高嶺の花。持ち偏差値との開きが15くらいあったんです。ひっくり返っても受かるわけがありません。落ちるとわかっているのに、ほかの(合格しそうな)学校を受けられないのはリスクが高すぎましたが、大悟は『受ける』と言って聞かず、最終的には親が折れた形でした」

 ところが、ここでミラクルが起きる。大悟君は算数が苦手科目だったそうだが、本人いわく「奇跡が起きた」らしく、自信を持って答えられる問題が出たとのこと。それが功を奏したらしく、「合格」を勝ち取った。この結果には塾の先生も驚いていたそうだ。

 当時のことを友子さんが振り返る。

「塾はやはり実績が欲しいですから、『大悟、よくやった!』で大フィーバーでしたね。大悟も舞い上がっていましたし、私たち夫婦も『せっかく受かったのに辞退なんて……』という欲も出て、大悟はそのまま入学しました」

 〇学園は東大合格実績を誇る鉄緑会の指定校。入学式後の校門前で「合格おめでとう 次は東大!!」と書かれた鉄緑会のチラシを手渡されるのが恒例だ。その生徒たちの多くが、入学後すぐに鉄緑会に吸い込まれていくような学校なのだ。

「おめでたい空気は入学式で完全に消えました。中学受験であんなに勉強してきたのに、ホッとする間もなく、次は東大を目指す学校に入ったのか……と。そのことに今さらながら気づき、家族でおののいていた次第です。私は『大悟は絶対、授業についていけない』と思い、その足で、近所の寺小屋と呼ばれている塾の先生のところに、ごあいさつがてら相談に行ったんです。中学受験の頃もずっとお世話になっていたので……」

 すると、その寺小屋の先生が大悟君に向かって穏やかに、こう助言したのだそうだ。

「勉強はコツコツやる者を見放さない。君はこれからも、この教室で自習しなさい」

 大悟君は部活の後は毎日のように、その塾の自習室で過ごすようになり、その日習ったことの確認と次の単元の予習に努めたという。

「大悟は3歳から小3までアメリカで過ごしたので、英語にはちょっとだけアドバンテージがあったんです。それで、ほかの科目で差をつけられている同級生に変な劣等感を持たずに済んだことは幸いでした」

 最初の定期テストで英語の成績が上位だったため、クラスメイトから「やるな!」という目で見られたという大悟君。そのこともやる気アップにつながったそうだ。

 〇学園といえど、生徒全員が毎日、猛勉強しているわけではない。当然、中には上位で入ったものの中だるみし、気がつけば深海魚というケースもある。ところが、大悟君はその後、“逆パターン”を歩んだのだという。

「中1の頃、大悟が言ったんです。『実力が足りないにもかかわらず、ここに入ったことは僕が一番よくわかっている。だから、僕は人の倍は勉強をしないといけないんだ』って」

 大悟君の成績は当初、友子さんいわく「英語以外は悲惨で見るに堪えなかった」とのことだが、ほんの少しずつ、成績が上がりだし、高校に入ると「東大に行く!」と宣言できるほどの実力がついてきたそうだ。

「中学3年生の時、鉄緑会に入りました。学校が終わったら鉄緑会に行き、空いている時間は寺小屋塾の自習室に通っていましたね。我が子ながら6年間、部活も続けながら、勉強も毎日コツコツとよく頑張ったなぁって思いますし、充実した中高時代を過していたように感じます」

 結果、大悟君は東大には合格しなかったものの、慶應義塾大学に入学。現在はある難関資格試験を目指し、猛勉強中なのだそうだ。

 正直、大悟君はかなり稀なケースであるとは思う。しかし、何事も例外はある。自分の強みを知り、弱点を補強しようとする覚悟があれば、ミラクル合格と呼ばれるような子であってもチャンスは無限大。大悟君のように充実した学園生活を送ることも不可能ではないのだ。

 やはり、よくいわれるように、人生は「意志あるところに道は開ける」ということなのかもしれない。

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