ハースF1新代表・小松礼雄の覚悟 メンツや権力はどうでもよく、マシンの速さを追求する

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2024年02月07日 11:11  webスポルティーバ

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ハースF1小松礼雄チーム新代表インタビュー(前編)

 2024年シーズンの開幕を前に、ハースF1チームの小松礼雄エンジニア(48歳)がチーム代表に就任するという驚きの人事が発表された。

 F1チームの代表というのは、小さいチームでも300人、大きなチームになれば1000人を超えるスタッフを取りまとめ、サーキットでのレース運営だけでなくファクトリーでのマシン開発、ライバルチームやFIA、F1主催者との折衝、スポンサーとの付き合いや外部に向けた宣伝活動など、"チームの顔"としての役割が多岐にわたって求められる。

 最近では『Netflix』のドキュメンタリー番組の影響もあり、コース内外での彼らの役割に注目が集まり、世界的な人気も高まっている。

 F1ドライバーは世界で20人しかいないが、F1チーム代表はたったの10人しかなれない、さらに狭き門だ。また、70年を超えるF1の歴史において、日本資本ではないF1チームの代表を日本人が務めるケースは、小松が初ということになる。

 ハースはギュンター・シュタイナーというキャラの濃い代表がいただけに、この突然の代表交代は驚きを持って受け止められた。しかし、昨シーズン中に何度か小松エンジニアから聞いていたマシンの問題点や遅々としてマシン開発が進まない理由を鑑みれば、こうしたチーム改革は当然の帰結だと感じられた。

 一部ではシュタイナーの解任理由がさまざま噂されているが、昨年ハースはランキング最下位に終わっており、端的に言えばオーナーのジーン・ハースがシュタイナーの運営方針に満足せず、小松の提案するチーム改革案に賛同して決断を下したということになる。

「この決定を聞かされた時には驚きましたし、それと同時にありがたいことだとも思いました。僕はこのチームが創設された時からここにいますし、チームのほとんどの人のこと、レベルが高く才能のあるスタッフが大勢いることも知っています。なので僕は、彼らが実力を発揮できる環境とフレームワークを用意したいと思っていますし、そこにワクワクしています」

【シュタイナー前代表になろうとは思っていない】

 今回のチーム代表就任に際し、小松がジーン・ハースに明確に伝えて承認を得たのは、自分はエンジニアとしての知見をもとにチーム体制の技術的な強化に専念する、ということだった。

「これはジーンにもはっきりと言ったことですが、僕の専門知識から言えば、マーケティング面やスポンサー獲得といったところに注力しても意味がありません。僕がどんな経験を持っていて、どんなエリアが改善できると考えているか、どこに関しては不慣れで誰かの助けを必要としているか、ということは明確に伝えました」

 不慣れな仕事までひとりでやろうとするのではなく、そこはそれを得意とする人材を起用して権限移譲するつもりだという。

「自分の職責を広げすぎないようにすべきだと考えています。自分の長所を最大限に生かし、自分が把握しているかぎりの弱点と言える部分は、ほかの人からの助けを請います。ジーンもそれに対して支援をするという約束も取りつけています。

 僕のスキルが生かせない場所ではそういった分野に精通した人間が必要で、僕は技術面に集中して、チームを技術的に強化するための組織作りに専念すべきです。なので(ほかのチーム代表とは)責任を負う範囲がかなり違うと言えます」

 シュタイナーとは大きく性格の異なる小松新代表だが、2016年のチーム創設以来、ともに戦ってきたシュタイナーとはプライベートも含めて良好な関係を築いており、仕事の面においてもお互いにリスペクトの念を持つ間柄だ。だからこそ、彼の代わりを務めるのは無理だということも、小松はよくわかっている。

「もちろん、僕はギュンター・シュタイナーになろうとは思っていません。別の人間です。僕らは本当にとてもいい関係を築いていましたし、お互いにその人柄も、肩書きも、仕事内容もリスペクトしていました。だから僕らは、仕事の中でも外でもよく一緒に食事に行きましたし、仕事以外のこともたくさん話しました。

 でも、僕はギュンターのキャラクターまで肩代わりしようとは思っていません。僕と比べれば、彼は性格も、長所も短所もまったく違います。ジーンがギュンターの代わりになる人を求めているのなら、僕ではなくほかの人間を起用したはずです。

 だから、誰かのようになるのではなく、僕は自分のやり方で自分の最大限の力を発揮したいと思っています」

【マシンが1000分の1秒でも速ければいい】

 Netflixやメディア対応で歯に衣着せぬ暴言を吐いて注目を浴びるようなことはしないと苦笑いする小松新代表だが、彼自身もストレートな物言いという点ではまったく同じだ。

 ただし、小松の場合はレースパフォーマンスがすべて。自分のメンツや権力などどうでもよくて、マシンが1000分の1秒でも速ければ、そちらを選ぶ。

 チーム全員がそれをできなければ、本物のレーシングチームにはなれないと、小松は考えている。何しろ彼自身が、そうではないオーナーや組織に嫌気が差して2005年からエンジニアとして働いてきたエンストンのチームを離れ、新興のハースに加わった筋金入りのレース屋だ。

「僕は改善にしか目を向けていません。そのためには正しい判断を下す必要がありますし、礼儀正しく、常識的な範囲でストレートな人間であり、そして組織の透明性を保っていたいと思っています。

 僕は政治はやりませんし、そういった面にも目を向けてはいません。自分が正しい意志を持ち、明確なモチベーションを持っていれば、それがチームの全員に伝わって彼らを力づけ、チームを一致団結させることができるのではないかと思っています」

 レースで結果を出すためにマシンを改善すべき時、開発責任者が自分たちの責任を認めたくないから開発を拒絶するという昨年の状況に、小松は忸怩(じくじ)たる思いだったはずだ。

(後編につづく)

◆小松礼雄・後編>>「F1キャリアは20年。最下位のチームをどう立て直す?」


【profile】
小松礼雄(こまつ・あやお)
1976年1月28日生まれ、東京都出身。高校卒業後にイギリスに渡ってラフバラー大学で自動車工学を専攻する。大学院時代にF3チームのメカニックとなり、2003年にタイヤエンジニアとしてB・A・Rに加入。2006年からルノーF1(のちのロータスF1)でレースエンジニアやトラックエンジニアを務め、2016年に創設されたハースへ移籍。レース現場の技術責任者、技術部長を経て2024年よりチーム代表に就任。

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