要介護1の実母と「近居」、こんなに辛いとは。「最終的に子どもに頼ざるを得ない生き方」に違和感

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2024年02月25日 22:11  All About

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パートナーとも別居婚を貫く40代女性は、要介護1の実母が自宅の近くに越してきてから毎日の食事作りや介護に加えて母の不機嫌に振り回される日々。自分自身の生活を阻害されていると感じるのは冷たいのだろうか。
介護問題は誰にとっても他人事ではない時代。親とずっと一緒にいたわけではない多くの人たちは、介護に直面してから、親との関係を再構築しなければならない。それが実は大変なのだと言う人もいる。

同居ができないから選んだ別居事実婚

「大学進学で東京に出てきてから就職、30歳までひとり暮らしでした。その後、今のパートナーと同じマンションに住むようになりましたが、やはり基本はひとり暮らし。お互いに仕事を中心にした生活をしたかったから」

ユウカさん(43歳)はそう言う。同じ空間で人とずっと一緒に過ごすのがつらいと思う人もいる。ユウカさんもパートナーも似たもの同士だったから、別居事実婚のようなところに落ち着いた。

「結婚という生活環境ではなく、恋愛感情ありきの関係。だからどちらかの部屋で過ごすこともあるけど、またひとりきりになって仕事をしたりくつろいだりする。そういう生活パターンがふたりとも好きだったんです」

ところが4年ほど前、父が亡くなり、兄一家が実家に乗り込んできた。母のひとり暮らしが心配だから同居してあげると言われたようだ。ユウカさんは電話でその話を聞いて反対した。

「兄とも兄の妻とも、母は折り合いが悪かったはず。だけど一人きりになった母は寂しかったんでしょうか、兄一家を家に入れてしまった。そして案の定、うまくいかなくなって体調を崩して入院したんです」

四半世紀ぶりに親と近距離別居

ユウカさんが見舞いに行くと、姪が心配そうに「このままじゃ、おばあちゃんがかわいそう」と言った。どういうことなのと詳細を聞くと、「おばあちゃん、ごはんもひとりで食べてる」「家族で外食するときも、ママはおばあちゃんには声をかけないんだよ」と言われた。

「兄を詰問しましたが、適当にはぐらかされた。母が退院するタイミングで、うちの近くに越してきてと頼みました。母もさすがにもう息子一家と暮らすのは無理だと思ったんでしょう。自分の財産だけもって私の住むマンションの近くに越してきました。

当時、母は70代前半でした。年をとると環境を変えないほうがいいと言われているけど、まだ若いし大丈夫だろうと思ったんです」

実家はそのまま兄一家が住んでいた。いっそ家を売ればと勧めたが、母は兄一家が文句を言ってくるに違いないからぶつかりたくないと言った。

「同居ではないけど、ほぼ四半世紀ぶりに母とごく近くに住むようになりました。そうなればなったでいろいろ問題が出てきて……」

コロナ禍で一気に体力が落ちて

当時はコロナ禍に入ったばかりで、環境が変わった上に、母は出歩くこともままならなかった。

「私はほぼ在宅ワークとなりました。心配になって母のところに訪ねていくと、1日中、ぼんやり座ってテレビを見てる。地域のこともまだわからないから、散歩にでも行こうと誘っても動かない」

そうこうしているうちに、足腰が弱っていく。ユウカさんはそんな状態が心配になったが、母は「生きる気力」を失ったように見えた。

「やる気のない人間をどんなにせっついても無理なんだなと思いました。地域でこんなイベントをやってるよ、こんなカルチャーセンターがあるよと教えても腰を上げないんですから、なすすべなしという感じだった」

人生で初めてひとり暮らしをした母は、どう生活したらいいかわからなくなっていたのだろう。ずっと「人のためだけ」に生きてきた人は、自分のために生きる術を見失っているのかもしれない。

「越してきて1年足らずで、母は脳梗塞を起こして入院しました。見舞いにも行けない中、なんとか後遺症もなく2週間ほどで退院できたんですが、帰宅してもやはりあまり動こうとはしませんでした」

病院から地域包括センターにつながっておいたほうがいいと言われ、介護認定を受けたところ要介護1と判定された。

「最近ではテレビをつけているけど、見ているのかどうかもはっきりしないことがあります。あんなに読書家だった母が文字も読まなくなった。私と会話したいみたいなんですが、私は仕事で母だけにかまっていられない。

『あんたはいいよね』と私の生活に嫉妬したり、『もう生きていても意味がない』とも言う。デイケアに行く予定も決めたんですが、いざとなると具合が悪いと言って行かない。ケアマネさんにも、どうしたいんですかと聞かれる始末です」

基本的に食事はユウカさんが作り、母のところで一緒に食べるようにしている。だが、仕事が忙しいときは、母にせめてご飯くらいは炊いてと言い置き、作り置きの惣菜などを並べておく。

今は特にどこが悪いわけでもないのだが、母は自分のためだけの食事を作ることに抵抗があるようだ。だからご飯を炊いて、漬物くらいですませてしまう。

「このままだと栄養失調にもなりますしね。自分の人生、自分の生活をどう考えているのか聞こうと思っても、もういいよと言うばかり。それでいて自分の若いころの話を聞かせたりする。

とにかく私が相手をしないと不機嫌になるんです。医師の判断も再度仰ぎましたが、認知症というわけではない。ただ、母の孤独感がうつ状態にさせているんだろうと」

そう言われてもユウカさんが仕事をやめるわけにはいかない。母の賃貸マンションも基本的にはユウカさんが支払っているのだ。

「私が疲れてきました。ヘルパーさんにも来てもらっていますが、基本的に母は社交的ではないので、なかなか人間関係が築けない。そんな状態が続いています」

最終的に子どもに頼るのは「間違っている」

人生、何があるかわからないし、最終的に子どもに頼らざるを得ない人生になるのは「間違っていると思う」とユウカさんは言う。

「親はどうしたら子どもに頼らないで済むかを考えるべきですよね。冷たいようだけど、私は私の人生、まだ夢も希望ももっている。それを母に阻害されているような気がしてならないんです」

兄一家と一緒にいるのがつらいだろうと救い出したつもりだったが、母は結局は幸福ではないのだろう。そもそも自分の身近に引っ越しをさせたことが間違いだったのか。もっと一緒に過ごす時間をとるべきかもしれないが、それはむずかしい。

実は日常に幸福を見いだそうとしない母親に問題があるのかもしれない、いや、そう考える自分は冷たすぎるのではないか。ユウカさんは毎日、揺れ動きつつ密かに自分を責め続けている。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
(文:亀山 早苗(フリーライター))

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  • 「親の世話して当たり前」の時代に生きてきた人にそういう意識があるのは仕方あるまい。 1人の生き方を模索してこなかった点は本人の過失かなぁ。
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