「ViXion01」の今までにない感覚が人生の選択肢を拡大 オートフォーカスアイウェアでライフスタイルが変わる

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2024年02月08日 12:41  ITmedia PC USER

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オートフォーカスアイウェアの「ViXion01」

 2023年末より、オートフォーカスアイウェア「ViXion01」(ヴィクシオンゼロワン)の発送が始まっている。聞き慣れない製品ジャンルだが、今までの眼鏡の常識を覆す新たな視力サポートツールとして、発売前より大きな注目を集めていた製品だ。筆者も2023年8月に支援し、ぎりぎり2023年中に入手することができたので、その使用感などをレポートする。


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●クラウドファンディングでの達成率8503%!


 デジタル全盛の現在、情報の多くは視覚によって知覚されている。情報は高密度化し、高解像度/高FPSの一途をたどっているが、その一方で程度の差こそあれ、視覚になんらかの問題を抱えている人も多い。


 特に顕著な例が老眼だ。老眼が進行すると近くのものにピントが合わなくなり、いつの間にかスマートフォンも腕を伸ばして操作するようになる。物をよく見ようとするときに目を近づけるという自然な行為が、ある年齢から逆転してしまうわけだ。


 やっかいなことに、遠くの物は当然小さく見えるため、実際には近くも遠くも見えづらいということになる。老眼鏡をかければ近くを見るときにピントが合うようになるが、逆に遠くは裸眼以上にぼやけてしまう。多焦点レンズを使用した遠近両用眼鏡もあるものの、ピントを合わせるためには視線を上下させることで調整しなくてはならない。


 そんな日常生活の不便さを解消してくれるガジェットが、オートフォーカスアイウェアのViXion01だ。ViXion01はクラウドファンディングサイト「kibidango」と「GREEN FUNDING」で2022年6月29日に支援受付を開始し、わずか16分で目標金額の500万円を達成している。その後も支援は増え続け、最終的には4億2500万超、実に達成率8503%という驚異的な支援金額となった。


 現在は9万9900円(税/送料込み、以下同様)で購入可能となっている(ただし発送は2024年2月以降順次となる)ViXion01だが、クラウドファンディング中の価格も6万7800〜7万800円と、決して安くはなかった。それだけに、多くの人が大きな期待を寄せていた製品であったことが伺える。


 果たして、ViXion01は期待に応えてくれる製品に仕上がっているのだろうか。


●約55gと超軽量 形状はSFチック


 ViXion01は、X-MENのサイクロップスや新スタートレックのジョーディ・ラ=フォージを思わせる未来的なデザインだ。良くも悪くも目立ってしまうため、人前で利用することをためらう人も多いだろう。


 だが、このデザインには常用するものではない、ということを示す意図的なものも含まれているようだ。また、一般医療機器としての認定は受けていないため眼鏡として利用する、つまり運転時の視力補正に使用することはできない。


 製品写真などでは、左右のレンズ部がまるで瞳のように見えるが、実際にかけてみるとそこまで目立つ印象ではない。重量は公称値で約55g(実測は54g)と、一般的な眼鏡の35g程度に比べると重たいが、VRヘッドセットのように荷重がかかっている感覚もなく、特段重いと感じることはなかった。これは(常用は想定されていないとはいえ)日常生活の中で利用するには重要なポイントだと言えるだろう。


 また、パッと見では分かりづらいが、装着時右側にパーツなどが集約されているような左右非対称デザインになっている。これは、左右対称がスタンダードな従来の眼鏡と一線を画すプロダクトであることをデザインで表現するためだという。


 重心も右よりだが、気になるような不自然さはなかった。太めの右側のツルを開くと電源が入り、閉じると電源が切れる。USB Type-C端子からの充電時間は3時間で8〜10時間の使用が可能だが、ツルを開いたまま眼鏡を置く癖がある人は少し気をつけた方がいいかもしれない。


●セッティングは手軽に行えるが個別の調整はシビア


 技術的な制約のために、ViXion01のレンズは非常に小さい。枠の部分を除けば直径約6mmと、コンタクトレンズよりも小さく、目の前のレンズをのぞき込むように使用することになる。有効視野の狭さそのものもViXion01の大きな制限ではあるが、実際にはセッティングのシビアさの方が切実だと感じた。


 まず、レンズの高さを正確に合わせるために鼻パッドと左側のツルを調整する。これらの素材には可塑性があり、力を入れて変形させる。


 次にレンズの左右位置を調整する。左右のレンズは独立して動くので、片目ずつ1mほど先の目標物がレンズの真ん中に入るようスライドさせる。位置のセッティングが完了したら右側のダイヤルを回してピントを合わせる。単にダイヤルを回すだけだと左右両方のレンズが同時に変わり、左ボタンを押しながらだと左だけが変化する。この設定は記憶され、スイッチを切っても保持される。


●視野は狭いが目の疲労は激減


 ViXion01のピント合わせは1mほど先の目標物を対象に行うだけで完了する。これでオートフォーカスモードにしておくと対象物との距離に応じて自動的にフォーカスされるようになる。1点の距離での調整のみで近距離/遠距離両方ともオートフォーカスできる技術については特許出願中であるため詳細は明かせないとのことだが、ピント合わせは非常に滑らかかつ高速だ。


 動作音もなく、あまりにも自然に追従するため、最初は動作していないのではないかと思ったくらいである。距離の測定は眉間部分のToFセンサーで行われるので、指でセンサー部分を覆ってみると実際の挙動がよく分かる。


●実際に試して分かったこと


 このオートフォーカスアイウェアを通して見た世界は、経験してみないと分からない不思議な感覚だ。遠くだろうが近くだろうが、自分でピントを合わせる必要がない。


 逆に、もう少しはっきり見ようと思って対象物に近づいても精度は上がらない。あえて説明しようとすれば、ビデオカメラを通して録画されたTVの画面を眺めているようなものだろうか。遠景でも接写でも、視聴者自身はTV画面にピントを合わせている。


 同じように、ViXion01を通して見るものは裸眼の瞳に入った時点で既にピントが合っており、遠くを見るために目を細めたり、手元の対象物を遠ざけたりする必要もない。


 同社Webサイトに「スムーズなピント調節体験」の再現動画があるが、実際のオートフォーカス速度はこれよりもはるかに高速に感じる。


 ただし、視野はかなり狭い。通常の眼鏡であれば視界の端にフレームが見えるかどうか、くらいの視野だと思うが、ViXion01は視界の中に黒いリングがぼんやりと見え、その中だけがクリアになる。左右それぞれにリングがあるため、調整状態によってはリングが完全に重ならず、若干左右にブレて見えてしまうかもしれない。


 ViXion01の視界周辺にはメッシュパターンが入っているが、これには周辺部分の視認性をあえて下げてレンズを通したエリアに意識を向ける効果もあるようだ。


 読書をしたり、スマートフォンなどをずっと使い続ける場合はむしろ、単焦点の老眼鏡などを使った方が視界も広く使いやすい。ViXion01が真価を発揮するのは近距離、中〜遠距離を交互に見るような作業になるだろう。


 手元の資料を見ながらPCに入力するような作業や、電子工作、プラモデル製作などはその一例だ。実際に試してみると、手元を見るときは意識して顔を下に向けないと距離が正しく計測されず、ピントが合わなかった。一般的な遠近両用眼鏡は下部分が遠視用、上部分が近視用になっていて、視線を向ける高さで使い分けるが、それとは逆に視線は常に真ん中に合わせるように使用する必要がある。


 このあたりは慣れだとは思うが、手元すぎて真下を向かなければならないような体勢での作業には向いていないようだ。


 また、ViXion01使用後はいつも裸眼でも視界がクリアになっていることに気づいた。ViXion01を使うことでピント合わせを行う負担が減り、目の疲労が軽減されるという効果もあるようだ。


●スマートフォンアプリでさらに細やかな設定が可能


 ViXion01には、専用のスマートフォンアプリがリリースされている。このアプリを使えばBluetoothでViXino01と接続して、スライダー操作によって左右同時/個別に度数の調整が行える。


 ViXion01自身には1つのキャリブレーション値しか保持できないが、専用アプリに保存したキャリブレーション値を読み込むことで、最大3つのセッティングを使い分けられる。


 ただし、前述のようにViXion01のセッテイングで最も重要な点は、瞳孔間距離(IPD)や目の高さを個人に合わせてピッタリと合わせることだ。レンズのキャリブレーションをアプリで管理しても、複数人で使い回すことは難しいかもしれない。


 アプリではキャリブレーションの他、現在の温度/照度/電池残量などがリアルタイムに表示される。オートフォーカス技術については非公開ということで詳細は不明だが、そのアルゴリズムには温度や照度も関係しているのかもしれない。


●“テクノロジーで人生の選択肢を拡げる”


 今までの眼鏡とViXion01の最も大きな違いは、静的/動的という点だ。眼鏡は全ての対象物に対して同じ光学処理を施すため、距離によって眼鏡を掛け替えたり、視線を変えてレンズの異なる場所を通して見たりといった、利用者側の積極的なアクションを必要とする。


 一方、ViXion01はどこを見ようとしているのかを判断し、それに合わせてピントを自動調整するため、利用者側の特段のアクションを必要としない。


 そしてViXion01とヘッドマウントディスプレイの違いは、光学処理か映像処理かという点だ。VRで実用化されているヘッドマウントディスプレイでも、オートフォーカスで撮影した外部映像を投影し、接眼レンズで補正することで同様のことはできるかもしれない。


 だが、ViXion01のように約55gという軽量を実現することは難しいだろう。ViXion01はあくまでレンズによる視覚矯正であり、レンズの厚み/形状を変化させることでフォーカスするため、駆動部分を持たず、動作音もない。そういった意味でもViXion01は今までにない領域のテクノロジーであり、新しいカテゴリーの製品であると言えるだろう。


 このような今までにない製品であるViXion01を製造/販売するViXionは、HOYAのビジョンケア部門が2021年に分社化して設立された会社だ。HOYAは80年以上前に設立された光学機器/ガラスメーカーで、眼鏡レンズや眼内レンズなどで大きな国内シェアを持っている。


 ViXionのパーパスは「テクノロジーで人生の選択肢を拡げる」であり、人生の選択肢の拡大に向けて、見え方の能力拡張に挑む、とある。


 1製品目は暗所での見え方を改善する「HOYA MW10 HiKARI」で、ヘッドマウント内に低照度高感度小型カメラを内蔵し、画像処理後に目の前のディスプレイに投影する。対象となる利用者は夜盲症や視野狭窄(きょうさく)の人だ。


 そして今回のViXion01では眼のピント調整をサポートすることで、老眼などの人の見え方改善に大きな効果をもたらした。


 中でも、白内障手術で単焦点の眼内レンズを入れている人にとってその効果は大きい。老眼はピント調整機能が衰えている状態だが、単焦点眼内レンズはピント調整が全く働かない。そのため、生活スタイルに合わせて遠/中/近距離のいずれかに焦点を固定することになるが、生活スタイルは時代や年齢によっても変化する。


 しかし、眼内レンズは手術後1〜2カ月で癒着し、摘出できなくなるケースが多い。ViXion01による恩恵には多大なものがあるだろう。


 白内障は50歳代で60%、80代ではほぼ100%の罹患(りかん)率とも言われている。老眼に至っては病気ではなく、万人が避けられない加齢による変化だ。オートフォーカスアイウェアによって人生の選択肢が再び広がる人は今後ますます増えてくるだろう。


 オートフォーカスアイウェアという製品カテゴリーが定着し、競合他社参入や企業規模拡大などによってレンズの大型化を初めとする技術進化が加速することを期待したい。


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