ラブライブ!、プリキュア手がけるアニメーター・斎藤敦史 キャラを魅力的にするデザイン論

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2024年02月25日 08:00  リアルサウンド

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■話題作のキャラクターをデザイン

 2020年に『ラブライブ!スーパースター!!』のキャラクターデザイナーを担当し、数々のかわいらしいキャラクターを手掛け、その人気を牽引するアニメーターになった斎藤敦史。『ラブライブ!スーパースター!!』は今年10月から、第3期の放映が決まっている。


 斎藤は、女児向けアニメの金字塔『プリキュア』シリーズの第20作目として放送された『ひろがるスカイ!プリキュア』でもキャラクターデザインを手がけ、話題を席巻した。そして、今年7月に放送されるアニメ『小市民シリーズ』でも、キャラクターデザインを手掛けることになっている。


 まさに、今もっとも旬なアニメーターの一人といえる斎藤に独占インタビュー。新卒で入社した京都アニメーション時代のエピソードから、人気作品のキャラクターデザインの方法論まで、濃密に話を聞いた。


 


■子ども時代は無類の漫画好き

――斎藤先生は熊本県の出身だそうですね。


斎藤:はい。僕は熊本県熊本市の出身で、兄2人の3人兄弟の一番下でした。兄たちが買ってきた漫画を、小学生の頃からジャンルを問わずいろいろ読んでいたのですが、なかでも『こち亀』や『ブラック・ジャック』が好きでしたね。「ジャンプ」も購読していたので、『ダイの大冒険』の最終回と『こち亀』の1000話が同じ号に載っていたのは覚えています。漫画に対して、アニメはそこまで見ていなかったですね。いわゆるオタクの深みに入ったような。深夜アニメに触れたりはしていませんでした。


――どちらかといえば漫画好きなのですね。


斎藤:というより、基本的にゲーム好きで、「ファミ通」などの雑誌も買っていましたし、家では格ゲーをよく遊んでいました。冬目景さんの絵が好きで、1999年に出た『ギガウイング2』のキャラクターデザインも好きでした。とはいえ、学生時代はイラスト一辺倒ではなく、幼稚園から小学6年までサッカー、中学で軟式テニス、高校で硬式テニスをやっていたので、インドアとアウトドアのバランスがいい感じの学生生活だったと思います。


――10代の頃はそれほど絵を描くことはなかったのでしょうか。


斎藤:記憶に残っているのが、『すごいよ!マサルさん』の作者、うすた京介先生の短編『エト』という漫画を模写しようとしたことがあるんです(笑)。しかも、まるまる1本、模写しようとしていました。トーンとか画材のことは知らなかったので、その部分は手描きで頑張ったりして。あとは、ノートに落書きをしたりする程度ですね。高校までは美術系の学校に通っていたわけではないので、デッサンやクロッキーなどの専門的なことをやった経験はありません。


――『エト』は私も読んだことがありますが、相当マニアックな読切だと思います。


斎藤:純粋に面白かったんでしょうね。漫☆画太郎先生の『珍遊記−太郎とゆかいな仲間たち−』なども読んでいましたね。アニメより漫画をよく読んでいて、少女漫画から少年漫画、青年漫画、BL漫画やレポ漫画、古いものから最新作まで面白い漫画は手広く読んでいます。


――斎藤先生が関わっているアニメと、作風がかけ離れた作品も多いですね(笑)。でも、かなりの漫画好きであることがよくわかります。


斎藤:創作系の同人誌即売会の「コミティア」にサイレントで出たりするほど、漫画は好きです。結局、多忙すぎて実現しませんでしたが、以前に漫画編集の方から読切のお誘いをいただいたこともありました。


■大学で本格的にアニメに触れる

――大学では映像学科に進まれたそうですね。入学の動機は何だったのでしょうか。


斎藤:高校生の時によくゲーセンに通っていて、ビデオゲームのCGに触れて興味を持っていたので、その方向に進みました。1〜2年次は10人未満ぐらいのチームを組んで実写の短編映画を作らされたりするのですが、3年次からコースが分かれます。そのときに仲の良かった友人がアニメのコースに行くと言っていたので、あまり考えなしについていったんです。


――アニメの道に進んだのは、そのご友人の影響なのですか。


斎藤:そうですね。その友人には、僕があまりにアニメを何も見ていなかったので、作品をすすめてもらいました。コースに進んでからは、クロッキー帳に人体の練習をしたり、当時見たアニメの絵を描いたりしたのは覚えていますが、今の絵柄とはまったく違うものです。他には、あまり基礎的な勉強をやったことはないかな。そもそも、大学のアニメの先生はあまり詳しいことを教えてくれなかったんですよ。期日までに課題を提出すれば、あとは放任主義でした(笑)。


――そんな(笑)。


斎藤:5分か10分くらいの映像作品を3人チームでつくりましたが、アニメのセル画の重ね方、原画や動画の違いなども、ぜんぜん知らなかったほど。レイアウトのあとに原画や作監を飛ばして、いきなり本番用の動画を描き出したりするくらい。よく言えば、学生の自主性を大切にした環境だったと思います。


■京アニ入社は友人の影響!?

――そして、斎藤先生は2008年に京都アニメーションに入社されますよね。2008年といえば、伝説のアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』が大ヒットした翌年です。京アニを志望した動機もやはり『ハルヒ』などの作品にあったのでしょうか。


斎藤:アニメのコースに導いてくれた友人のひとりが京アニの社長の講演会に行き、「あの社長はしっかりしているわ〜」と言っていたので、僕はその発言を信用してすっと受け入れ、試験を受けようと思ったんです。お恥ずかしいことに、実はそこまで京アニの作品を見たことがなかったんですよ。


――それなのに、入社試験を受けたんですか。ご友人への信頼度が絶大ですね(笑)。


斎藤:入社試験は一次選考、二次選考がありました。一次選考では履歴書とかの他に、剣で斬りかかっている人とか、椅子に座って本を読んでいる人などのお題を描いたのかな。二次選考は面接とかポートフォリオを持参して見てもらう感じです。僕はポートフォリオがスカスカすぎたので、行く前日、クロッキー帳にペンギンやカワハギなどの動物の絵を描いて持っていきました。


――土壇場でいろいろ揃えた感じですね。あの頃は、京アニ作品が毎年のようにアニメ界隈の話題を席巻していたので、入社希望者も多かったと思います。そんな激戦を勝ち抜いた斎藤先生の凄みを感じずにはいられません。


斎藤:いえ、画力は他の人たちと比べてもぜんぜん劣っていたと思うので、真面目そうなイメージで採用してもらえたのかなと。作画で入社しましたが…… お情け枠だったんじゃないでしょうか(笑)。


■今だから語れる京アニ時代の秘話

――いえいえ、どんなことはないと思いますけれど(笑)。ところで、京アニの中で影響を受けたアニメーターはいらっしゃいますか。


斎藤:初めて入った会社なので、木上益治さんをはじめ、関わった全ての人に影響を受けたと思います。僕が『けいおん!』の原画をやっていたときに西屋太志さんが作画監督をやってくれていて、退社後もよく交流していました。それが後で『聲の形』に参加することにつながりました。


――在籍中に受けた、印象に残っているアドバイスなどはありますか。


斎藤:確か、動画検査をやっていた中峰ちとせさんがおっしゃっていたと思うのですが、「絵を見られるのを恥ずかしい」と言っていた人に対し、「これから全世界の人に見られるのに、恥ずかしいとか言っていたらダメだぞ」と声をかけていたのが印象に残っています。あとは、どなたが言っていたか記憶があやふやですが、「役割が違うだけで役職には上下がない」という言葉もずっと心に残っていています。つまり、「原画に上がる、という表現をするな」と。動画は決して下の役職ではなく、キャラクターデザイナーや作画監督などと同列であり、どっちが偉いとかは無いという考えですね。


――素晴らしい言葉ですね。


斎藤:そうなんです。京アニでは仕事に向き合うための意識を学びましたね。自分自身もっと実践していきたいと思っていて、だから私は「先生」と呼ばれたくないんです。あくまでも「先生」という上の立場ではなく、自分はどこにでもいる普通の人だという感覚でいたいので(笑)。


――失礼しました。これからは斎藤さんと呼ばせていただきます。さて、斎藤さんは京アニに2年ほど在籍したのち、退職されていますね。


斎藤:京アニを辞めたのは前向きな理由も大きいです。基本的には京アニの仕事に専念していくことになるので、外の仕事を受けることはできないわけです。だんだん外部の、特に東京の仕事もしてみたいと、欲が出てきてしまったんですよ(笑)。


■キャラクターデザイナーに抜擢

――斎藤さんは着実に実績を重ねてキャラクターデザインに抜擢されるようになりました。キャラデザに関する考え方や、こだわりはありますか。


斎藤:原画の仕事が長かったので、キャラデザはできる限りアニメーターが描きやすいものにしたいとは思っています。線を一本、なぜそこに入れたのか説明できるような絵が描きたいですね。一枚絵のイラストとは違って動かすことを意識し、動きの邪魔になるものは、極力排除したいというか。でも、そういった点は僕だけの意志で決まるわけではなく、発注の段階から線を少なく動かしやすくしてほしいとは言われるんですよね。最近は業界の人手不足が極まっているので、様々な事情があるのかもしれません。


――『ラブライブ!スーパースター!!』のデザインを初めて見たときを覚えているのですが、従来の室田雄平さんが築いてきたシリーズの雰囲気を活かしつつ、斎藤さん流の新しいエッセンスが入っているなと感じました。


斎藤:『ラブライブ!スーパースター!!』は室田雄平さんの原案が最初にありました。室田さんの絵柄を尊重しつつ、より描きやすくするために線を少なくしたいというオーダーがあって、バランスを取ろうとした結果、今のデザインになりました。僕は、中間管理職とでもいうのか(笑)、人から「バランスを取るのがうまい」と言われることもあります。ある程度の約束や決まりを守りつつ、自分の個性を出していくのが僕のデザインのやり方です。


――デザインをシンプルにしていく作業は、口で言うのは簡単ですが、いざ始めると骨が折れますよね。


斎藤:線が多いと原画担当がしんどいというのはわかっているので、できれば減らしたい。でも、シンプルにしすぎると華やかさが無くなるし、パっと見た時の線の情報量が弱くなるので、難しいんですよ。例えば、室田さんの原案では制服のスカートにプリーツが結構多かったり、影やハイライトが繊細だったりといった特徴があったので、そこは自分のやりたい方向や線数とのバランスを取りました。キャラを印象付ける目と髪の情報量は保持したいというオーダーがあったので、そこは維持しつつ、情報の抜き差しをしていきました。


■シンプルな中にどう情報を盛り込むか

――斎藤さんの絵は構図も印象に残ります。僕が好きなのは『ラブライブ!スーパースター!!』の声優ユニット、Liella!の2ndライブツアーの絵で、傑作だと思います。


斎藤:もともと一枚絵を描くことに苦手意識があるのですが、いざ描き始めるときは時間軸を考えるようにしています。アニメーションの中では強制的に時間が流れますし、漫画もページが進むと時間が流れますよね。でも、イラストは1枚なのです。その中にも僕は前後の時間を盛り込んで、描かれたキャラクターがこれまでどんなやりとりをしてきたのか…… と、枠外を想像できるような内容を描くことが多いです。


――確かに、背景にある小物などを見ると、Liella!が歩んできた歴史がわかりますね。改めて、作品のエッセンスが凝縮された素晴らしいイラストだと感じます。


斎藤:ありがとうございます。僕はシンプルな絵を好みつつ、動きの方に重点を置いた絵を描いていたので、キャラクターを描くのに不向きな人と周りからそういわれていたんです(笑)。昔とあるプロデューサーさんにも、キャラデザの方向ではないですよねと言われていました。そんな僕がいろいろなデザインをやっているのは、自分でも不思議だなと思うことがあります。


――斎藤さんがデザインされた『ひろがるスカイ!プリキュア』のデザインは、前作と比べるとだいぶすっきりしている印象を受けます。


斎藤:『ひろがるスカイ!プリキュア』は、線は少なくしたいけれど、見栄えの華やかさは過去の作品と見劣りしないようにしてほしいなどの要望をいただきました。既にお話したように、ずっと近くで見られるグッズになることを想定すると、シンプルにしすぎるとぱっと見のインパクトが弱くなってしまう気がするんです。その中間を縫って、最終形にもっていくのは大変でしたね。漫画などの原作がない、ゼロイチのコンテンツだったからこそ可能だったのだと思います。


――『ラブライブ!』と『プリキュア』では対象年齢が違うわけですが、デザインの描き分けはどのようにしていますか。


斎藤:『プリキュア』は就学前の子どもが視聴者のメインなので、目などを視認しやすく大きめにして、身体から露骨なセクシーさは排除する方向にしました。でも、僕にとってはもともとの絵柄に近いので、それはありがたかったですね。キュアスカイも肌の露出が多かったりはしますが、足を細くしたりとか、よりデザイン的で記号的な絵にしようとしました。一方、『ラブライブ!』の方はシリーズとしてファンの方々がイメージする絵があると思うので、パーツなどでもその点のこだわりを拾っていっています。


■次はどんな作品を手掛けるのか

――斎藤さんは現在も膨大な仕事量を抱えておられますね。今年も話題作が目白押しです。


斎藤:昨年は『プリキュア』をやりつつ、『ラブライブ!』もやるといった具合に、ベクトルが違うものを並行してやっていました。仕事に向き合う姿勢は若干真面目寄りですが、根本的には怠け者なのでだらっとしていたい。でも、気を抜くと仕事を受けすぎてしまうので、自己マネジメント能力が高い人に憧れますね。仕事ばかりになりすぎるとアウトプットばかりになってしまうので、何か新しいことに興味を持ったり色んな経験をしなければいけないなと思います。


――怠け者と言っているのに、仕事はたくさん受ける。いったい斎藤さんはどっちなんですか(笑)。その大変さを紛らわすような趣味はないのでしょうか。


斎藤:趣味的な絵を描きたいです。アニメにしても自主制作的なものだったりとか、今は平面構成的な絵も描いてみたいです。最近は仕事一辺倒なので、趣味の絵を描かなくなると仕事の絵も固くなってしまうので、どうしたもんかな…… と思います。絵のようなものを製図しているような感覚になってしまうこともあるので、もっと感情的というか、表面的でない絵らしい絵を描けるようになりたいです。


――仕事でも趣味でも絵を描いてしまう、やっぱり斎藤さんも生粋のクリエイターですね。今後はどんな作品を手掛けていきたいと考えていますか。


斎藤:ありがたいことに、大きなシリーズ作品に連続でかかわらせて頂いているので、これから何か関われるとしたら、どういう方向になるのかは自分でも気になります。基本的には需要があって依頼をいただいて、初めて仕事が産まれるので、何かこれが合うのではと思ってもらえるものがあればアニメでもそれ以外でも、色んなお仕事もやってみたいです。これまでアニメーターをやってきて想定外の仕事の連続でした。これからかかわる仕事も、不測の事態ごと楽しんでいけたらいいなと思っています。


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  • もともとフリーランスの多い業界だけど京アニは社員制を敷いてるから社員のままだと「自分のやりたいように自由に活動できない」縛りもあって脱サラしたのかな。
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