【アジア杯コラム】欧州育ちのタレントも台頭中…優勝経験を持つイラク代表、大きな自信を携え躍進狙う

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2024年01月11日 08:01  サッカーキング

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サッカーキング

[写真]=Getty Images
 イラク代表は9つあるAFCアジアカップ優勝経験国の1つだ。日本代表が4位に終わった2007年大会の決勝でサウジアラビア代表を破り、初めてアジアの頂点に立った。

 大会前のチーム状態は最悪だったという。英紙『ガーディアン』によれば、2007年5月に就任したジョルヴァン・ヴィエイラ監督と選手たちが事前合宿中から衝突。両者の間にできた溝はあまりにも大きく、連盟側が選手を全員入れ替えてU-23代表をアジアカップに出場させることすら検討したほどだった。

 しかし、後任の監督を見つける時間も新たな選手を登録するための猶予もなく、崩壊寸前のチームでアジアカップの開幕を迎えることに。それでもグループステージ初戦のタイ代表戦に引き分け、続くオーストラリア代表戦に3-1で勝利すると、その勢いのまま決勝まで勝ち進んだ。

 PK戦の末に準決勝で韓国代表を下した直後、イラクの首都バグダッドで大規模な爆破テロが立て続けに発生し、多くの死者が出たというニュースがチームの元に届く。すると選手たちは「全国民のために優勝する」と団結をより一層強めた。

 そして、決勝前夜のミーティングでヴィエイラ監督は選手たちにこう語りかけたという。

「明日は我々のための試合だ。もう一度、我々がこのような場所に戻ってくることは難しいだろう」

 大会前は完全に仲違い状態だった指揮官と選手たちの関係は、勝ち進むにつれて明らかに変わっていた。燃えたぎる闘志を胸に宿した戦士たちはサウジアラビア代表を打ち破り、ジャカルタの夜空にアジアカップのトロフィーとイラク国旗を掲げたのだった。

 その後のアジアカップでもイラク代表はコンスタントにグループステージを突破している。イラク戦争やその後の内戦によって長らく国内で代表戦を開催できないというハンデを背負いながら、地道に力をつけてきたチームだ。だが、2023年に入ってから再びホームゲームを開催できるようになり、世代別代表も国際大会で結果を残すなどポジティブなニュースが続いている。今大会は4大会ぶり2度目の優勝を果たすまたとないチャンスだろう。

 現在のイラク代表を率いているのは、スペイン人のヘスス・カサス監督だ。かつてルイス・エンリケ監督やロベルト・モレーノ監督のもと、スペイン代表のアシスタントコーチを務めた人物で、トップレベルでの監督経験は浅いが、2022年11月に4年契約でイラク代表の指揮を託された。

 すると2023年1月にいきなりアラビアン・ガルフカップ(中東地域No.1を決める国際大会)を制覇。サウジアラビア代表(実質B代表だったが)やカタール代表を破り、決勝ではオマーン代表をPK戦の末に下して、イラク代表を中東地域の頂点に導いた。

 その後の強化方針は独特だ。イラク代表は2023年3月から10月にかけて国際親善試合を6試合行っているが、そのうち9月以降の4試合で前後半90分間を終えた後にPK戦で決着をつけているのである。

(4試合中3試合で終盤に同点ゴールが生まれているのはやや奇妙ではあるが)国際親善試合でわざわざPK戦を実施しているのは、アジアカップ決勝トーナメント以降の戦いを想定しているからだろう。しかも勝率は75%(4戦3勝1敗)で、確かな勝負強さを発揮している。

 さらにイラク代表は2023年11月に開幕した北中米ワールドカップのアジア2次予選で、アジアカップでも対戦するインドネシア代表やベトナム代表と同グループに。すでに両国との対戦を終えてインドネシア代表に5-1、ベトナム代表に1-0で連勝しており、大きな自信とともにアジアカップ本大会を迎えることができる。グループステージで対峙する3カ国のうち2カ国と直近の国際Aマッチウィークに勝利していることは大きなアドバンテージになるはずだ。

 1月6日に行われたアジアカップ前最後のテストマッチでは韓国代表に0-1で敗れたものの、特に前半は鋭いカウンター攻撃で優勝候補の強豪を苦しめた。ロングボール1本で相手の背後を取ってゴールまで迫れるスピードや、その後のセットプレーなどグループステージ第2節で対戦する日本代表も警戒しなければならない武器をいくつも持っている。

 また、イングランドやスウェーデン、ドイツなど欧州で育った選手が増えており、将来有望な若手選手も多い。2023年のU-20ワールドカップ出場メンバーからはフェイエノールト育ちのMFユスフ・アミンと国内最高のタレントと目されるMFアリ・ジャシムがアジアカップに招集された。他にU-19スウェーデン代表歴を持つ18歳のFWモンタデール・マジード、9歳からマンチェスター・ユナイテッドで育ち現在はオランダ1部ユトレヒトに所属するMFジダン・イクバルも選出されている。

 かつてセリエAでもプレーし“イラクのベイル”とも呼ばれたDFアリ・アドナンらベテランと次世代を担う才能たちが融合した中東の強豪は、アジアの頂点への返り咲きを目指して決戦の地カタールに乗り込む。

【KEY PLAYER】 MF17 アリ・ジャシム


 韓国代表のユルゲン・クリンスマン監督が「欧州でプレーすべきタレント」と称した純国産の至宝が初のアジアカップに挑む。弱冠14歳でイラク1部リーグデビューを果たし、2023年のAFC U-20アジアカップ準決勝ではU-20日本代表から先制点を挙げ、母国のU-20ワールドカップ出場権獲得にも大きく貢献した。

 そして2023年10月にはA代表デビュー。さらに初出場となったAFCチャンピオンズリーグのグループステージでは、アル・クウワ・アル・ジャウウィーヤの10番として5試合に出場して4得点。惜しくも決勝トーナメント進出は逃したものの、イランの強豪セパハンから2得点、サウジアラビアのアル・イティハドからもゴールを奪い、ACLで3得点以上を挙げた史上最年少の選手として歴史に名を刻んだ。

 アリ・ジャシムはドリブルでの突破力を最大の武器にしている。大きめのストライドながら繊細なタッチでボールをコントロールし、ペナルティエリア近辺では独特のリズムを刻む細かいステップと鋭いフェイントで相手を翻弄。U-20アジアカップでは彼の変幻自在の仕掛けにU-20日本代表も大いに苦しめられた。

 右ウイングを主戦場にしながら、左ウイングでのプレーも苦にしない。左サイドではカットインからのシュートも巧みで、1月6日のテストマッチでも豊かなスピードでカウンター攻撃時に重要な役割を果たした。A代表キャップ数は「5」と少ないが、すでに主力の風格を漂わせるなどアジアカップで大きく飛躍しそうなタレントだ。右手を左胸に当て、左腕を空に突き上げるゴールパフォーマンスにはアジアの舞台で何度見られるだろうか。

文=舩木渉

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