13歳の新星、28歳のベテラン...全日本フィギュアスケート女子のアナザーストーリー

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2023年12月28日 17:21  webスポルティーバ

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 長野・ビッグハットで開催されたフィギュアスケートの全日本選手権、女子シングルのスケーターたちは咲き誇る氷上の花のようだった。フィギュアスケーターの誰もが目指す「全日本」という特別な舞台装置で、それぞれが輝きを放っていた。色も艶も混ざり合い、それは美しい絵巻のようにーー。

【好きがあふれ出る28歳のベテラン】

 大庭雅(28歳/東海東京FH)は、大会開幕前日練習から弾けるような笑顔を振りまき、「リンクに立てる幸せ」を放っていた。大会出場選手で最年長だが擦れていないというのか。女子選手は19〜20歳が平均年齢で10代選手も多く、大学卒業で競技から離れるケースが多い。

「スケートが好き」。彼女は、その思いを極めてきたのだろう。だからこそ、会場で温かい拍手を受ける。その笑顔はさらに増し、幸せな風景が広がる。それはひとつの定理だ。

 大庭はショートプログラム(SP)24位と、16歳のジュニア選手を0.60点上回ってギリギリでフリーに進んでいる。その舞台をつかむ姿は気高かった。出場選手中最多12回目の出場はダテではない。

 もっとも、真骨頂は順位や点数を超えたところにある。フリーは流れのなかに要素が組み込まれ、スパイラルは際立って美しかった。トップバッターでは異例の温かい拍手を浴びた。満面の笑みで観客席に手を振り、コーチと抱擁を交わす姿は恍惚感があった。

"スケートを生きる"。彼女はそれを体現していた。

【吸って吐いて...開花した才能】

 山下真瑚(20歳/中京大)は、SPで69.92点と2位に躍進。3回転ルッツ+3回転トーループと難度の高いジャンプで高得点をたたき出し、脚光を浴びた。7回目の全日本でSP最高位だ。

「全然、緊張しなくて。6分間(練習)の時からすごく楽しくて、お客さんに見てもらえるのは幸せ。久しぶりに後半のグループ、メンバーで、やっぱり強化選手ってすごいなって思いました。お客さんも多くて、自分も同じところにいられて幸せだなって」

 山下はおっとりした口調で言った。2018年世界ジュニア選手権、山下はアレクサンドラ・トゥルソワ、アリョーナ・コストルナヤのロシア勢ふたりに次いで3位に入っている。天性の才能がいよいよ開花した空気もあったが......。

 滑りが改善した理由は、マイペースな彼女らしい。

「息がすごく止まっちゃうんですよ、真瑚は」

 今大会、取材エリアが一番和やかになったフレーズかもしれない。

「ちょっと前にトレーニングしていてトレーナーさんに、『曲かけで息が止まっている』と言われて。気をつけたら、その日から調子がよくて、ショートもフリーも息をするのが大事だなって思いました。今まで呼吸を意識したことはなくて、最後で息が切れちゃうのが多かったんです。最初から呼吸を意識して、吸って吐いてをプログラムのなかでやると、最後で動けなくなることなくなりました」

 結局、フリーはジャンプの回転不足や転倒が響いて、12位と点数は伸びなかった。それでも、総合8位は5大会ぶりのひと桁順位だ。

「すごくフリーが苦手なので、来年もこのグループにいられるような成績や滑りをできるようにしたいです」

 山下は言う。勝ち筋は見えてきた。

「去年、今年の前半までは体力がないなと思っていたんですけど、だいぶ体力はついてきました。ちょっとずつジャンプが安定してケガもしなくなって、メンタルも安定してきたかなと思います。ルッツトー(3回転ルッツ+3回転トーループ)を2本、前半と後半に入れられる人は少ないと思うので、それをしっかりとできるように、強みにしたいです」

 呼吸も忘れずに。

【次世代の星は「まだまだ挑戦者」】

 吉田陽菜(18歳/木下アカデミー)は、今季のグランプリ(GP)ファイナル3位の看板を提げ、全日本に乗り込んできた。トリプルアクセルを武器にした次世代の星だ。

 しかし全日本のSPでは、冒頭トリプルアクセルで転倒し、3回転ルッツ+3回転トーループも回転不足で加点がつかず、苦戦を強いられた。62.73点で9位スタート。今シーズン、フリーでごぼう抜きする逆転劇をつくってきただけに、再現が期待されたが......。

 フリーはプログラムのテーマ「鶴」になりきった。6本のジャンプをみごとに着氷した。しかしトリプルアクセルがシングルになり、131.49点と6位。合計194.22点で7位と、大きな巻き返しはならなかった。

「(GPファイナル3位も)プレッシャーは変わらず、立場もまだまだ挑戦者で。勝負だと思って強気にいったんですが、今回は弱い部分が出てしまいました。すべての試合を全力で戦い抜くのを目標に戦ってきた結果、ファイナルにいかせてもらったんですが。いけると思っていなかったので、中国杯までですべて出しきろうと練習で追い込んでいて......」

 吉田はそう言うと、嗚咽に声を震わせた。

「連戦は大変で、ファイナルから全日本まで、うまくコンディションを合わせられませんでした。シニアでショート・フリーでのアクセルを挑戦してみて、フリーだけとは全然違って。でも男の子たちも4回転をショート・フリーでやって、昨日もその演技を見て勇気をもらいました。一緒に練習したことのある(鍵山)優真くん、(山本)草太くん、(宇野)昌磨くん、みんな練習から本当にすごいので、自分もそういう勇気を与えられる選手になりたいです」

 それは決意表明だった。

「全日本は1年を通しても大切な試合で、来年は全日本で表彰台を狙える実力をつけて戻ってきたいです」

 そのエピローグは、次の全日本の物語のプロローグになるはずだ。

【浅田真央に憧れる期待の新人】

 最後に上薗恋奈(13歳/LYS)は、まさに"全日本、期待の新人"だった。

 中学1年で全日本ジュニア3位に入った少女は、SPでいきなり6位におどり出る。最終グループに入ったフリーでも、冒頭の3回転ルッツ+3回転トーループを成功するなど、ノーミスで4位に入った。合計200.69点で4位入賞。ゴールドのラインが入った衣装は、今後の栄光を暗示しているようでもあった。

 全日本で6回優勝している浅田真央に憧れ、上薗はフィギュアスケートの世界に入ったという。物語は紡がれ続ける。誰もが「全日本」の歴史の一部になるのだ。

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