藤野あおば、20歳――WEリーグで増す存在感「得点はしたいし、取らなきゃいけない」

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2024年02月20日 17:31  webスポルティーバ

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なでしこジャパンインタビュー
藤野あおば(FW/日テレ・東京ヴェルディベレーザ):後編

若手のホープとしてなでしこジャパンで活躍する藤野あおばは、WEリーグでも圧倒的な存在感を示している。高みを見つめるからこそ、日々悩み、もがき続ける彼女だが、それを乗り越えて成長していく姿は必見である――。

◆前編:なでしこジャパンのライジングスター 藤野あおばが駆け上がる「エース」への階段>> ゴール前のこぼれ球を自ら拾い、敵DFをかわして角度のないところから放った低い弾道のシュート。昨夏の女子ワールドカップの舞台において、19歳の藤野あおばが見せたゴールは世界中のファンの度肝を抜いた。

 2011年女子W杯、なでしこジャパンの優勝を目にしてから、本気でサッカーに向き合ってきた少女は、今やなでしこジャパンの攻撃の主軸を担うまでになった。

 WEリーグでは、強豪日テレ・東京ヴェルディベレーザのストライカーとして攻撃をけん引する藤野。今シーズンにおいては、若きエースの双肩にかかる重責はより大きなものとなっている。絶対的なエースであった植木理子が今オフ、ウェストハム・ユナイテッド(イングランド)へ移籍したからだ。

 2021−2022シーズンに始まったWEリーグでの初タイトル獲得を掲げるベレーザにとって、ワールドカップで活躍した藤野への期待はこれまで以上に膨らんでいるが、彼女とてベレーザでスタメンを張れるようになってから、それほど月日が経っているわけではない。

 育成組織である日テレ・メニーナ・セリアスに所属していた藤野は、ユース昇格が叶わず、十文字高校に進学した。この期間に鍛え直されて、3年生の時にはキャプテンを任されるほどに成長。卒業と同時に、ベレーザへと返り咲いた。

 一度は断たれた憧れのチームでのプレーだからこそ、その誇りは誰よりもその胸に刻まれている。

 そして迎えた今シーズンは、メニーナから有望な若手が昇格。指揮官も、かつてベレーザの黄金期を築いた松田岳夫監督が就任し、新たなスタイルで頂点を目指している。

 だが、当然のことながら、新たな戦術の浸透には時間を要する。シーズン開幕を前にして、藤野の表情からは困惑の色が見て取れた。

 ところが、開幕してからは何かが吹っきれたかのように、藤野は積極的に足を振り、アシストからゴールまで、決定機のあらゆる場面で顔を出すようになっていた。

「(チームの)始動直後から、本当にいろんな人と話をしたんです。結果、解決策が明確になった、ということではないのですが、まったくネガティブではなく、自分がやるべきことは変わらないんだなってところに落ちつきました」

「変に考えなきゃよかった」と藤野は笑うが、一度立ち止まって自分と向き合い、変わりゆく周りと自分の成長度合いを整理する――右肩上がりに成長している真っ只中にあって、これができるアスリートは決して多くはない。それが、楽しい作業ではないからだ。

 新たなチームの始動に当たって悩み、考え、彼女が自らの役割としてたどり着いた答えは"何でもできる"ようになること。周りも生かして、自分も生きる――それは、彼女がどんな立場にあっても、これまで一貫して求めてきた姿だ。一周回る前と同じであっても、その濃度は立ち止まる前とは確実に異なっている。

 そのことは、データにも表れている。シュート数、枠内シュート、そして藤野のもうひとつの特長であるキーパスも、リーグスタッツでは上位に名を連ねる。

「チーム状況が変わったからこそ、得点はしたいし、取らなきゃいけない。リーグ開幕前のカップ戦では(自分も含めて全体が)"崩す"や"ボールを保持する"意識が強すぎて、チームのシュート数って多くなかった気がしていて。

(チームの)目指すべき場所を自分が示すっていうことも、自分がこのチームにいる意味(であり、自分の役割)だと思うんです。自分がゴールを目指し続けることで、みんなの目的がハッキリすればいいな、と」

 どこまでも芯が通っている。若い昇格組が得点を重ねていることも、いい刺激になっていると言う。

「突き上げられてる感、ありますね(笑)。自分もそれ以上にやらないといけない。でも、練習していると『これ、どうやったらいいですか?』とか聞かれるので、(自分も)『先輩になったんだなぁ』と感じます(笑)」

 昇格組とは年齢的には1、2歳の差しかない。藤野同様、世代別の代表で活躍してきた選手もいる。また、2011年のワールドカップ優勝メンバーである岩清水梓や宇津木瑠美が、今もなおこのチームの精神的柱であることは間違いない。

 だが、長谷川唯(マンチェスター・シティ)、清水梨紗(ウェストハム・ユナイテッド)ら中堅が抜け、今は若手の成長が名門ベレーザの命運を握っている。いい意味で"若手意識"を薄れさせるには、同年代の藤野が第一線で奮闘する姿を見せる必要がある。

 3シーズン目を迎えたWEリーグは現在、第7節を終えてウインターブレイク中。ベレーザは3勝1敗3分の4位と苦戦している。他チームの底上げによって、星を分け合うゲームが増えてきているのが、その大きな要因だ。

 昨シーズンまでは、三菱重工浦和レッズレディース、INAC神戸レオネッサとともに、ベレーザを合わせて「3強」と言われていた。しかし、今シーズンのカップ戦を制したのはサンフレッチェ広島レジーナであり、皇后杯ではちふれASエルフェン埼玉が台頭し、準決勝では優勝した神戸相手に延長戦にまでもつれ込む死闘を演じた。リーグ全体の実力差は、見るからに縮まっている。

「以前なら3点取ったら勝っていたし、キレイに崩して畳みかけると、相手の戦意が喪失されることがあったけど、最近はそういう試合はないですよね。たぶん、4点取っても逆転可能なラインだと思えちゃう勢いが相手にあるような、そんな変化を感じます。

 2点、3点取っても安心できないし、これまで以上に(最後まで)何が起こるかわからない。スコアが上回っていても守備的な戦術に切り替えられず、攻め続けないとやられちゃうっていう苦しさがあります」

 あらゆることが冷静に見え、ゴールという結果に直結するポジションにいる分、自らの役割から決して目をそらさないのが、藤野あおばという選手だ。それゆえ、日々苦悩する。

「なんか、できないことが増えた気がするんです。できることが増えたから、新しくできないことが出てきたのか。もともとできたのに、できなくなっているのか......」

 おそらくそれは今シーズン、藤野がサイドから中央へとポジションを移動したことで生じている"壁"だろう。自らの全方向に敵を背負いながらのプレーに不慣れ、という面もある。

 しかし、ポジションが変わったからこそ、生まれたゴールもある。第6節の広島戦、右からのクロスをファーサイドで受けた藤野が流し込んだ先制弾はその最たるものだ。

「(サイドからの)クロスの展開で、相手の前に入ってボールを触る――前までの自分だったら絶対に入っていないポイントだったので、(あの形で点が取れたのは)個人的にはうれしかったです。これまで得意じゃなかったっていうか、やってこなかったから。まだまだですけど、今のポジションにおいてはゴールの確率が高い形なので、そのチャンスを増やしてモノにしていきたいです」

「どのチームもFWは大変ですよ」と藤野は笑うが、チーム戦術において、藤野に対する要求の度合いは格段に上がっており、対戦相手のマークも厳しくなっている。

 そうしたなかでも、高い存在感を示している藤野。彼女の状況把握力、そこから導き出されるキーパス、力技でもゴールまで持っていく局面を見せつけられると、つい彼女の年齢を忘れてしまいそうだが、先日20歳になったばかりだ。

「今、ハマってるんです」とお気に入りのグミのよさを熱弁し、晴れて免許を取得し車に「祖母を乗せることができた!」と微笑み、新しいヘアスタイルを先輩選手たちから程よくイジられている姿は、等身大の20歳の若者である。

 本音を言えば、自らを取り巻くいくつものプレッシャーを楽しむ余裕など、彼女にはないかもしれない。それでも、藤野は「楽しまないと! WEリーグはそういう楽しい場所であってほしい」と言って、顔をほころばせる。

"得意"を増やすために、今日もシビアにボールを蹴る藤野。これからももがきながら、彼女はあらゆる可能性をモノにしていくに違いない。

(おわり)

藤野あおば(ふじの・あおば)
2004年1月27日生まれ。東京都出身。日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属のFW。2022年U−20女子W杯で日本の準優勝に貢献。その直後になでしこジャパンに招集され、2023年女子W杯に出場。グループステージのコスタリカ戦では、男女を通じて最年少記録(19歳180日)となるW杯ゴールを決めた。

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