AIは論文発表を変える? 民間企業が“学会で発表する意義” サイバーエージェントなどが議論

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2024年02月05日 08:12  ITmedia NEWS

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民間企業が“学会で発表する意義” サイバーエージェントなどが議論

 企業において、研究開発組織はどのような役割を果たすべきなのか。AIは、研究開発をどう変えていくのか。CCSE2023の講演で、企業3社の研究組織を率いる3人が議論を交わした。この講演録は、2023年12月22日に実施した、企業による研究発表カンファレンス「CCSE2023」の抄録だ。


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 登壇者はサイバーエージェント AI Lab 主席研究員の山口光太さん、Cygames技術顧問でCygames Research所長の倉林修一さん、パナソニックホールディングスロボティックス推進室長の安藤健さんの3人だ。ファシリテーターはサイバーエージェント AI Labのアントニオ・テヘロ・デ・パブロスさんが務めた。


●なぜ企業が論文を発表する?


 講演ではまず「企業が学会で発表する意義」について議論した。直接的な営利活動には結び付かないにもかかわらず、企業が論文を発表する意義はどのような点にあるのか。登壇した3人が挙げたのは「技術の継承」「人材育成」「採用広報」「監査」という4つの観点だ。


 倉林さんは「論文は、今から15年後の若者や見ず知らずの人に向けて書いていくものだ。知っている人に向けて書いている文章と、見ず知らずの“文脈を共有していない”人に向けて書く文章では、自ずとクオリティーも違えば、伝達できる情報量も違う」と話す。さらに「論文を書く」行為自体が、研究人材の育成につながるとも指摘する。


 安藤さんは「『見ず知らずの人に伝える』という行為は、いわば『いかに自分が論理的矛盾を抱えながら日々研究をしているかに気付かされること』だ。パワーポイントだと若干ごまかせることもあるが、文章にすると、確実に論理的矛盾に気付く。あえて古典的な学会発表で、査読を受けながら論文を執筆するのは、一人一人の論理的思考力や、アイデアの発展のさせ方などに気付く、非常に良いきっかけになる」と語る。


 また論文を学会発表することには、人材採用や組織監査の観点でも意義があるという。前者について山口さんは「専門分野を学んでいる学生への広報になる」と言及。後者については「学会やジャーナルという外部組織の査読で、研究の成果物の正当性をある程度担保する。これは監査の観点から重要だ」(倉林さん)とした。


●目覚ましいAI研究が論文発表を変える?


 企業の研究成果の発表は、そもそも論文や学会発表であるべきかという疑問も投げかけられた。特に日進月歩で進展するAI研究の分野では、論文発表のスタイルにも変化が生じている。倉林さんは「OpenAIのようなAIのトップ企業は、ブログが主戦場となっている」とAIにおける環境の変化を指摘する。


 AI関連の論文が多く登録されるオープンアクセスリポジトリ「arXiv」では、読みやすさを追求したかのような変化も見られる。倉林さんは「要旨(Abstract)よりも、短いTL;DR(スラングが元で、要約を意味する)を記載している論文があった。ここにも来てしまったのか」と驚きと共に報告した。


 また、山口さんの「論文は今後どう変化するか」という問いに対して、倉林さんは「二極化すると思う。新しい研究発表の在り方として、インパクト重視で動画メディアのようなスタイルが現れる一方、研究者の競争軸として論文数やインパクトファクター重視の従来型も消えないだろう」と答えた。


●ChatGPT/LLMは研究をどう変える?


 AIは研究対象として注目を集めるだけでなく、研究の在り方自体を変える可能性がある。会場からの質問では「論文を書く大規模言語モデル(LLM)が出てきているが、論文執筆に対する影響はどうか」と問われた。


 安藤さんは「論文執筆にLLMを組み込むか否か、組織デザインとして、経営判断で考えるべきだろう。スピード重視で研究成果を出したい場合は利用するべきだし、目的が研究者の教育ならあえて自分で書くという選択もありだ」と見解を述べた。


 それを受け、山口さんは「要は使いようなのでは。論文に限った話ではなく、おそらく将来の人間はAIネイティブとして育っていく。そのときに、技術や知識をどう残していくのかを考えると、論文以外の何らかのフォーマットで残っている可能性もある」と予想した。


 大学で教壇に立っている倉林さんは「学生のレポート執筆とLLMを巡る観点からも、なかなかに深い問題だ」と指摘。「研究という側面だけに限定すると、日本語を母語として成長した人にとって、LLMの登場は、極めて有利な技術進展なのではないか」と続けた。


 「自然科学系の論文の大多数は英語で執筆されているため、日本語話者には言語の壁がある。そこでLLMが翻訳を支援すれば、より審査の厳しいジャーナルに論文を通しやすくなるのではないか」というのが倉林さんの考えだ。これらを踏まえて「個人的には学生のレポートでもLLMを活用するべきだと思っている。LLMでレポートの質を上げていくべきだ」と続けた。


 さらに倉林さんは「LLMの特性を踏まえて、人類はより高い品質のアウトプットを続けていくべき」と主張。「人類全体の課題として、われわれが直面しているのは、LLMがもう進化しないという課題だ。人間がLLM程度の言語能力しか持たない場合は、LLMはもう品質の高い学習データを得られない。だから、生きている人間は、LLMでは生成できないようなオリジナリティーのある表現をして、その内容をインターネット社会に還元していくべきではないか」と話した。


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  • Bard、大枠で大胆に違うこと、数字情報がすごく違う、ざっくり一般論を語るおじさんに似てる、という感じで凄いけど呆れたりする。今は自由さから許せるんだけど、将来はやな奴になるんだう…
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